訳あり旅行会社 第3話
中に入るとそこは木で出来た趣のある室内だ。
ご飯を炊く窯も昔ながら、囲炉裏とかもあった。これはアニメでしか見たことないな。
室内をまじまじとみていると、彼女は部屋の奥に向かって話しかけていた。
「一郎さん、ミヨさん、こんにちは」
そうすると奥からおばあちゃんが出てきた。たぶん、この人がミヨさんなんだろう。歳は70歳くらいか?まぁおばあちゃんはある一定の年齢になったら、そこから歳なんてわからなくなるか。
「あら、メグちゃん。久しぶり」
どうやら、この2人は知り合いらしい。
「こんにちは。一郎さんは?」
「あぁ、奥で作業してるよ」
「そう。あの、今日はこの子に教えてあげてほしいの」
ん?僕は何をされられるんだ?何を教えられるんだ?不思議に思っていても、話はどんどん進んでいった。
「そうかいそうかい。ま、2人とも入ってくださいな」
そういうと部屋に招き入れてくれた。彼女に続いて僕も中に入る。
「ねえねえ、ところで何すんの?」
彼女に話しかけても
「行けばわかるわよ」
それしか言ってこない。僕はよくわからないまま奥の部屋に向かった。
おばあちゃんに続いて、僕と彼女は奥の部屋に歩いていると棚に藁で編んだいろいろなものを見つけた。
藁を編んで作った帽子や草履が置いてあった。
こういうのは歴史の博物館でしか見たことないぞ。
「なんだこれ?」
僕は1つを手に取った。
「しめ縄よ。よくお正月に玄関に飾ってあるのみるでしょ?」
「これがなんだよ?」
僕がそういうなり、おばあちゃんは奥の部屋に話しかけていた。
「おじいさん。メグちゃんがお客さん連れてきましたよ」
そこには藁で縄を編んでいるおじいさんがいた。声をかけられてこちらに気づく。
「おぉ、メグちゃん。久しぶりだな」
「一郎さん、ご無沙汰しております」
「ん?なんだその若造は?」
おじいさんは僕の方をギラっと見た。おじいさんなのに迫力のある感じだな。
「今日はこの子に、縄をなう作業を教えてあげてほしいの」
縄をなう?僕はその意味が理解できなかった。
「こんなヤツに出来るのか?」
そういうとおじいさんは立ち上がり僕の近くに来てはまじまじを見てきた。
「こ、こんにちは」
「おい、お前名前は?」
「え?松本大和です」
「何歳じゃ?」
「18です」
僕はこの人の迫力に圧倒されていた。
おじいさんは、先ほどの位置に戻っていく。
「近頃の若い奴らは根性やら忍耐やらがないからな。本当に出来んのかね」
そういうと藁を手に取り作業をしだす。
「おい、何してんだ。さっさとこっちこんか」
「は、はい」
僕はいきなり呼ばれて驚いたのか、その迫力に負けてしまったのか
言われるがままに近くに行った。
「この藁から縄を作るんじゃ」
そういうと同じくらいの量の藁の束を2つ用意し、僕に渡してきた。
藁の束をまじまじと見る。これをどうするんだ?
「よく見とけよ。まず藁の束を足で押えてだな」
おじいさんは器用な手つきで藁を編んでいく。僕はその様子を見ていた。
初めて見る光景だ。こんなのはテレビでしか見たことがない。ってか、実際にやっている人が、この時代にいるんだ。
「こうやってすり合わせるんじゃ」
藁をすり合わせている。僕はまじまじと見ていた。
「これの繰り返しじゃ。2つの藁の束をすり合わせて行って1本の縄が出来るんじゃ」
おじいさんの手には短い縄が出来ている。
「これを僕がやるの?」
「そうじゃ、何言ってるんじゃ」
「う、うん……えっと」
僕は言われるがままやってみた。藁の束を足で押え、2つの藁を手のひらに挟み、すり合わせる。が、上手く行かず、藁がグチャグチャになった。
「なにやってんだ!下手くそだな」
「いや、そんな言われても初めてだし」
「まったく近頃の若造はそうやってすぐに言い訳をする」
「そう言われても……」
僕は当たり前のことを言っているだけなのに……
僕は彼女を見た。こちらをチラっと見て微笑みながら玄関の方へいった。
「おい、どこ行くんだよ」
「おい大和。何してんだ。さっさとやらんか!」
「あ、はい」
縄を編むがなかなか上手く出来ない。
「おい、人の話を聞いてるんか!」
「ごめんなさい」
「ったく。もう1回やるからちゃんと見とけ」
おじいさんは縄を編んでは僕に見せてきた。
「こうやるんじゃ、やってみろ」
当然、上手くできるわけがない。そのたびに
「まったく、何回同じ事を言ったらいいんじゃ!」
と、怒鳴られる。この繰り返しだった。
どのくらい時間が経っただろう?
僕とおじいさんは相変わらず藁を編んでいる。
おじいさんは藁の束を木槌で叩いている。
僕も見よう見まねでやってみる。僕の額から汗が垂れているのがわかる。その様子を少し離れたところから彼女が見ている。
「ちょっとトイレ行ってくるから。ちゃんとやっとけよ」
おじいさんがトイレに行った。僕はいなくなったのを確認し、藁を叩く手を止めた。
「なんだよこれ、なんでこんな事しなきゃいけねえんだよ」
彼女は何も言ってこない。
「なんで死ぬ前にこんなにしんどい事しなきゃいけねえんだよ」
彼女は何も言ってこない。
「なぁ、聞いてんの?」
やはり返事がない。彼女は無言でどこかに行ってしまう。
「なんだよ。もうやってられっかよ」
僕は嫌になって、藁と木槌を投げ捨てた。
こんなところにいて何が楽しんだ。僕は靴を履いて帰ろうと思った。
「どこに行くの?」
彼女が止めてくる。
「こんな事させられる為にあんたに頼んだんじゃねえの。もう帰るわ」
「ダメよ。ツアーの途中放棄は許さないわ」
「はぁ?なんで死ぬ前にこんな目に合わなきゃいけねえんだよ」
そんなことを言っていると奥の部屋から声が聞こえる。
「おい!大和。どこ行った。さっさと作業場に戻らんか!」
彼女は僕を見ている。
「……くそ!」
僕は仕方なく作業部屋に戻った。
僕はいったい何をさせられているんだろう?
またまたどのくらい経ったんだろう?
僕は藁を編むのが上手くなっていた。ちょっと前よりは少し編めている。
「よし、じゃあ次にこれを長くするには」
そういうと、おばあちゃんが部屋にやってきて
「おじいさん、ちょっと休憩しましょう。お昼出来たわよ」
「そうか。じゃあ続きは飯の後だな」
そういうとおじいさんは囲炉裏の部屋に戻っていった。
緊張の糸が切れた僕は、全身の力が抜けたようだった。
「大和君も、一緒に食べましょう。手洗っておいで」
僕のお腹からグ~ッと音が鳴っている。その時、自分は腹ペコだということに気づいた。僕は無我夢中で藁を編んでいたんだ。
囲炉裏がある部屋。皿におにぎりが沢山置いてある。4人がおにぎりを囲むように座っていた。
「沢山お食べ。って言ってもこんなものしかないけど」
僕の腹ペコは限界を向かえている。
「頂きます!」
僕はおにぎりを1口食べた。
「旨い……旨い」
今まで食べてきたものはなんだったんだ?そう思うくらい美味しかった。
両手におにぎりを持ちガツガツ食べた。
「あらあら、そんな慌てて食べなくても」
おばあちゃんはそういうと、僕に味噌汁を渡してきた。
「これもどうぞ、自家製のお味噌で作った豆腐のお味噌汁よ」
味噌汁を飲む。
「旨い。高級フカヒレなんかよりもずっと旨い」
僕は驚いた。おにぎりとみそ汁がこんなに美味しいなんて。
「美味しそうに食べるわね。そうだ、たくあんもあるわよ」
おばあちゃんは、たくあんも出してくれる。
「沢山食えよ。若いんだからな」
おじいさんもこちらを見て笑っている。僕はおにぎりをがっついていた。
その様子を見て、彼女もおにぎりを食べていた。
あれだけあったおにぎりがなくなった。
と言っても、僕がほぼ食べたんだけど。
「ふ~旨かった~」
「若い子には、ハンバーグとかの方がよかったかな?」
おばあちゃんは、僕の前にお茶を置いてくれた。
「こんな美味しいおにぎり初めて食べました」
「そうかい?それはよかった。頑張ってる大和君を見てたら、私も頑張ろうと思ってね」
おばあちゃんは空になったお皿を手に取り
「こんなにたくさんのおにぎり握ったの久々だわ」
「手作りのおにぎりか」
思えば、ずっと父親から千円を渡されて、コンビニ弁当しか食べてこなかった。手作りとは縁がなかった。
「そうだ、お菓子食べるかい?甘いモノならまだ入るでしょ?」
そういうと、おばあちゃんは棚を見上げた。
棚の上から取ろうとする、がとどかない。周りを見回す。
「えっとどこにあったかな?」
おばあちゃんは何かを探しているようだ。目線が止まる。
僕の近くに手作りの台が置いてあった。
「あったあった。これこれ」
僕はおばあちゃんにその台を持って行ってあげた。
「あぁ、ありがとね。これね、おじいさんの手作りなの」
そういうと、その台をトントンと優しく叩く。
「いいでしょう。もう10年以上前かしら。突然おじいさんがプレゼントしてくれてね」
おばあちゃんは、台に上って棚の上を手をのばす。
「へぇ~。年季が入ってるんですね」
「この台ね、私のお気に入りなのよ。あの人、手先は器用だけど、どうも人に対しては不器用なのよ」
棚の上からお菓子の缶を取る。
「そんなおじいさんがくれた数少ないプレゼントなの」
台から降り、お菓子の缶を床に置いた。
「あんなおじいさんだけど、あなたの事結構、気にいってるみたいよ」
「え?そうなんですか?」
「私にはわかるのよ……」
おばあちゃんはお菓子の缶を開けた。
僕はお菓子を1つ手に取った。
おじいさんが僕を気に入ってる?
食事が終わり、作業場に戻るとおじいさんは藁で縄を編んでいた。
僕がやってきたのが気づいたのか、背中越しで
「はよ座れ。続きを始めるぞ」
と、話しかけてきた。僕は
「……うん」
とだけ返事をして、藁を編み始める。
ほどなくして、僕は藁を1つの縄にすることができた。この短時間でよくもここまでできたものだ。自分でも驚いた。
長さは1mくらい。僕は目を見開いて縄を見ていた。
「……出来たぁ」
「まぁまぁじゃな。ほれ見てみろ」
そういうと、おじいさんは自分の縄を見せてきた。
綺麗に編めている。僕の縄より長く、5mくらいあった。
「うわ!長い!」
僕は幼い自分に戻っている気がした。高校生の僕だけど、今は中学生?いや小学生みたいになっている。僕はそのころの思い出がほとんどないからだ。母さんが離婚していなくなってからは…
だからなのか、こういう田舎で普段やったことのないことをやるのが楽しく思えてきたのかもしれない。
おじいさんは僕の作った縄を手に取り、自分の重ね始めた。
「じゃあせっかくだからこの2つをつなげるか」
別の藁から数本取り、僕の縄につなげて編む。逆の方でおじいさんの縄につなげて編む。すると1本の長い縄が出来上がった。
「どうじゃ?長くなっただろう」
「うん、すげえなぁ」
「これをいろいろと加工してな、しめ縄とか草履とか作るんじゃ」
おじいさんはおもむろに、出来上がった縄を引っ張った。
「藁で編んでるけどな、そう簡単には切れんぞ、これ。ほい」
僕につなげた縄を渡す。僕はおもむろに引っ張るが、切れる気配はまったくない。
「へぇ~。すごい丈夫なんだ」
「まぁ、まだこれは基礎中の基礎だからな。次はこれをいろいろな形にするのを教えてやろうか」
外を見ると夕焼けになっている。知らない間にこんなにも時間が経っていたんだ。
「って言ってたらもうこんな時間か。続きは次回だな」
「うん、あっという間だったなぁ」
「それ、ほしかったらやるぞ」
「本当に?ほしい!」
「ああ。今度はもっと難しいの教えてやるわい」
僕はつなげた縄をおじいさんからもらった。自分で1から作った縄。
縄って自分で作れるんだ。そう思うと嬉しくなった。
普通だったら絶対にほしいと思わないものが、不思議とほしくなっていた。これが田舎の魔法なのかな。
玄関には彼女がいて、おばあちゃんと話をしていた。
僕は縄を手に取り戻ってくると、こちらに気づき帰る準備をした。
「またいつでも来てくださいね」
「はい」
「今度は草履でも作るか?」
初めて会った時の印象とがらりと違う。
笑顔のおじいさん。それを見て笑うおばあちゃん。
おばあちゃんに気づいて、照れながら笑顔をやめるおじいさん。
歳をとってもこんな夫婦でいられるといいな。
靴を履き、外に出ようとする。
「またいつでも来い。今度はもっと厳しくしてやるわい」
「さようなら~ばいばーい」
僕と彼女は歩きだした。
下山するころにはすっかり辺りも暗くなっていた。
「なんか、厳しい人だったけど。いい人だったな」
「初めてでしょ?あぁやって怒られたり怒鳴られたりしたの?」
「え?……あぁ」
そういやそうだった。僕は父親に怒られたことはない。まぁ会話すらしなかったんだから当たり前だけど。学校の先生や先輩とかに怒られるのとは違う、あの感じ。生まれて1度もなかった。
「さ、ツアーの最後よ」
「え?どこ行くの?」
そういうと彼女は無言で歩き出した。
大きな木があるところに戻ってきた。
「ここは朝に来た木だろ?」
「このツアーのメインよ」
「メイン?」
「何言ってるの?これはなんのツアーか覚えてるの?」
「え?……あ」
「自殺ツアーでしょ?」
「……うん」
すっかり忘れていた。これは自殺をするためのツアーだ。
「最後はここで自殺してもらうわよ」
「え……」
木の裏側に移動すると、見たことのある台があった。
「……この台」
「さっき、ミヨさんに言って貸してもらったの」
「これをどうすんだよ?」
「18歳でも首つりくらい知ってるでしょ?それをここでやってもらうわ」
「首つりって。何でやる……」
僕はハッとした。自分の手には縄を持っているではないか。
「ビンゴ。その縄とこの台、そしてこの木の下でしてもらうわ」
「……なんで、よりによって」
「何言ってるの?これはあなたが望んだ事でしょ」
「そうだけど……」
「自分の首を吊る為の縄を、自分で作ったのよ」
このために、僕に縄を編ませた?
「そして樹齢数百年の木の下でやる。こんな贅沢な首つり、他にないでしょ?」
僕は何も言えなくなっていた。
「心配しないで、死体は私がちゃんと片付けるから」
そういうと彼女は僕に背中を向けた。
「自殺でもなんでもね。やるのは簡単。でも、本当にそれでいいのか」
彼女は語り始める。
「私達のお客は何か訳があって来る方ばかり。不倫やら熟年離婚やら。でも本当にそれでいいのか、もう1度考えてほしいの。それがこのツアーの本当の目的なの」
そういうと木を見上げる。
「もししちゃったら、もう後戻りは出来ないから……あの時のように」
彼女は昔を思い出しているようだった。
そういうと彼女は歩き出した。
「それじゃあ」
「あ……」
彼女は消えていった。
台の方を見る。手には縄。
ゆっくり台に乗り木を見上げる。手の届くところに太い枝が出ていた。
縄を枝にくくりつける。反対側に輪を作るように縄を結ぶ。
首つりをするような形が出来上がった。
緊張の面持ちで息を吐いた。
自殺ツアー、それは僕が望んだこと。しかし、いざ目の前になると震えている自分もいた。
僕の手は小さく手が震えている。
輪の中に首を入れた。
生唾をゴクリと飲む。
強く目を瞑った。
辺りでは鳥が鳴いている。朝日が照らしている。
山小屋の中から一郎が出てきた。眩しそうに朝日を見る。
「ん?」
草原に大きな木。
そこに大和の姿はない。
「……こんな朝っぱらから何しに来た?」
一郎の目の前には大和の姿があった。
「おじいさんがまた来いって言うから来たんじゃんか」
「……まったく、いい迷惑じゃ」
中からミヨが出てくる。
「あらあら、どうしたの?」
「ばあさんや。朝からこんなところにいたら迷惑じゃ。早く中に入れて朝飯でも食わせてやれ」
「……はいはい。おいで大和君」
「……うん」
「飯食ったら昨日の続きじゃ」
中に入っていく大和。手には縄を握り締めている。
大和に続くように一郎とミヨも中に入っていく。
その様子を遠くからメグが見ている。フッと微笑んで歩いていった。
