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「草炎水」三すくみのルーツを探る

『ポケットモンスター』には様々なタイプ(属性)が存在する。1作目から15種類というのはやや過剰気味だと思うのだが、その中でもいわゆる「御三家」の属性である草・炎・水の三すくみは、最も基本であるかのように扱われる。

水は炎を消し、炎は草を燃やす。ここまでは常識的だが、「草は水を吸い取るから強い」というのにはやや飛躍が必要だと思われる。今となっては他社製のゲームでもよくある分類なのだが、当時としてはまず「草(植物)」が、炎や水と並ぶ属性として扱われた例は極めて稀であった。

確かに植物系モンスターという概念は一般的だが、固有の属性を持っているケースは少ない。まして植物属性の攻撃手段が(炎のブレスや津波などのように)属性扱いされていた例は、ポケモン以前では聞いたことがない。たとえば『ファイナルファンタジー5』における「地形」アビリティでは、森の力を借りたブランチアロウ(枝の矢)やツタ地獄、木の葉乱舞といった技が存在するが、いずれも無属性や風属性である。

そもそも「三すくみ」という発想はじゃんけんなどでありふれているように見えて、意外とRPGでの採用は多くない。おそらくバランス調整が難しいのだろう。たとえば『ファイアーエムブレム』でも三すくみが初めて導入されたのは、発売で言えばポケモン以後である『聖戦の系譜』(1996年5月)からである。

【五行思想】

木火土金水の相生と相克。植物絡みの相性としては真っ先にこれが思い浮かぶ。水は木を育み、木は燃えて火になる。そして水は火を消す。抜粋すると三すくみのようなものが見えてくる。

とはいえこれは思想的な要素が強く、伝奇小説などでも「木」そのものを攻撃手段にする例は見たことがない気がする。有名な『封神演義』(ここでは原作小説のこと)でも、攻撃手段として用いられるのは五行よりもむしろ四大(地水火風)であり、特に火や風による攻撃(わざわざ「これはただの火ではなく地水火風の火だ」とか宣言しがち)が多く見られる。

背景としては道教(五行)と仏教(四大)の世界観が混淆しているからのようだが、とにかく「木を攻撃に使う」という発想は歴史的な文脈では見られないのだ。

【マジック・ザ・ギャザリング】

植物シンボルを採用したゲームとして真っ先に出てくるのは、トレーディングカードゲームの『マジック・ザ・ギャザリング(MTG)』である。発売は1993年。日本語版が発売されるのは1996年だが、早い段階から英語版が輸入されてきた。

MTGにおいて、白(太陽)・青(水)・黒(ドクロ)・赤(炎)・緑(木)の5つの「色」がシンボルとして表されている。このうち、特に思想色の強い白と黒を除外した3色をモチーフにして最初のポケモンをデザインしたとも考えられる。

ただし、MTGには「すくみ」の概念はない。友好色や敵対色という概念(隣り合う色が友好、離れた色が敵対)はあるが、一方的な関係ではない。また、木のシンボルである緑だからといって植物系だけとは限らない。たとえばエルフや熊、ワーム(大長虫)なども典型的な緑のクリーチャーで、津波やハリケーンといった自然現象も緑の領域なのだ。

MTGにおける緑の源流は、RPGの原典である『ダンジョンズ&ドラゴンズ』におけるドルイドで、動植物や自然現象を操る術師である。植物との繋がりは深いが、それだけに特化しているわけではない。

以上を踏まえると、ヒントの一つにはなったかも知れないが決定打ではないような気がする。

【イラスト魔法大戦(マイコンBASICマガジン)】

通称「ベーマガ」と呼ばれるパソコン雑誌の読者投稿企画。いきなりマイナーなものを出して恐縮だが、そもそも田尻智はベーマガの読者でありライターとも親交が深かった。この企画を知っていても不思議ではない。

おそらくポケモンの直接の発想元はこちらだと考えられる。「火」「木」「水」の三すくみという構造はまさにポケモンそのものである。

詳しくは上記サイトを参照。1994年4月号からスタートした企画のようで、ポケモンの開発時期とも重なっている。ポケモン自体の企画は1990年ごろから動いていたようだが、いわゆる「御三家」や草タイプの登場は比較的後になってからであるらしいことは内部データからうかがい知ることができる(草タイプのポケモンや技の番号が後ろの方だったりとか)。

【おまけ:草タイプの源流を探る】

三すくみにおける特異点というのが草タイプという発想だというのは最初に述べた。では従来のRPGにはあまり見られなかった、属性としての「草(植物)」はどこから来たのだろうか。

【ビオランテ】

日本の植物系モンスターとしては最も有名だろう。ゴジラのG細胞と薔薇と人間の女性から生まれた怪獣である。死んだ娘を生き返らせる研究の副産物という意味では、劇場版『ミュウツーの逆襲』にも強い影響を与えたのではないかと見られる(ここでは深入りしないが)。

植物らしい戦闘能力としては、触手を使った物理攻撃や溶解液、再生能力といったところ。植物のボディを活かした強大なモンスターという造形は当時としては珍しかったと思われる。

円谷プロ繋がりでは『ウルトラマン』のグリーンモンスも強い生命力を持つ植物怪獣である。『ウルトラQ』のマンモスフラワーも、フシギバナあたりのデザインに強い影響を与えていそうだ。

【田尻智の幻のRPG】

雑誌「CONTINUE」Vol.32(2007年2月号)に、田尻智と中川翔子(しょこたん)の対談が収録されている。

ここでは構想だけに終わった植物やキノコばかり出てくるRPGについて田尻氏が語っている。

ファミコン用に企画していたとのことで、時期としてはポケモンより前、おそらくクインティ(1989年)の後か? フシギダネはそのときのネタを活かしたものだというが、他にもパラスやウツボットなど、この時のアイディアの流用は多そうな気がする。今までのRPGでは数体だけ出てくる脇役に過ぎなかった植物系が一大勢力として登場する発想はここから来たと思っている。

どうでもいいけどこの対談の中で、「マグマの体などの特性でタマゴが孵るのが早くなるよ」と田尻さんに教えられてしょこたんが「知らなかった」と驚いているのだが、マジ?(知らないふりをして驚く会話術もあるだろうが、この場面でやるかという話)

【蔵馬(幽遊白書)】

リアルタイムで初代ポケモンに触れた世代なら、草使いとして筆頭に出てくるであろう。この表紙(完全版2巻)のキャラである。

当時の人気はすさまじかった。人気投票では主人公を差し置いて1位の常連。少年ジャンプ連載でありながら女子に大人気で、当時を生きたオタク女子なら高確率で脳をやられているのではないかと思う。

本性としては妖狐なのだが植物を操る能力を持つ。薔薇の鞭(ローズウィップ)を振るい、宿り木の種ならぬ「死招き草」の種を植え付けたり、凶暴な魔界のオジギソウまで召喚したりする。他にも敵を眠らせたり、明かりや飛行や記憶操作など、割となんでもありの頭脳系便利屋として様々な植物を駆使した。

連載は1992年から開始。ポケモンの開発期間とも重なっており、「草って意外と戦えるじゃん」という発想元になった可能性がある。冒頭で紹介したベーマガの企画にも影響を与えていそうだ。

以上、ネタが切れてきたのでここまで。なにか思いついたりコメントでヒントをいただければ追記することもあるだろう。