午後4時57分に短編集「28歳」を買った青年。 文学フリマ東京40 初参加記
午後4時半程になると、帰り支度をする店が多くなる。文学フリマは午後5時まで。我々(と言っても二人だが)は最後まで店を開けていた。特に決めていた訳ではないが、新参者が余裕かまして先に上がるとはおこがましい。最後まで店を開けていた。
午後4時57分。身の回りの整理だけをしていたところ、手伝いに来て頂いた安野ニツカさんが一人の青年を呼び込み、短編集「二十八歳」の説明を始めた。
優し気な顔立ちの青年。その世代特有の、社会的なコミュニケーションは取れるけどまだ世間には取り込まれていない、十代や二十代前半の不安定さは何となく影を潜めている。そんな男の子。
ニツカさんとのやり取りはちょっと聞こえていなかった。会話に加わろうと近づいた時、彼が少し困ったような笑顔で言った。
「ぼく、まだ二十六歳なんですよ」
その彼の横顔を僕は忘れないと思う。彼はこれから少しだけいろんなものが見えてきた中で、いろんなことを決めていく。決められないこともあるし、流されることもあるはず。
短編集「二十八歳」を買って頂き、会計を済ませた彼に僕は思わず声を掛けた。言わずにいられなかったのだ。
「良き二十八歳を!」
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当初、合わせて10~15部ほど刷るつもりだった。それをTwitterで書いたところ、猫野ソラさんと安野ニツカさんが「何甘いこと言ってるんだ、コラ。100部刷れ」と怒られた。大阪場所も考え「二十八歳」と「さよなら炒飯!」を合わせて100部刷る。宅配の方が「重いですよ!」と言いながら玄関に置かれた質量を見て即、後悔した。二人をしばらく恨んだ。
フライヤーを作ることにした。これを文学フリマなどでは「無配」と呼ぶらしい。無料配布。無配。株式の世界では企業の業績が悪くなったなどで「配当」が行われない事を言う。「さよなら炒飯!」には株の話もある。「無配です!」て配った小説が株式がらみのお話。なかなかだ。
とにかくその無配に気合を入れた。知って頂ければ最高。キリン×noteで賞をもらった「二十八歳」をまるまる乗せることにした。フックには十分なはず。それと「さよなら炒飯!」の冒頭部分。これも悪くない。B6、8ページを200部。
よく考えると1分30秒で1枚配ることになる。後悔した。

しかし、結果フライヤーは全て配布。本は前日のオフ会合わせて、78部旅立った。
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最初にお礼を言わなければならないのは、既にnoteで読んで頂いているのに買って頂いた方々。今回新編は入っていない。なのに買ってくれる。
みんな「紙になった本がいいのよ」と言う。誰かが「特に山羊は」と言っ
た。むしゃむしゃ食わないで良かったと言うことだろうか。
本当にありがとうございました。
また当日ブースまで来ていただいた方とお話をしていると、通りを行く人が足を止めることが何回かあった。閑散としたブースより誰かがいたほうが良い。お客様とたくさん話すとほかのお客を呼び込める。期せずしてサクラ的な要素を演出して頂けた。
そしてTwitter(X)でたくさんシェア、リポストをして頂いた。これが後で響いて来る。
差し入れもたくさん頂いた。食べきれなかった差し入れをリビングのテーブルに置いておいたら高二男子が食べていた。
みんな、本当にありがとう。
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当日、ビッグサイトでの最初のお客は30代ぐらいの女性。存じ上げない方が「28歳」を買われていった。
頭が痺れてしまった。
同時に、これは今日は会場を廻れないとも思う。自分が作ったものをお買い上げ頂いた時の何か得体のしれないものを逃してはいけない気がする。
本当に申し訳なかった。常日頃応援して頂いている方々が相当数出店されている。全てではなくても廻るつもりだった。それができない。でも、致し方ない。すみません。
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あてがわれたブースの場所は良くなかった。入口からすぐ、会場一番の大通り。大通り、良いじゃないかと思うかもしれない。僕もそう思った。違う。大通りの流れは速い。高速道路や国道を考えてほしい。みんなお目当てのブースに一直線。滞留しない。ほかのブースは狭い路地。誰かが店の前で立ち止まると後から歩く人のスピードが落ちる。そうなると店員がコンタクトを取りやすくなる。僕らは高速道路に露店を広げているようなものだ。振り向きもしねぇ。
しかし、それを打開したのは最終兵器ニツカ。
安野ニツカさんは僕が出店すると決めた時に神速で売り子に手を挙げてくれた。そのニツカさんの営業力は凄かった。聞くと書店員の経験あり。
目の前を歩く方の視線を判断する→滑らかに声を掛ける→無配を渡す。
速足で歩く人にこれは難しい。やみくもに声を掛けても無駄。しかしニツカさんが声を掛けると無配を手に取って頂く率が高い。
もちろん僕もやるのだが、何故か「嚙んだら交代」という謎ルールをニツカさんが発動する。僕は噛みやすいのだ。即、交代させられる。
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「これ読んで来ました」
ニツカさんが配布した無配のお陰で来店される方が出てきた。フックとなる「二十八歳」全文掲載が効いている。
二人組の女の子が来る。一人が「無配を読んで来ました」と言い「二十八歳」を買ってくれた。しばらくしてまた二人が来てくれた。もう一人の女の子も買ってくれる。読んでくれたんだろう。痺れる。
試し読みコーナー、早めに行ったので「お」のテーブル、入口一番近い「コーナー」、手に届きやすい手前に二冊置いた。コーナーだから両辺から目に入ると思ったからだ。
「表紙のデザインがとてもきれいで」
20代半ばの女性。他何人かも言ってくれた。
「さよなら炒飯って何かと思ったよ。何?」
40代男性。
「表4のあらすじが気になって」
20代男性
こちらの方も試し読みから。痺れる。
ブースに立てたpopに反応した方々。

「28歳って何?」
この質問が結構多かった。お買い上げにならない方もこれがフックでお話ができた。
40代後半の男性が質問してきた。僕が喋る。
「10代の悩みって前が何にも見えなくて。20代前半は足元は何とか見えて。でも20代後半って自分の行く末が何となく見えちゃって、そこで結構大きな決断をすると思うんですよ、転職とか結婚とか。それ直接は書いてはないけどそんな事薄らぼんやりと覆う世代だと思うんです」
「俺その頃、グルジアにいたな」
30代後半だろうか。結構長く話しているうちに、何となくこの人書いているんじゃないかと思ったのよ。聞いてみた。何か書いてますか?
下を向きながら、「えっとちょっとだけ、小説とかなんか」
「それ、どこに書いてますか?」
「いや、どこにも出してないんです。ネットとか怖いじゃないですか」
「note、noteなら大丈夫です、noteなら大丈夫、noteなら大丈夫です」
延々説明してしまった。書いてくれれば嬉しい。
noteで知ったという方も多かった。ありがたい。
X(Twitter)からも多かった。これはシェア/リポストをみんなが無茶苦茶たくさんして頂いたからだと思う。本当にありがとう。
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最中、ニツカさんが言う。
「好きな本売るのって、本当に楽しいですね」
あんまり反応しなかった。やばいじゃないですか。そんな事言われたら。ふんふんって聞いて流した。
午後5時。文学フリマ終了のアナウンスがあり、拍手を持って幕を閉じた。その時にニツカさんがまた言いやがった。
「好きな本売るの、楽しかったです」
さっきの26歳の男の子、そして拍手の余韻。感動的になっちまった。
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出店の参考になることも書いたと思う。それを有料にすることもできるが、それはしない。俺にとってそれは文学じゃないからだ。
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文学フリマ大阪13 – 2025/9/14(日)にも出店します。次回は鳩先生と一緒のテーブルのはず。よろしくお願いします。


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