ペーパーナイフ⑧〜骨董屋静海〜
「あー骨董屋さん。どうしてここがわかったんですか?
あの謎、解けましたか?」
志野茉莉花が漸を見つめてにたりと笑った。茉莉花の言葉に男も漸を見る。
「た、助けてくれ!あ、あいつが!いきなり刃物を!」
「志野さん、」
「だってぇ、彼がいつまでたっても奥さんと別れてくれないから。
前世で結ばれていたし、あのペーパーナイフだってそうだし。
前世では彼に殺されちゃったけども、今回は私が彼を殺してあの世で一緒になるんだぁ」
「だから!お前とは遊びだって」
「何を言ってるのかわからないわ。私のこと、本気だって言ってくれたじゃない」
茉莉花の顔が変わった。先ほどまでの笑顔が消えて能面のようになった。
彼らの話から漸は容易に想像できた。
彼らは不倫関係だった。きっと、男の安易な言葉を信じたのだろう。
そしてペーパーナイフ。彼女の中の妄想が生まれるきっかけとなってしまった。
前世云々は関係なく、彼女の妄想から生まれた話なのだろう。現実と想像の世界があいまいになってしまった。
「だから、骨董屋さん。あなたは見届けてくださいね。私と彼との最後を!」
茉莉花が手に持っていたナイフを振り上げる。漸はとっさに男の前に立ちそのナイフの刃を手につかんだ。
「店主!」
京本の声が耳に届く。手には液体と熱さが走る。そしてそのあとにずきずきとした痛み。漸は痛みに耐えながらそのまま茉莉花の腹にこぶしを入れた。ウっと声を出して茉莉花は気を失った。
力が抜けた体を漸は支える。そしてそのまま一緒に座り込んだ。
そこからの記憶はあいまいだ。救急車の音が聞こえたとともに男と漸、そして茉莉花は病院へと運ばれた。漸はナイフを握ったために切り傷ができてしまったが、それほど重いものではなかった。一週間もあれば治るほどのものだ。
病院での手当のあと警察の事情聴取になると思ったが、意外にも漸はすぐに解放された。
京本がなにか裏から手を回したのかそれはわからないが、思いのほかあっさりだった。
店兼住居に帰り着いたのは、日付が変わるか変わらないかぐらいだった。
なぜか京本もついてきたのは漸の中では疑問だったが。
「店主ー!よかったよー!僕の寿命縮めないでよー!」
「いや、お前医者だろ。ってかおまえの寿命を縮めたところで絶対に縮まらない」
手に巻かれた包帯をさすりながら京本が言うと、漸はあきれたような声を出す。
このやり取りをできるのが少しほっとしている自分がいる。
それほどまでに緊迫したものだった。
「……彼女たち、不倫関係だったんだね」
「そうみたいだな。あのペーパーナイフは彼女の妄想を膨らませるトリガーになってしまった。前世の話も嘘だった……前世なんて存在しないんだよ」
「じゃあ、あのペーパーナイフはなんだったの?」
漸は手短に同じものを売っている店を見つけたこと、そしてここからは自分の妄想だが、と前置きをした。
「多分だが、不倫相手の男が志野さんの同情をひくためか、話のタネに買ったんだろうな。お前の作品のファンなら不思議な話や変なことには興味を引くネタだったんじゃないのか」
「なんか、僕の作品が悪みたいな感じに聞こえるのは気のせい?」
「それは全くの被害妄想。しかし……」
漸は腕を組み京本の顔をじっと見た。
さすがの京本も漸に顔をじっと見られて少したじろいでいた。
漸はこの数週間疑問だったことを京本にぶつけにかかった。
「お前、なんであの場所にすぐに来れたんだ?
今回のこと、実は彼女が依頼人じゃなくて、別に依頼人がいるんじゃないのか?」
⑨へ続く
