【純愛ホラー】ツインテールとドッペルゲンガー〈8〉尋問
ツインテールとドッペルゲンガー
この小説には、暴力・性描写などが含まれます。また、作中に登場する学説は作者の創作です。
〈8〉尋問
俺の凌辱から逃れようと、彼女は力の限り抵抗した。肌や筋肉はもちろん、両手両足の爪の先に至るまで、彼女のあらゆる部分が徹底的に俺を拒絶し、その黒髪も俺を振り払うよう、上下に激しく乱れた。
俺は今日、幾度となくこの黒髪に翻弄され、その度に宛て所のない欲求を募らせてきた。挑発しつつ逃げ惑う罪深き女の命。俺を苦しめてきた魔性の根元。そんな、憎らしいほどの色香を蓄えた愛欲の塊が、今ようやく、俺の手の届くところで揺れているのだ。
我も忘れて暴れる少女。闇に舞う黒髪。
その髪から、石鹸と柑橘の香りに混じって、美しき髪の奥に隠れていた、彼女の生々しい体臭が匂った瞬間だった。俺の中に微かに残っていた理性が吹き飛んだ。
俺は疼く右腕に力を込めると、彼女の後頭部に向かってその震える手を伸ばし、怒りにも似た想い一心で、その黒髪の束を掴んだ。
凛とした質感。こぼれ落ちる艶。
かさつく俺の手の皮膚が、透き通る黒髪に濡れた。
◆
彼女の髪の感触に、俺は言葉を失ってしまった。夢見心地に陥り、ただうっとりと、しばらく彼女の髪を握っていた。
しかし、感慨に浸っていられたのも束の間だった。
「はなして!」
髪から俺の手を振りほどこうと、彼女が激しく頭を振ったのだ。
俺は我に返った。彼女の髪はあまりに滑らかで、力を緩めると、危うく手からすり抜けそうになる。俺は暴れる馬の手綱を握るように、右手にグッと力を込めた。
頭を振る彼女。髪を掴む俺。二人の力に引き離され、髪の一本一本が弓の弦のように張り詰めた。それでも、弾力に富む彼女の黒髪は、一本たりとも切れはしない。
狂いなく真っ直ぐ伸びた、糸よりも細い毛髪。引っ張られ、そのしなやかな真価を発揮した黒髪が、闇の中で一筋、誇らしげに煌めいた。
恐らく、彼女は自身の髪を溺愛し、日々怠ることなく手を掛けて、ここまで育て上げたのだろう。そうでなければこんなにも、髪の一本一本に輝きが宿るものではない。
まさに、美しく勝ち気な彼女を表象する第二の肉体。磨きあげられた気高き精神。それが、この美しい黒髪なのだ。
◆
しかし、俺は今、彼女のその傲慢なまでの自負を、この汚れた手の中に支配している。そう思うと、更なる欲望が込み上げてきた。
「髪だけで終われるものか」
そう思った俺は、左手で彼女の服の裾を掴み、もどかしさに何度も苛立ちながらも、最後は力尽くで、紫のウェアを肩まで捲し上げた。
なだらかに起伏する背中が顕になった。傷一つなく、きめ細かな白い肌が、どこまでも続いている。
「やだ!やめて!」
肌を暴かれた彼女が、必死の叫びを上げた。それでも俺は、目の前に広がる彼女の背に、飛び込むように顔を埋めた。
恐怖に血の気が引いて青白く、しかし、必死の抵抗に燃える熱い肌。そのじんわりと濡れた体から、汗の匂いが立ち昇る。彼女が地面を蹴るように、バタバタと両足を激しく動かした。汗に混じって、冷たい土の匂いが宙を舞った。
彼女の体を捕らえた俺は、今度は言葉でも彼女を揺さぶりにかかった。
「知ってるんだぞ!何もかも!」
「やめて!何のこと!?」
俺は彼女の質問には答えず、左手を彼女の体の前に回して、服の上から乳房を探ると、敢えてその周りだけに指を這わせた。
いつ男の手が及ぶか分からない恐怖。それを体に感じさせながら、俺は彼女の罪に対しても、勇ましく追及を進めた。
「俺は見たんだぞ!さっき君が山道を逃げ去るのを!」
「そんな!私はここにいる!」
彼女の反論になど耳を貸さず、俺は彼女をどこまでも追い詰める。
「君は人を殺したんだぞ!何の罪もない友人を殺して胸が痛まないのか!?」
「だから!私じゃない!」
◆
彼女はなかなか強情で、自分の罪を認めることもなければ、当時の状況を語ることもない。俺は、この少女には、もっと心を抉る言葉をかけなければならないと思った。
「この殺人鬼!しかも、君は殺した後、倒れた友人を放置して走って逃げたんだ。よくそんな残酷なことができるな!」
そう言いながら俺は、遂に左の乳房を鷲掴みにした。
「やめて!」
俺は全身に力を込め、彼女の体を砕けるほど強く抱き締めた。
「君は目を血走らせて興奮していただろ!まるで血に飢えた獣のように!」
その瞬間だった。罪と体。その二つを同時に責められた彼女が、苦しみから逃れようと叫んだ。
「違う!あいつは……!」
この言葉に、俺はハッとした。
俺は遂に、その言葉を引き出したのだ。「あいつ」という、彼女にとって致命的な一言を。
俺は冷たい口調で彼女に語りかけた。
「あいつ、と言ったな。やはり君は、自分自身があの子を殺して逃げるのを見ていたな」
彼女の体が動きを止めた。自らの迂闊な失言に、自分でも気づいたようだった。数秒後、ガチガチに固まっていた彼女の体から、力が一斉に抜けた。
この瞬間、俺は己の暴力を祝福した。
俺は、ぐったりと項垂れる彼女の体を、下から支えるように抱え上げた。人間の体はこんなにも重いものかと新鮮な驚きを感じると同時に、長い格闘の末、遂に獲物を仕留めた狩人のような幸福感が、体の底から込み上げて来た。
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