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どうせ誰も気にしてない”と思ってた私を、覚えていた店員がいた

 ごくたまに立ち寄るチェーン系の喫茶店。
正直、店員の顔なんてまともに見たこともなかったし、どうせ向こうもこちらを「客A」扱いだと思ってた。

 でも今日、入ってすぐに店員から声をかけられた。

 「財布、見つかりましたか?」

 ――一瞬で、過去の記憶が逆流する。
数週間前、ここで財布を落としたかもと青ざめて探し回った日。
店員に「落とし物は…」と聞いたときの、あの空気感。
まさか、そんな出来事を、向こうが覚えていたとは思わなかった。

 店員は「気になってたんですよ」と、さらっと言う。
この手の“やさしさ”、SNS時代の表層だけのコミュニケーションに慣れきった人間からすると、逆に刺さる。
チェーン店だし、スタッフもたくさんいる。偶然の再会――それでも、私の存在が一回限りの“消費”じゃなかったという現実が、じんわり来る。

 「どうせ誰も、私のことなんか覚えてない」
――そう決めつけていた世界で、まさか自分の“小さな事件”を覚えてくれていた人がいた。

 今日、この喫茶店の意味が変わった。
ただの「昼ごはんの場所」から、「誰かの記憶に引っかかる場所」になった。
また来ようと思う。
今度は、名前も覚えてもらう側に、もう一歩踏み出してみてもいいかもしれない。

 “やさしさ”って、ドラマみたいな劇的な形じゃなくても、
こうして静かに、でも確かに届く。

 たまに来るだけの私を、覚えていた人がいた。
偶然っていうより、奇跡に近いかもしれない。
でも、そういう小さな奇跡を、
「当たり前」だなんて、もう思えなくなった。

 きっとまたこの喫茶店に来るとき、
今日の“やさしさ”を思い出すだろう。

世界は思ったより、悪くないのかもしれない。


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