Chapter5:新時代型エージェントに求められる専門性 <5>(海外市場を視野に入れる)
『新時代ミュージックビジネス最終講義』(2015年9月刊)は、音楽ビジネスを俯瞰して、進みつつあるデジタル化を見据えてまとめた本でした。改めて読み返しながら、2020年〜21年視点での分析を加筆していきます。 アーティストと対等なパートナーとなって、音楽活動を成功に導 き、ユーザーを喜ばせ、自分もしっかり稼ぐ。そんな新時代型エ ージェントになる方法について本章では考えていきます。
海外市場攻略の基本
これからは、日本市場だけに閉じていてはいけない。海外も同時進行で活動すべきだと主張してきました。海外での音楽活動に関する考え方を整理してみたいと思います。
“トライブ ”をつくる
当たり前ですが、日本での活動に比べて、海外での活動は不利な条件があります。ライブをやっても、アーティストの友達はいないので、手売りはできないでしょう。メディアのチョイス、ライブハウスの選択など、何をやるにも情報量が少ないので勘所が無いというのが弱点です。
初期の一定数のファンをどうやって掴むか、そんな趣味嗜好を持ったユーザーにいかにアクセスするのか。そのアーティストや楽曲を支持してくれる、最初の“トライブ”をつくるのが初期の課題になります。
幸いにも日本のアーティストには、クールジャパンという文脈があり ます。クールジャパンという言葉に手垢が付いているのは事実なので、 嫌いなら使わなくても良いのですが、要するにアニメ、コミック、ゲー ムなどに代表される日本のポップカルチャーを好きだというユーザーが かなりの数、世界中にいる状況だということです。この文脈を使わない手はありません。
海外の事情を知らない人ほど、「日本という枠で括られたくないんで す」と主張します。「じゃあ、何を打ち出して、興味を惹くの?」と僕は思います。国際競争の世界は、日本ほどのんきではありません。まさに戦いがあるのです。他の国に比べて日本政府のパワーが弱いのは事実ですが、それを「カッコ悪いから要らない」という発想は、まさに日本人的島国根性です。自分のアーティストや作品に自信があるなら、使えるものは全部使って、露出機会を増やすべきです。 個人的な体験としては、外国人視点で日本の音楽を見ることは、余計なこだわりが取れるという思いがあります。僕は、2007年にピストルバルブという10代の女の子10人のガールズホーンバンドをオーディシ ョンで集めて、プロデュースした経験があります。デビュー前に全米ツ アーをやったのは、正直、芸能界的なはったりでもあるのですが、本人 たちの意識を高めるという目的もありました。そのツアーが評価されて、翌年はフランスを中心としたヨーロッパツアーを行なったのです が、そこで発見がありました。
高い演奏力があって、グッドルッキングな若い女の子を集めるという方針から始まっていたので、僕のプロデュース方針は、女の子が憧れるファッションもイケてるグループでした。フジテレビのゴールデンタイムの番組のレギュラー出演もあったので、楽曲自体はJ-POPの王道を押し出していました。日本の音楽ファンからは、キワモノ的な企画バンドみたいに思われていたかもしれませんが、欧州の評価は違いました。 ガールズバンドというカルチャーがヨーロッパには無いので、そこのインパクトと共に、コスプレやビジュアル系との関連性で興味が持たれたのです。日本でも数百人のライブ動員だったのに、YouTubeで興味を持って来てくれたファンが、フランスの田舎町でも300人以上集まってくれました。
このコンセプトがフランスで通用すると分かっていたら、最初から 4 人組みくらいのバンドにして、海外ツアーを気軽にできるようにしたの に、とスタッフに語った記憶があります。
2015年現在、世界で一番有名な日本のバンドはなんでしょうか? サザンでもミスチルでもなくて、間違いなく L'Arc ~ en ~ Ciel です。 海外の音楽関係者と話して、ラルクを知らない人に会ったことはありません。理由は、マーヴェリック大石征裕社長のビジョンが卓越していて、 日本人アーティストで初めて、ニューヨークのマディソンスクエアガー デンでメインアクトを務めるなど、ワールドツアーで結果を出しているからですが、その前提があります。ラルクは、ワンピースなどの有名アニメの主題歌をやっているので、アニメファンから支持があります。それだけでなく、ハードロックというシーンでの評価もあったのです。
知っておいてほしいのは、ニッチジャンルはグローバルにネットワー クがあるということです。例えばメタルロック、例えばハウスなどのダンスミュージック系は、世界中にコネクションがあります。海外で活躍しているバンドにビジュアル系が多いのは、オタクカルチャーとロックシーンという縦糸横糸の組み合わせが構築しやすいからです。
グローバルニッチとジャパニーズポップカルチャー。この 2 つを意識 して、トライブをつくっていきましょう。

ジャパンフェスの活用
海外でJ-POPが人気だと偉そうに言っていますが、8割方は、アニメとコミックのおかげです。世界中にJをテーマにしたフェスティバル は存在します。上の表は、日本人アーティストの公式情報を英語、 中国語などで発信する唯一と言えるメディアSYNC MUSIC JAPAN による情報です。おそらく、ここにも記載されていないさまざまな J- フェスが世界中に存在しています。勝手に日本が好きと言っている人た ちが、世界中に居るのです。
最近、日本でも知られるようになった毎年 7 月にパリで行なわれる JAPAN EXPOも、フランス人のアニメショップなどが始めた、日本 で言えばコミケのようなインディペンデントのイベントです。2015 年 の来場者数は、主催者発表で 24 万人です。日本人が知らない間に、こういうイベントが世界中で何百と行なわれているのです。
海外に初めて出て行く時は、この種の J-フェスも活用しましょう。「ウ チのバンドは、オタク的じゃないから」という決め付けは不要です。彼らは勝手に、アニメとの共通点を見つけてくれます。そして、もしかしたら、その視点の方が正しいのかもしれないのです。
ギャラをもらって海外に行こう
さて、海外で活動をする時は、不安です。ファンがいないかもしれないのに、どうしようと思います。明確に言いますが、経費を負担して海外に行く必要はありません。日本人アーティストを招聘しようとする会社は、採算が取れると思って呼んでいます。最初はギャラも安いかもしれませんが、海外でやってみたいからと言って、移動費宿泊費を自腹で行くのは止めましょう。残念ながら、日本は政府の補助も厚いとは言え ません。渡航費の半額補助が取れれば良い方でしょう。現地からお金をもらってツアーをやるという原則は持ちたいものです。
最近は、クールジャパンブームに乗っかったブローカーのような会社 も存在します。海外の会社とは、でき得る限り直接コミュニケーションしましょう。英語が苦手だからといって、臆することはありません。契約書は専門家のチェックが必要ですが、メールのやり取りなら、中学英語でも通じます。現地と直接コミュニケーションすることで、ノウハウ が貯まるのだという意識を持つことは非常に重要です。
スポーツになぞらえて考える
日本人の感覚を国際社会でどう活かすのかというテーマで、僕が考え るスポーツ 4 分類を紹介します。自分のプロジェクトの海外戦略を考える時の参考にしてみてください。
◉野球型
WBC でも二度も世界一になり、一流の日本人大リーガーを何人も輩出している日本の野球は世界最高水準を誇ります。言うまでもなく、もともとは、アメリカから輸入したスポーツです。ルールはグローバル、方法論、戦術的な日本流を編み出すというのが “野球”型です。J-POP も野球型でチャンスがあると思っています。
数々のヒット曲を持つ作曲家 her0ism は LA の作曲家と“コーライテ ィング”というやり方で、ソングライター界の野茂英雄になってくれそ うです。野茂が出てくれば、イチロー、松井秀喜、ダルビッシュ、と続いていくことになるはずです。
◉サッカー型
ヨーロッパをお手本に、ルールも方法論もグローバルスタンダードに合わせるのが、サッカー型です。ただ、欧州のレベルにはまだ追いつかず発展途上の現状です。
ダンスミュージックのDJは、このカテゴリーで活躍しています。例えば、ジャス系の DJ 沖野修也は、一部では中田英寿級の価値で評価されています。
◉ JUDO(柔道)型
JUDO も示唆的です。元は日本の武道でしたが、五輪種目となるほど世界中に普及しています。一方で、カラー柔道着やポイント制のルールなど、王道の柔道ファンからは不満の声もあります。
日本のカルチャーを輸出する際の 1 つの成功例として、JUDO 型も有効だと知りましょう。日本発の価値観を世界に認めさせるためには、ブルーの柔道着を受け入れる度量を持つということですね。 しかも、いまだに日本人選手は強豪。グローバル基準に“薄め”られることを許容して、そのルールで日本人が活躍を続ける。柔道= JUDO からエンターテインメント関係者が学ぶことは多いと僕は思っています。
◉相撲型
さて、最後に相撲を取り上げます。コンテンツ輸出における相撲型は、 日本の伝統的なルール、様式に従えば、どんどん外国人を受け入れていくことです。朝青龍、白鵬はモンゴル人、曙、武蔵丸はアメリカ人ですが、まわしをつけて、ちょんまげをして、日本語を話します。
テニスの全英オープンの決勝戦にほとんどイギリス人が勝ち上がれな いことを“ウィンブルドン化”と言うそうですが、だとしたら“両国化” はそれどころではありません。古い相撲ファンが日本人横綱を待望する気持ちも分かりますが、同時に相撲という様式のフォーマットとしての強さを感じます。
海外でのJ カルチャーイベントで、コスプレ大会は外せません。日本のアニメやゲームのキャラクターの扮装をした外国人たちを、日本文化の先導者として見るのは相撲型の応用かもしれません。
§
海外マーケットで戦うことは、シンドイです、面倒なことが山積みです。腹立たしい出来事もたくさんあります。それでも、僕らはやらないといけない時代に生きています。使えるものは全部使って、たくましく戦っていかねばならないのです。
アーティストのタイプ・状況によって、戦略は全く違ってくるでしょ う。国や地域によって、作戦も変えなければいけません。日本や日本人の良さを、再確認することも多いでしょう。不慣れな海外でのビジネスで辛い時に、こんな視点が何かの役に立てばと思い、ちょっと、余談風ですが記してみました。(続く、、)
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2021年1月付PostScript
この項も「一昔前」という感じがしますね。去年はコロナ禍で止まってしまいましたが、日本人アーティストの海外での活動自体は当たり前になりました。しかし、僕ら日本人がボヤボヤしている間に、韓国が海外で成功をしてしまいました。BTSの躍進は眼を見張るものがあります。最初はJ-Popから学んで始まったK-Popですが、今や背中が見えないくらい先に行かれてしまいましたね。J-Popから学んだと思えない人は、BoAや東方神起の事例をさかのぼってみて下さい。SMエンターテインメントは日本の芸能界の渡辺プロのような存在で、今活躍するK-Popの事務所は、ほとんど「SM出身」です。東方神起の日本デビューが2005年ですから、の日本の手法を上手に学んだところから、10年強で、アジア市場だけでなく、アメリカでも大きな存在感になってのは立派ですね。海外での活動の手法は、謙虚に韓国エンタメ界から学びましょう。「選択と集中」を見事にやりきって結果を出していますが、クリエイティブの多様性や文化的蓄積では、まだ日本に一日の長が残っています。
日本の音楽市場は(まだ)世界第二位の有料市場ですが、人口は減り始めた国で今後の高い成長は望めません。欧米やアジアはもちろんのこと、ラテンアメリカ、アフリカなど経済成長が始まっている新興国の市場も視野に入れて戦略を立て、積極的に挑戦していきましょう。インターネットは国境を超えます。ユーザーデータの可視化でわかるので海外ファンも見つけやすくなっている。まさにニューミドルマンの活躍の場所と言えるでしょう。
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