子供2人で教育費3,000万円のリアル── 「子供にはお金をかけてあげたい」が、老後破綻への入口になることも
その言葉が、頭から離れない
ある年、FP相談に来た薬剤師・Tさん(46歳・サラリーマン薬剤師)の話です。
子供は2人。
上が高校2年生、下が中学2年生。
共に私立。
「教えてください。今の状態で私たちの老後は大丈夫でしょうか」
私はまず家計を一緒に確認していきました。
年収720万円
住宅ローン残高1,800万円
貯蓄は約400万円
投資はゼロ
確認したところ、問題は貯蓄額ではありませんでした。
「今後の教育費の見通しは立てていますか?」
「なんとかなると思ってまして……具体的には計算してないです」
上の子が私立大学に進学すれば、入学金+4年間の学費で約500万円。
下の子が同じく私立大学なら同額。
さらに2人とも「できれば仕送りで一人暮らしをさせてあげたい」という希望があるようでした。
仕送り月10万円×4年×2人=960万円。
学費と仕送りだけで、2人合わせて約1,960万円が必要。
Tさんの顔が、みるみる青ざめていきました。
「これ……老後のお金、何も残りませんよね」
「そうですね。むしろ、今の貯蓄を全部使っても足りません」
子供への愛情は本物です。
子供の幸せを願わない親はいません。
しかし数字は、感情とは無関係に現実を突きつけてきます。
「子供にはお金をかけてあげたい」という気持ちが、老後資金をゼロにする。
薬剤師の家庭で今、まさにこれが起きています。
「教育費3,000万円」は大げさじゃない
「子供2人で3,000万円」と聞いて、「さすがに大げさでしょ」と思った方へ。
計算してみます。
文部科学省「子供の学習費調査」と各種統計データをもとにした試算です。

全て私立・子供2人:約4,380〜4,680万円
全て公立・子供2人:約1,634万円
「全て公立なら1,600万円で済む」は正しい判断です。
しかし現実には、受験に失敗して私立になる。
本人の希望で私立を選ぶ。
医療系に進学するというケースが特に薬剤師の家庭では多いです。
私立薬学部6年間は約1,200〜1,400万円
私立医学部6年間は約3,000〜4,000万円
子供1人が私立医学部に進んだだけで、2人分の教育費が軽く3,000万円を超えます。
「なんとなく1,000万円くらいかな」という感覚は、最も危険な思い込みです。
薬剤師家庭が特に注意すべき「教育費の3つの落とし穴」
落とし穴①:「自分が薬剤師だから、子供にも医療系を期待してしまう」
薬剤師家庭の子供が医療系に進学するケースは、一般家庭より統計的に高い傾向があります。
しかしここに大きな落とし穴があります。
私立薬学部6年間:約1,200〜1,400万円
私立医学部6年間:約3,000〜4,000万円
子供が2人いて、1人でも私立医学部に進んだ場合、
それだけで老後資金の大半が教育費に消えます。
「医者になりたい」という子供の夢を応援したい。
その気持ちは当然です。私だってあります。
しかし「応援できる財務状況かどうか」を事前に把握していなければ、
「夢を応援したら老後資金がゼロになった」という現実が待ちます。
厳しいですが、「お金がなければ夢をかなえることができない」ことは事実あるのです。
「うちは関係ない」と思っている薬剤師の家庭ほど、この落とし穴に落ちやすいです。
落とし穴②:「教育費と老後資金を同じ財布から出している」
教育費のピーク(子供の大学在学期間)と、老後資金積み立てのラストスパート(50代)は、見事に重なります。
40代で子供が中学・高校に進学し始め、50代前半に大学の学費ピークを迎える。
同時に、老後のために「今が一番積み立てないといけない時期」も50代です。
ここで「教育費が足りないから、老後の積立を止める」という判断をした瞬間、老後設計が根本から崩れます。
教育費と老後資金は、最初から「別の財布」として設計しておく必要があります。
落とし穴③:「奨学金を借りさせることへの罪悪感」
「子供に借金を負わせるのはかわいそう」という感覚から、
奨学金を使わずに全額親が払おうとする薬剤師は多いです。
しかし冷静に考えてください。
子供の大学費用を全額払うために老後資金がゼロになった親は、
将来的に子供に金銭的援助を頼る可能性があります。
子供の奨学金(月5万円・4年間)の総額:約240万円。
親の老後資金不足で子供が援助する金額:数百万〜数千万円になる可能性。
「奨学金を借りさせないこと」が、
長期的に子供への最大の負担になるケースがあることを知ってください。
日本学生支援機構の第一種奨学金(利息なし)は、成績要件を満たせば無利息で借りられます。
「借金=悪」という思い込みを、一度数字で見直してください。
「いつ・いくら必要か」を今すぐ把握する
教育費の問題は「漠然とした不安」から「具体的な数字」に変えることで、
初めて対策が立てられます。

ポイントは
「8〜11年後」と「13〜16年後」が教育費の2大ピークという点です。
このタイミングに手元資金がなければ、
住宅ローンの繰り上げ返済停止
老後積立の中断
最悪の場合は借り入れという選択を迫られます。
「賄える家庭」と「賄えない家庭」の分岐点
同じ年収700万円の薬剤師でも、
教育費を余裕で賄える家庭とそうでない家庭に分かれます。
その分岐点は何か。
答えは「子供が生まれた時点で教育費の積み立てを始めたかどうか」です。
<子供が生まれた0歳から月3万円を積み立てた場合(年率3%)>
18年後(大学入学時):約850万円
子供2人分で:約1,700万円
「月3万円 × 18年」で、2人分の大学費用がほぼカバーできる計算になります。
一方、「何も積み立てずに子供が15歳になってから始めた場合」は、
月3万円を3年積み立てても約113万円。
大学の初年度費用にも届きません。
「子供にお金をかけたい」なら、子供が生まれた瞬間から積み立てを始める。
これが唯一の正解です。
ここまで読んだ方へ
「子供2人で教育費3,000万円」という現実を数字で見てきました。
「思っていたより多い」と感じた方がほとんどだと思います。
それは当然です。誰も教えてくれなかったから。
ここから先では、
「教育費・老後資金・住宅ローンを同時に回す」ための具体的な設計方法をお伝えします。
特に以下の3点は、薬剤師家庭にとって今すぐ使える内容です。
「教育費専用口座」の作り方と積み立て先の選び方(学資保険・NISA・定期預金、何をどう使い分けるのが正解か。数字で比較します)
「老後資金を削らずに教育費を捻出する」キャッシュフロー設計(教育費ピーク時にiDeCoを止めないための具体的な方法)
「祖父母からの援助」を最大1,500万円・贈与税ゼロで受け取る方法(教育資金一括贈与の非課税特例の正しい使い方)
「なんとかなる」から「具体的に設計できる」に変わる内容となっています。
「教育費・老後資金・住宅ローン」を同時に回す家計設計の全貌
設計①:教育費の「積み立て先」を正しく選ぶ
ジュニアNISAが2023年に終了した今、教育費の積み立て先として何を使うべきかを整理します。
選択肢①:新NISA ──最もおすすめ
理由は3つあります。
運用益が非課税
いつでも引き出せる
学資保険より実質利回りが高い可能性が高い
ただし、投資である以上元本割れリスクがあります。
教育費として使う時期が近づくにつれて安定資産にシフトする「グライドパス戦略」が必要です。
具体的な設計:
子供が0〜12歳:NISAで株式インデックスファンドに積み立て
子供が13〜15歳:積み立て継続しつつ、一部を定期預金へ移動開始
子供が16〜17歳:大学進学に必要な金額を定期預金・普通預金へ移動完了
このグライドパスにより「大学入学直前に暴落して学費が足りない」リスクを防げます。
選択肢②:学資保険 ──限定的な活用
実質利回りは0.1〜0.5%程度(2024〜2025年時点の主要商品)。
インフレ率を考慮すると実質マイナスになるケースもあります。
有効なケース:
「絶対に元本割れしたくない」「強制積立の仕組みが欲しい」という方向け。
ただしNISAとの比較でパフォーマンスが大きく劣ることは覚えておいてください。
選択肢③:定期預金・高金利普通預金 ──使用3年以内の資金用
教育費使用まで3年以内になった資金はここに移します。
元本割れゼロ・いつでも引き出せる安心感があります。
結論:
使う時期が10年以上先→NISA。
3年以内→定期預金。
その中間→比率調整しながら両方。
設計②:「老後資金を削らずに教育費を捻出する」10年計画
教育費ピーク時(子供の大学在学期間)に老後積立を止める薬剤師が非常に多いのが実情です。
しかしこれは「最も避けるべき判断」です。
50代の積立を止めると、複利効果の欠如で60代以降の資産が数百万円規模で変わります。
「老後積立を止めない」ための3つの方法:
方法①:iDeCoは止めず、減額で対応する
iDeCoは「止める」という概念がなく、掛け金を月5,000円(最低額)まで減額できます。
教育費ピーク時は「月2.3万円→月5,000円」に一時的に減額し、老後積立を完全にゼロにしないようにします。
節税効果は小さくなりますが「継続している」こと自体が複利を守ります。
方法②:「教育費専用口座」を物理的に別に作る
老後資金の口座と教育費の口座を別の金融機関・口座で管理してください。
「教育費はここから使う」
「老後資金にはここには手をつけない」
物理的な仕切りを作ることで、衝動的な取り崩しを防ぎます。
おすすめ:
楽天銀行・SBI銀行などの「目的別口座」機能を活用。
口座の名前を「子供教育費」と設定するだけで心理的なブレーキになります。
方法③:キャッシュフロー表を5年単位で作る
「何年後にいくら必要か」を一覧にして、今の積立額で間に合うかを確認します。
教育費のピーク年に家計がどうなるかをシミュレーションしておくことで、
「その年だけ繰り上げ返済を止める」
「ボーナスを学費に充てる」
という計画的な判断ができます。
具体的なキャッシュフロー表の作り方:
Excelまたは家計管理アプリで、以下の項目を年単位で作成します。
年間収入(手取り)
年間生活費
住宅ローン返済額
教育費(その年の実費)
iDeCo・NISA積立額
年間収支(黒字・赤字)
資産残高(累計)
この表を作ると
「子供が18歳の年に年間収支が赤字になる」
「その年は繰り上げ返済を止めれば黒字に戻る」という具体的な対策が見えてきます。
またファイナンシャルプランナーに依頼すれば、
より正確なキャッシュフロー表を作ってもらうことができます。
設計③:祖父母からの援助を「正しく・無税で」受け取る2つの方法
祖父母に「孫の教育費を出してあげたい」という気持ちがある場合、
受け取り方を知っているかどうかで、税負担が大きく変わります。
知らずに受け取ると贈与税が発生するケースもありますが、
正しく活用すれば合法的に非課税で受け取れます。
方法①:年間110万円の「暦年贈与」を計画的に使う
贈与税には年間110万円の基礎控除があります。
祖父母から孫への贈与も、1人あたり年110万円以内なら贈与税は一切かかりません。

もちろん祖父母の資産状況によりますが、4人の祖父母が協力すれば年間最大880万円を非課税で贈与できます。
子供1人あたりでも、祖父母4人から年最大440万円まで非課税です。
10年間継続した場合(子供1人・祖父母4人フル活用):
110万円 × 4人 × 10年 = 4,400万円を無税で移転可能
ただし「定期贈与」とみなされてしまうと非課税ではなくなるので要注意です。
毎年贈与契約書を作成し、金額・時期を少し変えながら行うことが重要となりますが、必ず税理士に相談の上で進めてください。
方法②:「祖父母が学校へ直接支払う」──金額無制限・手続き不要・完全非課税
これが最も知られていない、しかし最も強力な方法です。
民法上、扶養義務者(祖父母も含まれる)が孫の「生活費・教育費」を支払う場合は、金額に関係なく贈与税が非課税になります。
(国税庁「扶養義務者から生活費や教育費をもらった場合」)
つまり、祖父母が直接、孫の大学・高校・塾の費用を学校や塾に支払えば、何百万円でも非課税です。
活用イメージ:
私立大学の入学金・授業料(年間150万円)を祖父母が直接大学に振り込む → 非課税
私立高校の学費(年間80万円)を祖父母が学校口座に直接振り込む → 非課税
塾の月謝(月3万円)を祖父母が塾に直接支払う → 非課税
重要な条件:
あくまで「実際の教育費用」として使われること
「孫の口座に一旦振り込んで、後で学費を払う」という形は認められない場合がある
通常の生活水準に照らして「必要と認められる範囲」であること
この方法は、特別な口座も手続きも不要です。
祖父母が学校に直接振り込むだけ。
それだけで、私立4年間の学費(約400〜550万円)を非課税で負担してもらえます。
子供が私立医学部に進学した場合の6年間学費(約3,000〜4,000万円)も、
祖父母が直接払えば全額非課税となる。
この事実を知っているだけで、薬剤師家庭の教育費設計は根本から変わります。
ただし注意点として:
孫への贈与が祖父母の相続財産の先取りになる場合、他の相続人(伯父・叔母など)とのトラブルになることがあります。
家族間で認識を合わせておくことと、税理士への相談を強くお勧めします。
今日すべき「3つの確認」
教育費3,000万円という数字と向き合った上で、
今日できることを3つだけ挙げます。
① 子供の年齢から「教育費ピーク年」を計算する
上の子が大学入学する年を出してください。
そこまで何年あるかが「設計の余白」です。
② 現在の教育費積立額と積み立て先を確認する
学資保険だけならNISAへの移行を検討しましょう。
ゼロなら今月から月1万円でもいいので始めてください。
③ 老後積立と教育費積立の口座が分かれているか確認する
同じ口座から両方出しているなら、今日中に教育費専用口座を開設してください。
Tさんは相談に来てくれたことで、残り15年間の家計設計を一緒に組み直すことができました。
遅くはなかった。
でも、もし40歳のうちに設計していれば、選択肢はもっと広かったはずです。
今日が、あなたの設計の始まりの日です。
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【参考データ出典】
文部科学省「子供の学習費調査(令和3年度)」
文部科学省「国公私立大学の授業料等の推移」
日本学生支援機構「奨学金制度の概要」
国税庁「扶養義務者から生活費や教育費をもらった場合の贈与税」
国税庁「贈与税の基礎控除」
金融庁「新しいNISA」制度概要
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務・投資・法務アドバイスではありません。教育資金贈与の特例・奨学金の活用については、必ず税理士・FP等の専門家へご相談ください。記事中の試算はモデルケースに基づくものであり、実際の費用は進路・地域・家庭環境により大きく異なります。
