「それだけのこと」にできなかった夜
あの日、帰国予定の便が欠航になった。
それだけのことにできれば良かったのかもしれない。
幸い他の便に乗ることはできた。
羽田便だった。
──関空に帰りたかったのに。
状況的には、日本に帰って来られただけで
ハナマルだった。
でも私の頭の中はひたすらジタバタしていた。
なんとか帰宅しないと。
明日は出勤。
羽田に到着したのは夜。
ここから東京駅に向かっても、もう新幹線は間に合わない。
夜行バスも満席。
それでも、気持ちの焦りは収まらなかった。
これは責任感なのか?
もっと違う何かなのか…?
東京で一泊するしかない。
会社には連絡を入れたし、もう焦ることもないのだから。
表面の一番薄っぺらいところでは
そう思っていた。
思おうとしていた。
翌日、関西に向かう駅のホーム。
日本の湿気はしんどいな…なんて
旅の余韻に浸りながら新幹線に乗り込んだ。
その車内で、私は気分が悪くなって倒れた。
初めての経験だった。
体のほてり。血の気が引く感じ。
病院では異常はみられず、
疲れだろうと判断された。
確かに帰国直後だから疲れてはいたと思う。
でも、本当にそれだけ?
前夜の、あの気持ちのジタバタを思い出す。
「仕方ない」と言い聞かせる声と、
それでもどこかで踏ん張り続けていた何か。
どうにもならないことだとわかっていたのに、
手放すことができなかった。
手を離せばいいだけのものを、
ずっと握りしめていた。
