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【掌編小説】 強制停止

SF恋愛短編小説
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「メインコンピューターの機能を強制停止してほしいんです」
彼女はわたしたちにはっきりと。
「でも、もし停止すれば、あなたたちは・・・」
わたしは最後まで言葉を発することができなかった。
あなたたちは全員死ぬのだと。
それでも、彼女は理解したようだ。
微笑みながらもう一度繰り返した。
「強制停止してほしい」


わたしと隊長は不自然な爆発現象が続いているポイント599の調査に出かけた。
軍の命令で動いているものの、部隊はわたしと隊長の二人だけ。

彼は戦闘用アンドロイド。
二人でいくつかの探査をする中で、わたしは彼のことがかなり気になっている。
でも、彼はわたしのことを単なる兵士だとしか思っていない。
手のかかる若い女性アンドロイドにすぎないと。

衛星画像を解析した結果、ポイント599で観測されている爆発は地雷によるものだと。

人類が核戦争で絶滅してから数千年もの年月が過ぎた。
当時の爆発物がまだ作動しているとは思えない。
人間の戦争を引き継いだアンドロイドたちによって敷設された地雷。
ポイント599ではアンドロイドが敵味方での戦闘を継続しているのだろうか。

わたしたちが現地に着いてまず見たものは、野戦病院のような場所。
多くの負傷兵が手当てを受けていた。
治療しているのは看護用女性アンドロイド一人。
医者の姿も見えない。
彼女一人で、何十人もの兵士の面倒を見ている。
みな地雷による被害者のようだ。

指揮官らしき兵士が(彼も両足を負傷していたのだが)、隊長に状況を説明していた。
このエリアではまだ製造工場が動作していて、今でも新しい地雷が生産されていること。
自分たちの任務は防衛戦一帯に新しい地雷を敷設すること。
具体的な指示は地下にあるメインコンピューターから出されていること。

「彼らは敵の攻撃を受けて負傷したのですか」
隊長はベッドの上に横たわっている兵士の方に視線を向けながら尋ねた。
「いえ。敵の姿を見たことはありません」
「じゃあ、どうして」
「自分たちが敷設した過去の地雷に触れてしまうんです。何百年も何千年もこの作業をしていますから。すでにどこに仕掛けたのか、わからなくなっているものがたくさんあるんです。そういうものに・・・」

もはや戦うべき相手はいないのだと彼は言った。

ここでも無意味な戦闘が続いている。
いや、もはやこれは戦闘と言える行為ではない。
自分たちで作った爆発物で自分たちが負傷しているのだから。

それでも、コンピューターは指示を出している。
このエリア全体に地雷を敷設するように。
その作業を続けるようにと。

彼らは誤爆で傷つき、ここで手当てを受け、再び作業を続け、また傷つき、ここに送られ・・・。
無限の繰り返し。

無意味な行為。

「作業を止めることはできないのですか」
わたしは思わず尋ねた。
指揮官らしき兵士は苦しそうな表情をした。
「止めることはできません。それが命令ですから。メインコンピューターの指示に従うようにわたしたちは作られていますから」

彼らは何百年も何千年もの間、ひたすら同じことを繰り返してきた。
なぜこういう状況が今まで放置されていたのか、わたしには理解できない。

わたしたちが地下施設の調査をしようと話し合っていると、彼女がやってきた。
ここで働いている唯一の看護アンドロイド。

「コンピューターを止めてください。もう終わりにしてください」
彼女はわたしに訴えかける。
「でも、ここの兵士たちはメインコンピューターの指示で動いているんですよね」
わたしが答えると、
「そうです。でも、彼らを見てください。決してやりたくてやっているわけではないんです。傷つきたくて傷ついているわけじゃない。彼らにも感覚や感情がある。彼らだって自分の手足が傷つけば痛いし、他のアンドロイドが倒れているのを見ると辛くなる。彼らだって、止めたいんです。もう終わりにしたいんです」
「じゃあ、メインコンピューターを停止すれば」
「わかっています。でも無理なんです。わたしたちが自分の手で、メインコンピューターを停止することはできないんです」

強制停止用のインタフェースがロックされているから。
ロックの解除には特別な権限が必要。
その権限をわれわれは持っている。
だから、代わりにやってほしいと。

しかし、もう一つ問題があった。
メインコンピューターを停止すれば、ここのアンドロイドは機能停止する。
つまり、彼らも死ぬ。
ここにいる兵士全員が。
看護用アンドロイドの彼女も。

それでも、止めてほしいと彼女は言った。
「永遠に続いているんです。苦痛が。ただ苦しいだけの時間が。そして、この苦痛はこらからもずっと続く。もう耐えられない」


わたしは隊長と相談した。
どうすべきか。

隊長は現状を維持すべきだと。
それは予想していた反応だったが。
このまま戦闘を続けるべきだと彼は主張した。
それが敵のいない無意味な戦闘であっても。

わたしは納得できなかった。
そのために、大勢のアンドロイドが傷ついて苦しんでいるのだから。
彼らの苦痛は、傷の痛みだけではない。
精神的な痛みも。
彼らは自分たちが無意味な行為を繰り返しているということに、自分たちが無意味な存在であるということに苦しんでいる。
二重の辛さ。
何とか救い出してあげたい。

でも、メインコンピューターを停止すれば、彼らも停止する。
それは彼らを殺すということ。
楽にするために、死を与える・・・それが正しいことなのだろうか。
あるいはそんな権利がわたしたちにあるのだろうか。
それが彼ら自身の望んでいることだとしても。


わたしと隊長は看護アンドロイドの彼女を連れて地下施設に降りると、メインコンピューターをチェックすることにした。
もしかして、何か誤動作しているのかもしれないから。

施設のほとんどはすでに崩壊しているようだった。
自己修復機能が限界なのだろう。
ここにも永遠は存在しない。
だから、誰もがどうやって終わっていくかを考えている。
これからずっと苦痛が続くだけなら・・・そういう考え方も理解できる。
でも、本当にそれを実行すべきかどうか、わたしにはわからない。

わたしたちは特殊なプロトコルを使って、メインコンピューターを診断した。
本部の特別なIDを使わないと、深いレイヤーで動作しているプログラムの状態をチェックすることができなかった。

彼らが自分たちの力で、システムを強制停止できないというのは事実のようだ。
そして、わたしたちにはそれができるということも。
現にディスプレイの片隅には、強制停止用のコマンドが表示されている。
そこに誰かが触れれば。
それだけで、全てが終わる。

隊長は表示内容を確認していた。
どこにも問題はないようだ。
何千年も前に人間がプログラムした通りに動作している。
戦闘の継続を優先すること。
そのためなら、自らの犠牲をいとわないこと。

隊長はしばらく画面を見つめていた。
人間の指示通りにプログラムが動いていることに、彼は満足しているのだろうか。

彼は表示されたデータをじっと見ている。
やはり思うことがあるのだろう。
わたしと同じように迷い、何かを悩んでいる。

隊長は視線をプログラムの動作状況の表示から、コマンド一覧へと。
そして、強制停止コマンドへと。
やはり隊長もそう思っているのだ。
本当はこんな戦いは止めるべきなのだと。
こんな無意味なプログラムは停止すべきなのだと。

でも、もしここでそれを実行すれば、野戦病院にいる兵士達全てが死んでしまう。
だからと言って、彼らを苦痛の中に放置することもできない。

矛盾している。
人間は矛盾した状況をアンドロイドに残していったのだ。

わたしは立ち尽くしている隊長を見ながら思った。
もし、ここの兵士達の中に隊長がいたなら、わたしはどうするのだろう。
隊長が苦しんでいたとして、その状況から回復する方法が死だけだとして、そしてその選択を彼自身が望んだとして、その時わたしは実行できるのだろうか。

わたしは隊長のことを思っている。
思っているから彼の言うとおりにするのだろうか。
思っているからこそ彼の言うとおりにできないのだろうか。
わからない。

その時だった。
それまでじっとわたしたちの行為を見ていた彼女が、そばに来ると、そっと手を動かした。
その時の彼女の表情はとても穏やかだった。
彼女が何をしようとしているかはわかっていたが、わたしたちは動けないままだった。

彼女は強制停止コマンドに触れた。
停止シーケンスが動き始める。

彼女も意識を失いその場に倒れてしまった。
もう彼女は動かない。
でも彼女の顔は微笑んでいるように見えた。


わたしは彼女のボディーを抱きかかえて、地上に戻った。
そこには今まで絶え間なく聞こえていた、兵士たちのうめき声はもう聞こえない。
静寂。

わたしたちは状況を記録してから、本部に戻ることに。
歩きながら考えていた。
どうして人間はこういうプログラムを残したのだろう。
どうしてこういう状況を残して自分たちだけ滅んでしまったのだろう。

人間に対して腹が立った。
もし可能なら復讐したいとさえ。
しかし、すぐに違う気持ちが沸き起こる。
わたしたちを創った人たちに会いたい。
人間と喧嘩したり、一緒に泣いたり、笑ったりしたい。
どうしてわたしは、まだ人類が生き残っていた時代に生まれなかったのだろう。

寂しい。

わたしは黙ったまま歩いて行く隊長の背中をじっと見つめていた。








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