投資出口戦略で立ちはだかる「複利効果の呪縛」
最近「投資の出口戦略」についての書籍や関連するネット記事を多く見かけるようになりました。
その戦略の共通点は、投資の王道と言われる「ドルコスト平均法」すなわち「定額積立投資」の応用です。
毎月定額投資の利点は、相場が安い時には量を多く買えて、高い時には少量しか買えないので、短期での相場変動に一喜一憂することなく自然に効率的な資産形成ができるというものです。
出口戦略においては、つまり金融資産の「取り崩し」をする際には、多くの専門家が「定額積み立て」ではなく「定率引き出し」を勧めています。
「定率」であれば、相場が高い時により多くの投資性資産を現金化することが可能となり、低い時には少額しかできないので、結果として資産寿命を延ばすことに貢献するとの理屈です。
一部のネット証券では既にこの「毎月定額売却」を設定できるようになっており、この出口戦略はとても合理的な方法に見えます。
しかし私はこのあまりにも整理整頓された論法に何か違和感を覚えてしまい、その正体は何かと考えてみました。
整理できた違和感は主に以下の2点です。
「DIE WITH ZERO」(=保有金融資産を漸減させて行き、死亡時に枯渇させるお金の使い方)が理想的とは言え、自分の余命が分からない中で保有金融資産が漸減していく恐怖心への対抗策の欠如。
各人の資産ポートフォリオは千差万別とはいえ、一般的に投資家は単一銘柄ではなく複数の投資性資産を抱えている中で、取り崩しの順番などに対する納得性を感じさせるガイドラインの欠如。
要は定率取り崩しによる資産運用の出口戦略など、綺麗ごとな一般論ではないかという疑問であり、個人投資家が長年に渡り植え付けられてきた「複利効果の呪縛」からの解放への想いが至っていないのではないかと。
「複利効果の呪縛」
それは、分配金再投資型の投資信託が典型ですが、投資による果実は複利効果を得るためにすべて内部留保し再投資していくこと以外は邪道であるという考え方に取り憑かれている心理状況を指します。
私はこの「呪縛」から解き放されることが難しいのであれば、それを不必要に意識させない出口戦略こそが現実的ではないかと考えています。
「毎月分配型投資信託」という商品が叩かれています。
曰く「毎月分配していては投資活動でもっとも重要な要素の1つである複利効果を得られない」「時には元本を毀損してまで配当に回すなど論外だ」との批判です。
しかしこの批判が正論としてあてはまるのは、50代程度までの「資産形成期世代」まででありましょう。
換言すれば、これまで形成してきた資産を日々の生活費の一部に充てていく世代が活用する毎月分配型(又は、公的年金支給のない奇数月での隔月分配型)投資信託は肯定的に評価されるべきと考えます。
何故なら定率取り崩し型においての「能動的決断の負担」から解放され、日々の生活の中で定期的な「収入」が公的年金と同じように粛々と振り込まれてくることに安寧を感じられるのですから。
仮に元本払戻しの配当が混じってくるにしても、「自分で身を削る売却」と「果実が落ちてくる感覚の分配」では、精神的なハードルが全く異なるということです。
よって、毎月(または隔月)分配金型の投資信託は一定の人気を安定的に保っているのであり、その利用者を「ファイナンシャルリテラシーが低い」と批判することは不遜でありましょう。
同じことは高配当株式や債券投資への評価にも当てはまります。
共通していることは、複利効果が望めない一方で精神的な負担がなく定期的に資産の現金化が可能となるところです。
複利効果への呪縛に自らの仕組みとして真っ向から勝負を挑む「毎月定率取り崩し型」出口戦略は、資産運用そのものを目的化している人以外には理解を得られにくいでしょう。
追記:
投資出口戦略に関連して「WPPで長生きリスクに対応」という考え方もあることを最近知りました。
W = Working Longer
(継続就労)
● 70歳程度まで働く期間を延長
P = Private Pension
(私的年金やNISAの取り崩し)
● 70~75歳程度まで私的財産を取り崩して生活費を捻出
P = Public Pension
(公的年金の増額繰下げ受給)
● 75歳からの公的年金受給であれば84%増で安心
就労期間の延長先が厚生年金適用事務所であれば、その期間中の賃金に加えて将来受給の厚生年金額も増額となります。
また75歳から受給する繰下げ年金額は倍近くにまで増えますので、個人資産の取り崩しは70~75歳到達までの5年間に集中してその出口戦略を立てることも可能となります。
私がこのWPP戦略なるものを評価するかと言えば、継続就労という「負担」を要求する方法なのであまり肯定的ではありません。
一方で、定率取り崩し型という「机上の算数型」よりも賛同を得られやすいのではないかとも感じます。
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