とうめい酸素
いつからか、消えゆく恋に心躍ることは無くなった。
フラれては泣いてを繰り返し、大人になってからは飲めないお酒に頼っては裏切られる。
理由はいつだって、明確にあったものではない。
「はあ…今日も疲れた。」
帰宅して玄関扉が閉まると同時に溢れ落ちた言葉。
整えたはずの身なりは、見苦しくも崩れている。
色の薄まったリップ、細かくヨレたファンデ。
アイラインなんて、目尻から消失してる。
全てを投げ出して、頭からお湯をかぶる。
何もかもめんどくさい、となりながらも生きるための術は全部心得てしまっているから恐ろしい。
思考停止で動いていたらしく、気付けば目の前には普段は手に取らないハイボールとコンビニのチキン。
気持ちばかりの緑も出そうか…と私の中の健康天使が顔を出したが、どこ吹く風とふわり飛ばされたようだ。
空きっ腹にアルコールという背徳的な時間の幕開けをすれば、時の流れは瞬間的なものにかわる。
ポチポチとスマホをいじりつつ、タブレットで動画サイトを開いてみたり。
見逃したドラマを視聴していれば、元彼と再会してハッピーエンドを掴んだヒロインの笑顔が焼き付いてくる。
…わたしの記憶はそこで途切れている。
雑に閉めたカーテンから差し込む木漏れ日が休日の朝を知らせる午前11時。
いつ布団に入ったのかすらわからないままに、おもむろにケータイのロックを解除すれば、ぼやけた頭はすぐに覚醒をした。
ー不在着信:3件
登録外の番号、忘れない下4桁。
「この番号、私たちの記念日ですね!嬉しい。」
「偶然にしちゃあ、よく出来たもんだな。」
…あぁ、思い出してしまったようだ。
心にしまっていたはずのパンドラの箱の奥底に眠っていた、琴線の宝物。
現世の便利さには感心することが多いが、相手の優しさが時として痛みと後悔を呼び誘うこともそろそろ学んだ方が良いのだろうか。
新着メッセージが届いています。
ー14時、いつもの場所。
…真っ当な女の子なら、これがどういう意味かなんてわからないだろう。
わたしも、わからない側でありたかったと思ってしまうのは間違いなのだろうか。
たったひと言、ふたことなのに。どうしてこんなにも鮮明に思い出してしまうのだろうか。
ひどい顔をしている、本当は会うのに相応しくない身なりでもある。
幸か不幸か、今日は空白のオフ日和。
外は…彼が嫌いだと言い続けていた快晴。
行く先は一つ、かつてわたしの感情と涙をほんのり染み込ませてきたあの場所。
さよならを告げたあの日に着ていた洋服が、わたしを誘い呼び戻す。
わたしの呼吸は静かに整い始めている。
さあ、向かおうか。
指先に、ロイヤルブルーを添えて。
