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【ランニング・エコノミーの科学】|カーボンプレートシューズは、坂道でも効くのか?

ランニング・エコノミーの科学 第1号

クロスカントリーやトレイルの試合前、選手から「この大会、厚底のカーボンで行っていいですか」と聞かれたら、何と答えるだろうか。平地のトラックやロードなら、答えは難しくない。ここ数年で、カーボンプレートシューズが平地のタイムを縮めることはほぼ決着がついている。だが、コースに上りが多いとき、その「得」がどこまで残るのかは、現場でも意外と答えにくい。坂を駆け上がる選手の足元で、あの反発は本当に効いているのか。今回紹介する研究は、その問いを勾配ごとに測りにいった。

ここでいうカーボンプレートシューズは、専門的には AFT(advanced footwear technology、先進的フットウェア技術。厚いPEBA系ミッドソールに湾曲したカーボンプレートを挟んだ構造)と呼ばれる。平地走では、ランニングエコノミー(同じ速度で走るときの酸素消費量。低いほど「燃費が良い」)を約3〜4%改善することが分かっている。利点の源は、ミッドソールと腱がバネのようにエネルギーを蓄えて返す弾性機構にある。ところが上り坂では、身体の重心を持ち上げる仕事が増え、このバネの相対的な貢献は下がる。だとすれば、勾配が急になるほどカーボンの恩恵も目減りするはずだ——これが研究チームの立てた仮説だった。

リーズ大学(英国)のAskewらは、競技レベルの男性ランナー12名(平均21歳、5kmは18分未満が選抜条件)を対象にした。トレッドミルを時速12kmに固定し、勾配を0・3・6・9%の4段階に変えて、酸素消費量を測っている。履き比べたのは2足。カーボンプレートを内蔵したNike ZoomX Vaporfly Next%(VF)と、同じZoomX素材だがカーボンを持たない柔軟プレートのZoomX Streakfly(SF)を対照に置いた。靴順・勾配順はランダム化した被験者内クロスオーバーで、その場で履き替えて測る急性効果の設計である。

結果は仮説どおりの方向に出た。ランニングエコノミーの利得は、平地で最大の約4.2%。それが3%勾配で2.4%、6%で1.05%、9%では0.52%まで落ちた。統計的にも、VFが有意に優れていたのは平地(差 約1.64 mL/kg/min, p<0.001)と3%勾配(p=0.018)まで。6%と9%では両者に有意差がなかった。勾配が1%急になるごとに利得はおよそ0.42ポイントずつ削られていく(−0.42%/%勾配, p<0.001)。指数モデルに当てはめると、利点は中程度の勾配を超えるとほぼ消える計算になる。ただしモデルの説明力はR²=0.23と低く、個人差はかなり大きい。

ここが面白い

この研究を読みながら、私が気になった点を2つ挙げておきたい。
ひとつは測定環境。今回はトレッドミルでの統制された測定で、ここは長所だ。一方で、実際のロード走やトレイルでは接地時間が短くなることが知られ、弾性機構の効き方も変わりうる。坂道で同じ数字が出るとは限らない。
ふたつめは接地パターン。上り走ではforefoot(前足部)接地に移りやすく、これがプレートのテコ機構由来の利得を削る可能性があるが、本研究は接地様式を統制していない。

明日から使えるヒント

結論はシンプルだ。平地〜緩い上り(3%程度まで)が主体のコースなら、カーボンプレートシューズの恩恵は現実的なサイズで残る。一方、6%を超えるような上りが大半を占めるコース——急峻なクロスカントリーや山岳レース——では、カーボンを選ぶ理由は燃費の面からは薄くなる。むしろ軽さやグリップ、足首の安定を優先する判断が合理的になる場面がある。
つまり「坂が多いコースではカーボンの優先度を下げてよいのか」という判断軸を、コーチが選手に提示できる材料が一つ増えたということだ。注意したいのは、これは1回測定・男性12名の急性データであり、個人差も大きいこと。チーム全員に一律で当てはめる話ではなく、コースプロファイルと選手ごとの感覚を突き合わせる材料として使うのがよい。

出典と研究の限界

出典
Askew GN, Hill S, Payne M, Stewart TD, Charles D, Brown AP. (2026). Running Economy Benefits of Shoes Incorporating Advanced Footwear Technology Decrease With Increasing Incline and Are Negligible Above Moderate Gradients. Scand J Med Sci Sports, 36(5), e70298. https://doi.org/10.1111/sms.70298

研究費: リーズ大学の内部資金。

利益相反: 著者は利益相反なしと申告している(The authors declare no conflicts of interest)。

読む際の留意点: 男性12名のみの便宜的サンプルで、女性への一般化は著者も不明としている。各シューズ×勾配の条件は1試行のみで、ランニングエコノミー測定の試行間変動には注意が要る。対照のSFはVFより約6.4%軽く(この差は逆にVFの利点をわずかに過小評価する方向に働く)。利得−勾配モデルの説明力はR²=0.23と低く、個人差が大きい。


NotebookLMによる研究の概要

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