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ペーパーナイフ②~骨董屋静海~

電話があった日、漸は商談のため外出していた。
一応このご時世、固定電話の使用はほぼないが、念のため留守番電話設定にしている。自身のスマートフォンの連絡先は本当に親しい人物しか入れていない。
帰宅後、珍しく留守番電話が光っていたため、再生ボタンを押すと、勢いよく大声が耳に届いてきた。

『店主ー!いつになったら店主のスマホの電話番号を教えてくれるのー!
もう僕も暇じゃないから何度もお店の電話にかけてるんだよ!
これ聞いたら、折り返し僕の電話に連絡頂戴ね!』

名乗りもせずに勢いと一方的な用件で電話が切られた。
漸は大声と電話の内容に頭痛を感じた。 
あぁ、絶対に厄介なことだ。この電話の主のことを頭の中に思い出した。

京本一馬は、京都の病院にいる勤務医だ。そして覆面でウェブ作家として活躍している。
漸と彼の出会いは、この店を下宿代わりに使っていた若者の友人として学生時代に遊びに来たのが縁だ。
病院の勤務医の多忙さもある中、京本一馬は時々漸のもとを訪ねては、なにかウェブ小説のネタがないかと尋ねたり、時々変な客を紹介していく。
そのたびに漸は厄介なことに巻き込まれる。

京本は漸の巻き込まれた事柄やその結果を虚実混ぜてウェブ小説として挙げている。
小説のネタをここで回収しているとしか思えない。

漸はあまり関わりたくないから、自身スマートフォンの番号を教えない。しかし、店に電話が入っているので無視はできない。色々葛藤した結果、渋々電話したが、電話でも内容はわからなかった。

ただ、会わせたい人がいる。
日時はこちらからメールをする、だけで終わった。

そんな回想を思い出していると、注文したアイスコーヒーが運ばれてきた。
それを受け取りながら、漸は改めて自分をここに呼んだ男に目をやった。
漸の向かいには女性と男性ー京本が座っている。
京本は漸の注文した品が届いたのを確認し、両手で頬杖をついてにんまりと笑った。

「店主がなっかなか電話に出ないし、僕の話を聞いてくれないから、この日をセッティングするのにだいぶ時間がかかったよ」

「あの一方的な電話で話を聞いていないになるのなら、俺は俺の常識を疑うぞ」

「やっだなー。ただの軽口だよ」

ケタケタと笑って手を上下に振る。この勢いで足まで上下に振りそうだ。年相応に見えない子供っぽさだと思いながら漸はため息をついた。
隣の女性は少し困ったような顔をして漸を見ている。
初対面の女性に変な印象を植え付けたくはないと思い、漸は女性に向き直る。そして女性を安心させるために微笑んだ。

「隣の医者から何を吹き込まれたのか分かりませんが、私は静海漸と言います。
ありていに言えば古道具屋の店主です」

「京本先生から聞いています。志野茉莉花といいます。京本先生が静海さんはすごい目利きの方であること、そして突拍子もない話にも理解を示してくれると教えてもらい、私の話を聞いてほしくてご連絡してもらいました。」

女性ー志野茉莉花はそう話をした。
その言葉に漸は頭を抱えそうになった。
どうしたらそんな風に話が伝わるのか。この医者はいったい何を彼女に吹き込んだのか。
隣でアイスコーヒーをおいしそうに飲む京本を睨みつけて漸は茉莉花へと向き直った。

「突拍子もない、は話を聞いてみないとわかりませんが。
まずは話を伺いましょうか。古道具屋の私がわかる話ならいいのですが」

漸は営業スマイルを顔に張り付けて答えた。まずは相手の話を聞いてからではないと、この話を進まない。
漸の笑顔に安心したのか、茉莉花は鞄から布に包まれた細長いものを取り出した。

「これが相談したいことに関わりのあるものです。
実は、わたし……前世の記憶があるんです。そしてこれがそれと関わっている。これは、私が前世で使っていたペーパーナイフだったんです」

茉莉花はそう言って布をはどいていく。中から木のナイフが出てきた。
持ち手の部分は細かい装飾がされている。単眼鏡がないと細かい文様まで判明しないが、アールヌーボーのような草木があしらわれている。その中心にはバラがある。バラを取り囲むように草木があしらわれている。
そしてナイフの部分には羽ばたく小鳥たちがあった。

漸は茉莉花の言葉と目の前のペーパーナイフを見て言葉を失った。
そしてすぐに京本を見た。いったいお前は何を持ってきたんだと。
京本はアイスコーヒーを飲む手を止めて漸を見てにやりと笑った。

「ね、店主向けの話でしょ」

③へ続く。

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