時給1万円のアルバイト その4 謎
岡野「まぁ待て、俺はお前を捕まえん」
岡野の意外な言葉に拓は足を止めた。
岡野「捕まえるなら、さっきドアの後ろにいた時にやってるよ」
そういうと岡野はゆっくり拓に近づいてきた。
岡野「俺は、どうもお前じゃないような気がしてな」
拓「なんで?」
岡野「うん……証拠が揃いすぎてるんだ」
拓「揃いすぎてる?」
岡野「そうだ。なんか裏がありそうでな」
そういうと岡野は拓にメモを渡した。
岡野「俺の番号だ。なんかあったら連絡してこい」
岡野は拓に背中を向け歩き始めた。
岡野「ただし、お前が逃げる手伝いはしない。なんかわかったら、すぐに捕まえるからな」
岡野は歩いて去っていった。拓は岡野に渡されたメモを見ていた。
その夜、貴の家に戻ってきてもメモの事が頭から離れなかった。
拓はソファに座ってメモを見ていた。
部屋に貴が入ってきた。とっさに拓はメモをポケットに入れた。
拓「あ、そうだ」
貴「携帯なかったら困るだろ。名義は俺になってるから」
そういうと貴が拓にスマートフォンを渡した。
拓「ありがと、兄貴」
以前、貴からスマートフォンを渡されたのを思い出した。
貴「俺、明日早いから先に寝るわ。お前も早く寝ろよ。疲れてるんだから」
拓「うん、わかった」
貴は寝室へと消えていった。
ポケットから取り出して、電話をかける拓。コール音が鳴る。
拓「あ、もしもし」
圭子の声「もしもし?」
拓「あ、母さん。俺。拓だけど」
圭子の声「拓!?アナタ大丈夫なの?」
拓「うん、兄貴の家でなんとかね?」
圭子の声「そう……」
圭子の様子は電話越しでもわかるくらいやつれている。
拓「それでさ、母さんに聞きたい事があんだけど」
圭子の声「聞きたい事?」
拓「うん。最近、響さんになんかあった?」
圭子の声「なんかあったって?」
拓「うん。例えば、借金があったとか、女の影があったとか……」
圭子の声「う~ん。どうだろ?」
拓「ゴメンね。変な事聞いて」
圭子の声「……」
拓「……母さん?」
圭子の声「あ、そういや」
拓「何!?」
圭子の声「わかんないけど、よく電話してたような」
拓「電話?」
圭子の声「うん、新しい知り合いって言うか、お仕事の人なのか?」
拓「それっていつの話?」
圭子の声「たしか~3ヶ月くらい前かしら?」
拓「3ヶ月って……」
圭子の声「それで先月くらいかな?すごく怯えてたような」
拓「怯えてた……わかったありがと母さん」
圭子の声「うん、くれぐれも気をつけてね」
拓は電話を切った。
拓「俺がいなかった3ヶ月で、何かあったな」
ポケットからメモを取り出した。
拓「あ、もしもし……刑事さんですか?」
大きな喫茶店。どこか昭和レトロ感がある。しかし店内は空いている様子だ。
そこに帽子を深くかぶった拓が座っていた。
カランコロンカラン、と入口のドアが開く音がして、岡野が入ってくる。
店内を見回し、拓の前に座った。
岡野「アイスコーヒーつ」
店員「かしこまりました」
店員がいなくなったのを確認して
岡野「早速だな」
拓「で、持ってきてもらえましたか?」
拓はすぐに話を切り出す。岡野は鞄から袋を取り出し拓に渡した。
拓「ありがとうございます」
岡野「誰にも見られないようにしろよ」
拓「はい」
岡野「まったく監視カメラの映像なんて、なんで見たいんだ?」
拓は大事そうに自分の鞄に袋を入れた。
拓「はい、なんで僕が映ってるのかなって気になって」
岡野「うん。たしかにそうだな」
拓「刑事さんに聞きたい事もあるんですが」
岡野「なんだ?」
そういうと岡野はタバコに火をつけた。
拓「何故証拠が揃いすぎていたら、おかしいんですか?」
拓は無意識に岡野に灰皿を差し出した。
岡野「うん。まず、現場にお菓子のゴミや、本を残すか?」
拓「あぁ、そっか」
岡野「それに……それを見ればまぁわかる」
岡野はタバコで拓のカバンを指した。
拓「……刑事さん、なんで僕の味方を……」
岡野は大きくタバコを吸って、灰皿にタバコを消した。
岡野「いやな、実は俺も昔、両親が離婚してな。母親についてったんだ」
拓「……」
岡野「そしたら母親が倒れちゃってな」
拓「え?」
岡野「まぁ俺の場合は子供を食わせる為の過労だけどな」
拓「……」
岡野「まぁお前の気持ち、少しはわかるんだよ。だからお前が犯人じゃないって思ったんだ」
再び、岡野はタバコに火をつけた。
岡野「後は……母親が病気なのに、普通義理の父親を殺すか?」
拓「・・・・・・」
岡野「動機もハッキリしていない」
拓「それで……」
岡野「で、何かわかったのか?」
拓「あ、はい。僕がいなかった3ヶ月の間に響さんに何かあったみたいで」
岡野「被害者に?」
拓「はい、母さんは新しい仕事相手って言ってたけど、先月はなんか怯えてたみたいで」
岡野「怯えてた……」
拓「あ、そうだ」
岡野「どうした?」
拓「ずっと気になってたんですが。なんで、僕の行くところがわかるんですか?」
岡野「……それは、俺もわからん。島崎に付いてってるだけだからな」
拓「そうですか……」
貴の家に戻ってきた。ソファに座っていると貴が声をかけてきた。
貴「じゃあ俺仕事に行くから」
拓「うん、行ってらっしゃい」
そういうと貴は部屋を出た。
拓は入口のところまで行き、貴が家を出るのを確認した。
岡野の声「誰にも見られないようにしろよ」
拓「よし」
部屋の隅に隠していた袋の中からUSBメモリーを取り出すパソコンに指してファイルを開いた。
テレビの映像に拓がナイフを持って男に迫っている。男は後ろ姿で顔は見えない。
拓の声「ぶっ殺してやる!ぶっ殺してやる!」
男に迫る拓。しかし映像はそこで止まっている。
拓「なんでここで止まるんだ?実際に刺したところはない。刑事さんが言ってたのはこの事か……ん!?」
画面をよーく見ると、壁にキズが20個ある。
拓「もしかして……」
拓は監禁されていた時のことを思い出した。
杉山がナイフを投げてきた。
それを拾って拓は杉山に迫っていた。
あの時は頭がおかしくなりそうで、殺気出していたのだ。
拓「これは、あんときの映像だ。だから、刺したシーンがないのか」
しかし、声はどうだろう?
拓「まてよ、だったらこの声は……」
監禁されたとき、スマートフォンを渡された。その時…
拓「今すぐこっちへこい!ぶっ殺してやる!」
監禁された時、気が狂いそうになっていた拓。
冷静に何を言っていたか、思い出した。
拓「これは、合成したものだ。あの電話は向こうで録音してたのか……しかし証拠が」
岡野に渡された袋の中に手を入れると、テープレコーダーが入っている。
石橋の声「お前から母さんと取った訳じゃないんだ」
拓の声「かえせ!かえせ!」
石橋の声「わかってくれよ」
拓の声「うるせえ!」
石橋の声「母さんの手術代はなんとかするから」
拓の声「金ならいらねえんだよ!今すぐこっちこい!」
これはあの時の電話の音声だ。島崎に聞かされたのを覚えている。
拓、巻き戻しをしてテープレコーダーに耳を近づける。音が大きくなる。
拓の声「うるせえ!」
テープレコーダーから流れる拓の声の後ろで何か他の音が聞こえた。
拓「うん、何か割れる音が……」
監禁されて、内山にあおられて…
内山に皿を投げていた。
拓「うるせえ!」
パリーン!
拓の声「うるせえ!」
よく聞くと拓の声の後ろの方で皿が割れる音が入っていた。
拓「そうか、これはあのときの……よく聞けばわかるな……って事は」
内山が拓の本を取り上げた時、
拓「返せ!返せ!」
内山に札束を投げられた時,
拓「金ならいらねえんだよ!」
スマートフォンで電話をしていた時、。
拓「今すぐこっちにこい!」
テープレコーダーを持つ手が震えた。
拓「これも全部、あんときの台詞だ。それを繋ぎ合わせてるだけだ」
あの映像にこんなトリックがあったとは…
その時、拓のスマートフォンが鳴った。
拓「もしもし兄貴……え!?母さんが!」
拓は急に立ち上がり、部屋を出た。
五十嵐病院。拓が走ってやってきた。そこに貴が待っていた。
拓「兄貴!母さんが」
貴「うん、聞いた」
拓「行こう」
そういうと拓は中に入ろうとする。
貴「待て、お前は行かない方が」
貴は横から拓を止めた。
拓「なんで!」
貴「お前は今、指名手配中なんだぞ。病院に入るのは……」
拓「……」
貴「母さんの事を俺に任せておけ」
拓「くそ!」
そういうと貴は病院に入っていった。
ため息を吐き、拓はトボトボ歩き始めた。
その時、スマートフォンが鳴った。画面には岡野。
拓「もしもし……え?今、病院前だけど。え!」
電話の声を聴いて拓は慌てて身を隠した。
島崎と警察官数人が病院に入っていくのが見えた。
拓は唖然とした様子でそれを見ていた。
岡野が歩いてやってくる。
岡野「警察ってのは、情がねえなぁ」
拓「あ、刑事さん」
岡野「母親が倒れたって聞いたら、そりゃ誰でも病院行くよな」
拓「ありがとうございます」
岡野「いいって。で、どうだ?」
拓「……刑事さん、事件現場、見せてもらえませんか?」
岡野「何?」
2人は事件があったビルにやってきた。
拓はビルを見上げて茫然とした。
拓「これ……」
岡野「そうだ、あのビルに似てるだろ」
2人は中に入っていった。
2人は中に入った。拓は中の様子を見て目を見開いた。
何もかも、監禁されていた部屋に似ていたからだ。
岡野「普段はここは何か倉庫に使われているらしい」
そういうと岡野のが目線を上げた。そこには監視カメラがある。
岡野「だから監視カメラがあるんだ」
拓「ここ、そっくりだ」
岡野「だろ?俺も前にお前がいたとこに行ってビックリした」
拓「ここで事件があったんですか?」
岡野「そうだ」
拓はゆっくり部屋を見回した。部屋の壁、天井、入り口、すべてを見て確信した。
拓「やっぱりそうだ。あの映像はこの部屋じゃない」
岡野「何?ここで事件があったんだぞ」
拓「だからです。あの映像とこの部屋は、違う場所なんです」
そういうと拓はその場にしゃがみこんだ。
拓「刑事さん、ここに本とお菓子のゴミがあったんですよね?」
岡野「そうだ、それにお前の指紋が」
拓「それは……そうだ、その指紋ってどんな風についてたんですか?」
岡野「どんな風?う~ん、それは鑑識に聞いてみないと」
拓「そうですか……もしかしたら」
拓は岡野に気になったことを話した。
拓は部屋に戻っていた。部屋では貴がソファに座っていた。
貴「おかえり、どこ行ってたんだ?」
拓「うん、ちょっとね。それより母さんは?」
貴「あぁ、大丈夫だ。ちょっとした発作だったみたいで、すぐに治ったよ」
拓「そっか、よかった」
拓もソファに座る。自然と目頭を押さえていた。
貴「お前こそ大丈夫か?もう2日動きっぱなしだろ」
拓「大丈夫だよ」
貴「少し寝たらどうだ?」
拓「うん、ありがと」
貴「にしても、お前も大変だな」
拓「まぁな。あんな仕事するんじゃなかったよ」
貴「本当だな。だいたい怪しいと思わなかったのか?」
拓「思ったよ。でも母さんの為だもん」
貴「母さんの為でも、少しは仕事選ばないと」
拓「うん」
貴「面接がない時点で、少しは怪しいと思わないと」
拓「……そうだよな。あんときはそれどころじゃなかったから」
貴「とにかく今日はもう寝ろ。少しは休まないと」
拓「うん」
貴「母さんの事はまかせておけ」
貴は部屋を出て寝室にいった。そんな貴の後ろ姿を拓は見ていた。
拓「……兄貴」
拓はスマートフォンを取り出し、電話をかけた。
拓「あ、もしもし……刑事さん、明日、いいですか?後、調べてほしい事があって」
次の日。貴と鈴はソファに座ってコーヒーを飲んでいた。
そこに拓がやってきた。
貴「おはよう、ちゃんと寝たか?」
拓「あぁ、久々にね」
鈴「コーヒーでいい?」
拓「あぁ、はい。ありがとう」
拓の言葉を聞いて鈴はキッチンに行った。
貴「で、今日はどうすんだ?」
拓「うん」
貴「少しは休んだらどうだ?」
拓「そういう訳にはいかないよ。早く無罪を証明しないと」
コーヒーをもった鈴がやってくる。
鈴「休むのも大事よ。体壊したらどうするの」
鈴はテーブルにコーヒーを置きながら言った。
貴「焦る気持ちもわかるが」
拓「兄貴、今日は昼くらいにもっかい事件現場に行ってみるよ」
貴「……そうか」
拓「兄貴、一緒に行ってくれないかな?」
貴「え?なんでまた?」
拓「うん、正直一人じゃ心細いって言うか」
貴「……そうか。わかった」
鈴「私も行くわ」
貴「鈴、お前は」
鈴「いいから、私も何かお手伝いしたいもん」
拓「ありがと」
3人は事件現場にやってきた。貴は部屋を見回している。
貴「ここが現場かぁ~」
鈴「なんの部屋かしら」
拓「なんかの倉庫らしいです」
3人は奥の部屋で辺りを見回していた。
ドアの向こうで足音が聞こえた。勢いよくドアが開いて、島崎と岡野、警察官が数人入ってきた。
島崎「やっぱりここにいたか!」
貴「くそ!なんでここが!」
貴は逃げようとするが、ドアは警察官で塞がれている。
ジリジリと島崎と岡野が拓に近づいてくる。それを見て貴は身構える。
拓「……」
貴「ん?どうした拓」
島崎「なんだその余裕は?」
拓「警察が来るのはわかってたんですよ」
島崎「何?」
貴「どういう事だよ?」
拓「刑事さん、僕の話を聞いてもらえませんか?」
島崎は拓の言葉に鼻で笑った。
島崎「誰が話なんか聞くか!」
島崎は拓に歩み寄ろうとする。その時、岡野が島崎の肩に手を置いた。
岡野「まぁ、話を聞きましょうよ」
島崎は岡野を横目で見た。
島崎「いったいなんの話だ」
拓「まず、僕が犯人だって証拠があると言いましたが」
島崎「そうだ、あんだけ証拠があるんだ」
岡野「そう。証拠がある。ありすぎるんだよなぁ」
島崎「何?」
拓「僕は犯人じゃない。なのに、何故あんなに証拠があるのか?不思議に思いました」
拓は鞄からノートパソコンを取り出す拓。
岡野はポケットからUSBメモリーを取り出し拓に投げた。
岡野「ほい、お前がほしがってたやつだ」
拓「ありがとうございます」
拓はUSBメモリーを受け取った。
島崎「お前、自分が何をしてるのかわかってるのか?」
岡野「話は全部終わってから聞きますよ」
島崎は舌打ちをして拓を見た。
拓「まず、監視カメラの映像を見ましょう」
ノートパソコン再生のボタンを押す。すると事件の映像が流れる。
島崎「ほれみろ、お前がハッキリ映ってる」
拓「刑事さん、ここが犯行現場ですよね?」
島崎「そうだ。ここが映ってるだろ」
拓「いえ、映ってるのはここじゃなくて、僕が監禁されてた場所です。前に刑事さんが行ったとこですよ」
島崎「何?何を証拠に」
拓「ここを見てください」
そういうと画面を指差した。
よーく見るとそこには壁のキズが映っていた。
貴「ん?なんだ?壁にキズがついている」
拓「カメラにはキズが映ってるのに、この部屋にはキズがない。つまりこの映像はこの部屋じゃないって事です」
島崎「だったら、あの映像は?」
拓はズボンのポケットから電柱に張ってあった紙と写真を出しテーブルに置く。
拓「僕は一ヶ月の間、監禁されるバイトをしてました。その部屋です」
島崎は拓が取り出した紙と写真を見た。
拓「これがその部屋の写真です」
写真にはキズのある壁や、部屋の様子が写されている。
島崎「だったらあれは?」
拓「そして一ヶ月だと思ったら、本当は三ヶ月だったんです!」
貴「何?」
島崎「どういう事だ?」
拓「部屋には何もない。そりゃ、時間の感覚がなくなるものです」
テーブルの写真を1枚取る。そこには時計が写っていた。
拓「唯一の時計が、遅く動いていたんです。僕は何もない部屋に3ヶ月監禁されていた。そしてだんだん気がおかしくなったんです」
全員が拓を見ている。
拓「想像してみてください。何もない部屋に3ヶ月ですよ?」
島崎「まぁ、変にはなるだろうな。しかし、本とお菓子のゴミはどうする?あれにはお前の指紋が……」
岡野「鑑識に調べてもらったよ。2つともに指紋がいたるところに」
岡野は胸ポケットから袋に入った本とゴミを取り出した。
島崎「ほれみろ、指紋がベットリ……」
島崎は自分の言葉にハッとした。
拓「そう、指紋がついてた。指紋がつき過ぎてたんです」
鈴「指紋が付きすぎてたってどういうこと?」
拓「僕は監禁されている間にいろんなものを与えられた。そして、僕はそれで時間を潰すしかなかった。その与えられたものが」
貴「本、お菓子」
拓「そう。僕は夢中になってそれを使った。その結果、指紋はついたが、いたるところについてた。不自然なほどにね」
岡野「あんだけついてたら、どう考えても不自然だよな」
拓「ナイフも同じ要領で与えられた。その時に監視のやつにあおられて、僕はそいつを刺しそうになった。が、刺さなかった」
拓はノートパソコンの事件動画を再び再生する。
拓「だから映像は刺すところまで映ってないんだ」
島崎「じゃあ電話は?あれはどう説明するんだ?」
拓「僕は監禁されてる間、いろんな発言をしました。それを録音でもしたんでしょう」
島崎「何を証拠に……」
鞄からをテープレコーダー取り出し再生を押した。
石橋の声「お前から母さんと取った訳じゃないんだ」
拓の声「かえせ!かえせ!」
石橋の声「わかってくれよ」
拓の声「うるせえ!」
石橋の声「母さんの手術代はなんとかするから」
拓の声「金ならいらねえんだよ!今すぐこっちこい!」
拓は停止のボタンを押した。
拓「よく聞いてください」
再び再生を押した。
石橋の声「わかってくれよ」
拓の声「うるせえ!」
拓は停止を押す。
拓「何か小さく音が聞こえませんでしたか?」
鈴「そういや、皿か何かが割れる音が」
拓「そうです。この台詞を僕が監視に対して言った台詞なんですが、その時僕は皿を投げたんです。その音まで入っている」
再び再生を押す。
石橋の声「わかってくれよ」
「パリーン」
拓の声「うるせえ!」
拓「電話だったらここまで入りませんよね?」
島崎「……だったら、真犯人はその監視のやつって事か?」
拓「それは本人に聞いてみますか?」
岡野は部屋の外に出た。そして杉山と内山を連れて入ってくる。
2人は部屋の真ん中、囲まれるように地面に座った。
杉山「くそ!離せ」
内山「何しやがる」
貴「おい、この2人は誰なんだ?」
拓「久しぶりですね」
拓を杉山と内山に顔を見せた。
杉山「……は?誰だあんた?」
内山「知らねえな、お前なんか」
杉山「なんのようでここに連れて来られたか」
内山「まったくだ」
拓「今、墓穴を掘りましたね」
島崎「何?」
岡野は鞄から袋に入った服を取り出した。
拓「これは僕は監禁された後に着ていた服です」
島崎「そうだ!それには被害者の血痕の後が」
拓「真犯人はこれを着て犯行に及んだ。そして何食わぬ顔で僕に返したんですよ」
岡野「これの指紋を調べた、そしたら…あんたの指紋が出てきたんだよ」
岡野は杉山を指差した。
杉山「……なんで?」
拓「なんで会った事もない人の服に指紋がついてるのですか?」
杉山「いったい……あ!」
地面に服が散らばった。
杉山「もう、まったく」
杉山は拾って拓に渡した。
ハッとしている杉山。
杉山「あ、あんとき」
島崎「しかし、この2人をいったいどうやって見つけたんだ?」
拓「ある人物を調べたら出てきたんですよ。その人がこの2人に監視させた。その人物とは……」
「兄貴、あんただよ」
拓は貴の方を見た。
貴「おい、いったい何を言い出すんだ拓」
拓「もういいよ兄貴。僕は、兄貴に、面接がなかった事を話していない。なのに、その事をなんで知ってたんだ?」
貴「そ、それは」
岡野「アナタを調べたら、この2人が出てきたんだ」
拓「兄貴は響さんと3ヶ月前に仕事か何かで接点を持った。そして、1ヶ月前に、自分の事を話した。そして僕が母親の事で怒っているとでも話したんでしょう」
岡野「それがあの電話って事か」
拓「兄貴も、さっきこの2人の事誰なんだ?と言ったよね?」
貴「……」
杉山と内山は貴の元に這いつくばりながら行った。
杉山「社長!もう無理ですよ」
内山「諦めましょう!」
貴「……そのクソ部下が!」
貴は2人を振りほどいた。
貴「まったく使えないやつらめ」
拓「兄貴、なんで?」
拓のその言葉に貴は小さく笑った。
貴「くそ!もう少しだったのに」
拓「兄貴!?」
貴「お前ら、母さんを取ったからだ!」
岡野「何?」
貴「離婚した後も、家族だって言ってくれたのに」
貴は拓を睨んだ。
貴「母さんが病気なのも知ってたよ」
拓「え、なんで」
貴「そんなの風の噂で聞くよ。だって家族だもん。いや、家族だと思ってたのは俺だけだったかもしれない」
拓「そうじゃないよ」
貴「お前らは、もう俺の事なんてもう忘れたんだ!」
拓「兄貴、それは違うよ」
貴「どこが違うんだよ!お前らは再婚して、幸せな生活しやがって」
拓「兄貴も父さんと……」
貴「父さんはもう死んだよ!」
貴の思わぬ言葉に拓は声が出なかった…やっとの思いで
拓「え?だって、今、海外に出張って」
貴「父さんは、母さんと別れて。母さんを失ってから元気がなくなり。寝込み……死んだよ」
拓「え……」
貴「俺は父さんの仕事を引き継いで、会社の社長になった。でも……家族がほしかった」
拓「兄貴……」
貴「母さんに会いたっかった……でも母さんは再婚して、新しい家族を作ってる…もう俺の事なんて忘れてるんだよ。俺にはもう家族なんて」
その時、突然部屋に圭子が入ってきた。
圭子「それは違うわ」
貴「母さん……」
圭子「私はあなたの事を忘れた事なんてない」
貴「ウソだ!だったらなんで再婚なんて」
圭子「ウソじゃないわ」
貴「ウソだ……」
拓「ウソじゃないよ…母さんは再婚したけど、父さんと兄貴の事を忘れた訳じゃないんだ。母さんが父さんの事を想ってるのを分かってて響さんは結婚したんだ。響さんはよく言ってたよ」
拓は天井を見上げながら
拓「俺はいつまでも圭子さんの1番には慣れないなって」
貴「……」
拓「それに、もう新しい家族も作る気もないって。それもわかって響さんは一緒になってくれた」
圭子は優しい瞳で貴を見つめている。
貴「だったらなんで、病気の事、教えてくれなかったんだよ」
圭子「言える訳ないじゃない」
拓「え?母さん」
圭子「私がガンなんて、言えないわよ」
拓「母さん、知ってたんだ」
圭子「貴。貴も父さんが死んだ時、私たちに言おうか迷ったでしょ」
貴「それは・・・・・・」
圭子「言いたいんだけど、心配させたくない」
貴「・・・・・・」
圭子「貴……わかって」
貴「ウソだ。ウソだ!」
突然、貴はテーブルの上の袋を手に持ち、中のナイフを手に取りだした。
拓「兄貴!」
岡野「おい、何をする気だ」
貴の手は震えている。
貴「くそ!俺はもう1人なんだ!俺にもう家族なんていないんだ!」
貴は大きく振りかぶり、自分の胸にナイフを刺そうとする。
鈴「そんな事ない!」
貴「…え?」
貴の手が止まる。
鈴「私は、アナタの家族になれないの?」
貴「……鈴」
鈴「私と一緒に、家族、作ろうよ」
拓「兄貴は1人じゃないよ。母さんに久しぶりにあった時の母さんの顔、覚えてるだろ?」
貴「……」
拓「それに、忘れてたら部屋にあんな写真置かないよ」
貴の手からナイフが落ちる。体が崩れ落ちた。
事件は解決した。犯人は貴だった。
道を拓と岡野が歩いている。
岡野「家族の絆って大事なんだな」
拓「兄貴があんなに母さんの事想ってるなんて知らなかったよ」
岡野「お前もそうだろ?お母さん、大事だろ?」
拓「そりゃもちろん」
岡野「だったらお兄さんも同じくらい母親の事想ってるだろ」
拓は立ち止まり岡野の頭を下げた。
拓「いろいろとありがとうございました」
岡野「おいおい、やめろよ」
そういうと、岡野は拓の肩にポンと手を置いた。
岡野「別にお前の為にやった訳じゃないよ。俺は、自分の仕事をしたまでさ」
拓「はい」
岡野「にしても一時はどうなるかと思ったよ」
拓「え?」
岡野「だって容疑者と連絡とってんだよ」
拓「すいません」
岡野「あ、それと警察にお前の場所を言ってた人物、あれお兄さんじゃなかったぞ」
拓「え?じゃあいったい」
岡野「お兄さんの彼女らしい」
拓「え?鈴さんが?」
岡野「どこか気付いてたのかな?でもお兄さんには捕まってほしくなかったんだろ。お前が捕まる事でお兄さんが助かるならって」
拓「……」
岡野「あっちはあっちで家族の絆が出来てたんだな」
拓「そうですね」
岡野「ところでお前、これからどうすんだ?」
拓「はい、兄貴の会社で働こうかと」
岡野「そうか」
拓「兄貴の会社、いや、父さんの会社を潰したくないから」
岡野「頑張れよ」
拓「はい」
岡野は歩いていった。岡野は背中越しに手を上げた。
そんな拓は岡野に頭を下げた。
拓「さて、兄貴が戻ってくるまで会社潰さないようにしないとな」
拓は空を見え上げた。飛行機が飛んでいる。
拓「母さん、行ってらっしゃい」
(終わり)
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