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■ 松本城研究にあたって


筆者は当初、西穂高独標への登山を予定していた。
しかし松本市内から上高地方面を望むと、山域には雲が多く、天候は安定しているとは言いがたかった。

山は、時に人間を招き、時に退ける。
この日は、山から「今日は来るべきではない」と静かに告げられたように感じた。
そのため筆者は登山を見送り、帰路につく前に松本城を訪れた。

松本城は、単に現存する国宝天守ではない。
そこには、築城、防衛、火器、統治、城下町の生活、信仰、文化、保存運動、発掘、観光という、多層の歴史と人間の営みが刻まれていた。

本研究では、現地で撮影した案内板、展示資料、建築構造、石垣、門、井戸、神社、記念碑などをもとに、筆者の構造哲学の視点から松本城を研究マップとして整理する。

ただし、本稿の目的は、現地展示や先行研究の意図を置き換えることではない。
松本城に関する展示を作成した研究者、保存に尽力してきた関係者、現在も警備・修理・管理・観光案内に関わる方々への敬意を前提とし、その成果を損なわない形で、筆者なりの観測と整理を行うものである。

現地では、多くの外国人観光客も松本城を訪れていた。
松本城は、地域の歴史遺産であると同時に、世界から訪れる人々に開かれた文化的記憶の場でもある。

本研究が、松本市民、観光客、城郭に関心を持つ人々にとって、松本城をより深く知る一助となれば幸いである。

なお、本稿における現地展示写真・説明文の扱いは、展示内容の転載を目的とするものではなく、研究・批評・整理のために必要な範囲で参照・要約するものである。展示資料の著作権および関係者の意図を尊重し、本文では筆者自身の分析を主とする。

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