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子どもと夜ふかしすることで、もう一人の私も眠れた日

「かーかー、寝られない。ソファーに行きたい。」

そう次男が暗い寝室でもぞもぞしながら言い出したのは、夜の十時を過ぎたころだった。胸には大好きなたぬきのぬいぐるみを抱えていて、眠いはずなのに目だけが妙に冴えていた。保育園の頃は興奮して寝られない夜もたくさんあり、その度二人でソファーでしりとりをしたり、お話を小声でする、二人の時間を作っていた。小学校一年生になって、こんなふうに夜のリビングに戻りたいというのはずいぶん減っていたから、私は少し驚いた。けれど、その声を聞いた瞬間、ああ今夜はそういう夜なのだ、とわかった。

ソファーに座ると、次男は当たり前のようにぴたりとくっついてきた。私はその小さな体を引き寄せて、背中をゆっくりさすった。頭を撫でると、次男はぬいぐるみを抱えたまま、少しだけ力を抜いた。

寝静まった家のリビングには、夜更け特有の静けさがあった。洗いきれなかったコップも、出しっぱなしのプリントも、昼間みたいにこちらを急かさない。ただ、時計の針の音と水槽のポンプの音だけが小さく響いている。私は次男の髪に触れながら、その静けさの中で、ふいに自分の昔のことを思い出していた。


ー私は、小さいころ、眠れない夜にこんなふうに誰かに寄り添ってもらったことが、どれくらいあっただろう。

思い返してみても、あまり記憶がない。小学校一年生のころには、もう大人と子どもで寝る部屋が分かれていて、夜八時には寝かされていた。眠れない夜がなかったわけではないと思う。暗い部屋で目を開けたまま、時間が過ぎるのを待っていたことは、きっと何度もあったはずだ。でも、そのそばに誰かがいてくれた記憶は、ほとんど残っていない。

ただ、ひとつだけ、はっきり思い出せる夜がある。

それは熱を出した夜だ。具合が悪いときだけは母のそばで寝られた。熱で足がだるくて、気持ち悪くて、何度も寝返りを打っていた私の足を、母は一晩中、揉むようにさすってくれた。部屋がどれくらい暗かったかも、母がどんな顔をしていたかも覚えていない。でも、しんどい体にずっと誰かの手があること、その安心だけは、今も消えずに残っている。

次男の頭を撫でながら、その記憶が胸の奥からふっと浮かんできた。

ーああ、私も寂しかったのだな、と思った。

母を責めたいわけではない。ただ、あのころの私は、眠れない夜をひとりでやり過ごすことに、ちゃんと心細さを感じていたのだと思う。そのことに、今まで気づかないままでいた。母にも母の事情があったのだろうし、もう終わったことだと思っていた。わざわざ名前をつけるほどの寂しさではない気もしていた。でも、子どもが「寝られない」と言って隣にいる夜に、その小さな寂しさは、まだ私の中に残っていたのだとわかる。


親になってから知ったことがある。子どもが眠れない夜に欲しいのは、たぶん正しい言葉ではない。「大丈夫だよ、寝られるよ」「早く寝ようね」…そういうことではなくて、ただ、そこに誰かがいることなのだと思う。眠れないことそのものより、眠れない時間をひとりで過ごすことのほうが、子どもにはずっと心細いのだ。

だから私は、次男がリビングにいたいと言う夜、「もう一年生なんだから」とは言えない。明日の朝のことを考えれば、もちろん早く寝てほしい。寝不足になれば不機嫌にもなるし、こちらだって翌日は少し大変だ。それでも、眠れない夜に誰かがそばにいてくれることの意味を、私はもう知ってしまっている。

しばらくすると、次男の体の力が少しずつ抜けていった。ぬいぐるみを抱く腕がゆるみ、私にもたれる重さが増していく。呼吸が深くなり、髪を撫でるたび、眠りが少しずつ近づいてくる。

その寝息を聞きながら、今、私が次男にしていることは、もしかしたら昔の自分にもしていることなのかもしれない、と思った。


眠れなかった夜の私。暗い部屋でひとり、時間が過ぎるのを待っていた私。熱のある夜だけ、母のぬくもりに触れられた私。その子に向かって、今の私は「大丈夫だよ、ここにいるよ」と言っている気がした。


親になるというのは、子どもを育てることだけではなく、子どもだった自分にもう一度出会うことなのかもしれない。忘れたと思っていた気持ちや、言葉にならなかった寂しさを、わが子の背中を撫でながら見つけ直していく。そして、見つけたものを、今度は置き去りにしないでいられる。

次男が眠れない夜、私は隣に座る。たぬきのぬいぐるみごと抱き寄せて、頭をよしよしと撫でる。

そうしていると、目の前の子どもだけじゃなくて、昔の私も少しずつ安心していく気がする。


眠れない夜は、しんどい。早く朝になればいいのにと思うこともある。でもときどき、そんな夜は、過去のどこかに取り残されていた小さな自分を迎えにいく時間でもあるのだと思う。

あの夜、寂しかった私が、いまようやく眠れていく。



今回は、実体験をもとにしたエッセイを書いてみました。いかがだったでしょうか?
皆さんも昔の自分に会えるような夜を過ごすことはありますか?
それでは良い夢を。おやすみなさい。

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やえがし|インタビュアー&ライター&PR担当 もし記事を気に入っていただけたらサポートいただけると嬉しいです。 サポートいただいたら、子どもと一緒にお菓子買いにいきます(*'ω'*)