ペーパーナイフ⑥~骨董屋静海~
それからまた数日後。この日も漸は珍しく外に出ていた。
天気予報で見る毎日の気温の高さ、体感でやってくる暑さに辟易しながらも、仕事の為外に出ていた。
あれから、志野茉莉花について京本から情報はない。忘れているのか、それとも彼女から接触がないのか。
まぁへんな話と変なものを預かった。ぐらいで考えておこう。と漸は思っていた。いつでも返却できるようにとペーパーナイフは預かった時と同様に丁寧に梱包してある。
いつものように、外での鑑定の仕事を終わらせて骨董屋通りと呼ばれている通りを通っていた時だった。
輸入雑貨などを扱う店の前で、とあるものが気になった。それは志野茉莉花が持ってきた、今自分が預かっているペーパーナイフとよく似たデザインのもの。
『似たようなものってあるんだな、……いや』
漸はショーケースに飾られているペーパーナイフに目が釘付けになった。
似ているのだ。デザインは微妙に違うが、形などはそっくりだ。
ペーパーナイフなのだから、形は同じと思われてもおかしくはない。
しかし、量産品と違い、人が一つずつ丁寧に作るものは微妙に違ってくる。
目の前にあるペーパーナイフは形も酷似しているといっても過言ではない。
漸は気になり、店の中に入る。そしてショーケースのペーパーナイフを見せてほしいとともに、どこからの品なのかなどを聞いた。
店の店主らしき女性は、いきなり入ってきた漸に少し驚いたが、ショーケースからペーパーナイフを出して説明をしてくれた。
これは五十年ほど前の品で、とある職人が作ったペーパーナイフであること。
同じようなものがたくさんあるが、このシリーズはその職人の代表作品とのこと。
『きっと志野茉莉花もここで買ったんだな』
漸は自分の中にあった疑問が氷解していった。きっと京本にネタとして話すため。だれかを謀るため……いや違う。なにか血の匂いがして仕方ない。
漸がペーパーナイフを見つめたまま立っていたため、店主が声をかけてきた。
「あぁ失礼」
漸は軽く謝罪をすると、ペーパーナイフを再び確認をして店を後にした。
本当はいやだったが、漸はポケットから自身のスマートホンを出して京本に電話をする。
『はろはろ店主ー?俺ってすごいね!店主ってなんとなくわかって電話に出たんだから』
「それはどうでもいい。それよりも」
漸は今見つけたペーパーナイフ、自身の中にあった疑問の氷解をしたこと。
そして。
「志野茉莉花、彼女は何かをするんだろう。俺たちの予想が正しかったら」
『……彼女を止めないといけないね』
電話の向こうで京本の声が低くなった。漸もうなずく。
『僕はもう一回彼女に連絡してみるよ。店主にわかり次第連絡するから待ってて』
「あぁ、わかった」
『……ねぇ店主、店主はさ彼女の前世の話は嘘だしても、前世自体は本当にないと思う?』
「この緊急事態になにを言い出すんだ」
突然の京本の質問に少しだけいらだった声を出してしまった。
自体は一刻を争うというのに、この男は何を言い出すんだ。
『ううん、ごめんね。じゃあまずは彼女にDMを送ってみる。
連絡とか彼女の何か情報がわかったら連絡するね』
「あぁ、頼む」
電話を切って漸は先ほどの店に戻り、あのペーパーナイフを購入した。
帰宅後に志野茉莉花から預かったものと比較するためだ。
ちょうど店から出るときに、黒いシャツの男とすれ違った。
高身長の男だった。光の加減で顔は見えなかったが、ぶつかりかけたので漸は軽く会釈をしてその横を通り過ぎた。
相手も軽く会釈をした。そして漸の後ろ姿を見つめていた。
⑦へ続く。
