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神々の遊ぶ庭 -高嶺のキタキツネ-

神々の遊ぶ庭カムイミンタラ、大雪山。アイヌ語で足の軽い神ケマコシネカムイと呼ばれているキタキツネとの出会いはいつも驚きです。


郊外の畑や住宅地の近くで見かけることもあるキタキツネですが、2,000mを越える尾根でも出会うことがあります。こちらからは”なにかいる”程度にしか見えなくても気配を察知され、足早に去って行く警戒心の強いキタキツネが大半ですが、希に私が引いてしまうくらい接近してくる個体がいます。

距離感が近いキタキツネは、人の餌やりが原因かと思ったことがありますが、そもそも警戒心が強ければ人には近寄らず餌をもらう機会はないわけでやはり個体差なのだと思っています。あるいは、山頂という環境に守られ、人に狩られた記憶(潜在意識)がなく、人を危険な対象と見なしていないのかもとも思ってしまいます。とはいえ、こちらから近寄ることはしないように心がけています。

神々の遊ぶ庭の第3編では、大雪山(=カムイミンタラ)で出会ったキタキツネを紹介します。

01 まぼろし

大雪山に入って3日目。この日は朝6時にヒサゴ沼を出発し、約17km先の白雲避難小屋に引き返す。往路の反省から飲料水を多めに詰め込んだこともあり、背負った総重量は25kgほど。忠別岳の手前の緩やかな登りにさしかかったところで強い疲労感に襲われる。まだ行程の半分も進んでいないが、大きな岩の日陰を見つけ腰を下ろす。両膝にうなだれ目をつむる。おそらく数分間気を失っていた。

気配を感じて目を開けると少し先の登山道にキタキツネがいた。夢かなと思いつつ再び目をつむる。しばらくして顔を上げるとすぐ目の前にくつろいでいるキタキツネが(下の写真)。一瞬状況が理解できなかったが、突然の出来事で力がみなぎり再び歩き出す。

目を覚ますと目の前に寝転んでいた(2020年7月20日)

不思議なことに疲れがピークになるときれいな花が咲いていたり、エゾユキウサギの真っ黒い子が飛び出してきたりと励まされ、15時に白雲避難小屋にたどりついた。

02 霧中

緑岳登山口を6時前に出発し、9時過ぎに緑岳の頂に立つも景色は真っ白。霧が立ちこめる中、初春の花を求めて小泉岳に向かって散策する。新芽や咲いたばかりの花は、霧が触れてできたまん丸い滴に飾られる。そのありようを登山道に這うように夢中になって撮影する。徐々に霧は濃くなり雨が混じりはじめた。

そんなときにふと感じた気配に振り向くと足先でキタキツネが私の様子を伺っている。警戒心の強い彼らがここまで寄ってくるとは。立ち上がると後ずさりするがそれほど距離はとらない。

あまりに近く私の警戒が伝わったのか、私の横を通り過ぎていく。時々止まっては岩の隙間を探っている。虫やヤチネズミでも探しているのだろうか。そして霧の中に消えていった。近距離ではじめて会ったキタキツネ。

霧の中をさまよう(2019年6月22日)

03 お出迎え

大雪山に入って2日目。穏やかな天気のもと5時過ぎに白雲避難小屋を出る。幸先良くエゾシマリスやノゴマ、そして白雲岳のガレ場ではエゾナキウサギが見送ってくれる。

今日は御鉢平を一周する予定だ。北海岳に到着し、まだ足を踏み入れたことがない黒岳の方から回ることにする。初めての景色と花たちを愛でながら歩く。

すれ違う登山者に挨拶をすると少し先の登山道にキタキツネの子供がいることを教えてくれる。はやる気持ちを抑えてゆっくり歩いていると子狐が藪から登山道に降りてきた。

歩みを止めて観察していると、鼻先で地面をまさぐり、何かを探している。私に気づき、顔を上げるが怖がる様子はない。ただでさえ愛らしいのに鼻先の砂粒が拍車をかける。再び藪に戻っていくまでしばらく眺める。

お出迎え(2022年7月2日)

子供が1匹でいるわけはなく、親や兄妹が近くにいるかもしれないため、アンテナを広めに歩みを進める。そこに少々騒がしくハイマツの上を飛び回る赤と黄色のギンザンマシコの夫婦。その下にはスヤスヤ眠る子狐。おそらく先ほど会った子の兄妹だろう。

お昼寝中(2022年7月2日)

その近くでは、2匹の子が小さな丘を登りながらじゃれている(タイトルの写真)。

さらにあたりを見渡すと広尾根に広がる草原の奥で行動を共にする親子。親が移動すると、子は後を追い、時に戯れる。親が地面に鼻を近づけると、子も近づける。食べ物の見つけ方を学んでいるのだろうか。

レッスン中(2022年7月2日)

ここで出会ったのは、片親と子狐5匹。子育てしている場面に会えた幸運に心が満たされる。ありがとう。

04 秋色

ようやく濃いガスがはれた午後、白雲岳に向かう。ウラシマツツジが真っ赤に染まった草原にエゾシマリスが現れてくれないか期待するも姿を見せない。代わりに姿を現したのはキタキツネ。

大きな岩の下にできた穴から出てきて背伸びする。彼も霧がはれるのを待っていたのか、それとも獲物を追って岩穴に潜っていたのか。

明日から9月だが、山頂は秋の気配が漂う。

真っ赤なウラシマツツジとキタキツネ(2019年8月31日)

≪編集後記≫

2018年にはじめて白雲避難小屋に泊まったとき、管理人さんがテント泊する登山者に「キツネに靴を持って行かれないようにテントの中に入れてくださいね」と話していました。

標高が高いこの場所にもキタキツネが住んでいることと、靴を持っていかれたら、どうやって下山すればいいのだろうと思ったことを思い出しました。

ここ数年、テント泊のときにこの注意は聞かないので靴収集家のキタキツネはいなくなったのかもしれないですね。

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