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ペーパーナイフ⑤〜骨董屋静海〜

あれから数日。漸はじっくりとペーパーナイフを見つめて考えていた。
傷の具合や使用頻度などを確認するも百年は経っていない。
そして、彼女ー志野茉莉花の話からしてフランス革命やロシア革命などのイメージが浮かんでくる。
しかし、彼女はこれの持ち主は彼氏だと言っていた。

うん?彼氏?

漸はハッとして考えを改めた。そして紙に自身の考えを書き出し始めた。
思考が停滞したときに行う方法だ。どうにも拭えない違和感があった、それはこのペーパーナイフが彼女の持ち物ではないということ。
そこから漸の違和感は始まっていた。
自分の持ち物であればなんとなく話がわかる。

しかし彼女は他人の持ち物が自分の前世につながるといった。
どうも彼女ー志野茉莉花についてきちんと情報を集めないといけない。
その彼氏との関係性しかり、どうしてコミュニティで知り合った人間にこんな変な話をしたのか。

漸は家の電話が置いてある場所に向かい、京本に電話をした。この昼日中だから忙しいと思っていたが、案外あっさりと電話に出た。

「ハロはろー店主ー。何かわかったのー?」

明るい声が耳に届く。漸は手短に志野茉莉花について問うた。ここで京本のペースに乗せられたら話が終わらないからだ。

「あー、彼女のことね。俺も気になったからあのあとコミュニティの中で喋ったんだ。あ、もちろん個人チャットだよ。そしたらあのペーパーナイフはあの時も言っていたけども彼女のものじゃなくて彼氏の祖母が使っていたもの。そしてなんとその彼氏が俺の恋人の会社で働いているだって。世間って狭いよねー」

「お前の恋人のことはどうだっていいが、本当に世間は狭いな。
それで、どうして彼女はあのペーパーナイフを彼氏の家で見つけたんだ?」

「そこははぐらかされたからわからないけれどもねー。あ、もう一つわかったのは、恋人にそれとなーく彼氏のことを聞いて見たんだ。あ、職権濫用とじゃなくてね。そしたらその彼氏、あんまりいい噂を聞かないんだって」

「どう言うことだ?」

「それ以上は教えてくれなかった。でもさー店主、俺思うんだよね。
彼女ー志野茉莉花さん、あのペーパーナイフを使って何かをしようとしているんじゃないかって。それこそ前世の話だって矛盾があるしね」

「彼女からそれは預かっているから、もし何かをしようとしても大丈夫だろうが‥‥。
そうだな、俺も何か嫌な予感がして堪らない。何かこの道具が間違った方向に使われそうだな」

漸はそこで言葉を切った。京本も同じように口を閉した。
漸の頭の中では今の京本の言葉を反芻していた。
前世の矛盾……。そうか、と漸は違和感がわかった。
彼女のいう前世の話は、どう聞いても中世の話なのだ。もちろんこれはあくまで漸の主観でしかない。世界は広いので、もしかしたら別な国のこともある。しかし、これを見たときにどう見ても八十年から長くても百年たっているかいないかの品物。

彼女の言う前世の話とは矛盾が生じる。彼女の言う前世は、どこかの城で恋人が敵になり自身を殺すというもの。どう聞いてもお伽話か最近の流行小説の話になる。漸は自分の考えを京本に伝えると「店主もきづいたー」と笑った声が聞こえた。

「俺も話を聞いたときにそこはすぐにわかったんだけども、あまりにも本当に語るから何も言えなくなったんだよねー。
……ねぇ店主、俺どうも嫌な予感がして止まらないな」

「俺もだ。しかし、現物は俺が持っているから何もできないだろう」

「うーん、それ自体が小道具だったら、何かできないわけじゃないでしょ。
ペーパーナイフ自身は俺たちをだますためのもの、だったりして」

「おいおい、小説家はいやな想像を話をしてくれるな」

「ふふふ、それが性分だからね。何かわかったら連絡するけどもさ、俺の勘ってあたるんだよね」

笑って京本はいやなことを告げて電話を切った。漸は切れた電話を持ちながらため息をついた。
小説家というのは、本当に嫌なことを考える生き物だなと。
しかし、それが本当に当たるなんてことはこの時は知らなかった。

⑥へ続く。


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