見出し画像

訳あり旅行会社 第2話

僕は、布団で横になって天井を見ていた。
死ぬ前に何をするべきか、その答えなんてあるのか?

ふと、テーブルの方を見た。テーブルの上には白い粉の袋が置いてある。
興味なんてまったくない、ただ渡された、そして中身が何かくらい僕にだってわかる。今、ここに警察が来たら終わりだ。
そんなこともわかっている。でも、ぜんぜん焦ったりしない。
どうせ、僕の人生はもう終わってるんだから…

日中、ふとあの店に行こうと思い、外に出た。
しかし、店の前につくとシャッターが閉まっていた。
名刺を見ると「営業時間 21時~5時」と書いている。
なんだここ、深夜しか営業していないのか。旅行会社のくせに…
僕は名刺をポケットに入れ歩き出した。

小さな通りを歩いているとお墓が見えてきた。
そういやこの辺りは墓地だったか。
ふとお墓に人影が見えた。彼女の姿があった。鳳メグ。昨日ビンタされた彼女だ。
しかし、お墓に用事って、墓参りでもしてるのか?
別に今日お盆でもないのに…
そう思っていると、彼女はお墓から出てきて歩いて行った。
僕はどうも気になってた、後をつけていった。

少し離れたところを彼女が歩いている。僕はその後ろ、少し離れて歩いていた。曲がり角を曲がる。僕も曲がった。が、そこには彼女の姿がない。
ハッとして辺りを見回していると、狭い路地があり、そこから彼女が出てきた。
「どうしたの?」
ふいをつかれて驚いてしまった。
「なんか用かしら?」
彼女は昨日のことがなかったかのように話しかけてきた。
「……いや、別に」

なんとなく無言で並んで歩いていた。
こんな冷静な人が昨日、急に怒り出した。それが頭から離れていない。
僕は、この無言に耐えられなかった。
「……捨てました」
「え?」
「あの、粉」
「……そう」
そういうと再び歩き出した。また無言が続くのかと思ったら、今度は向こうから話しかけてきた。
「あなた今、何歳?」
「え?18ですけど」
「私にね、2コ下の弟がいてね」
「そうですか」

「丁度あんたくらいの年齢の時に……死んだわ。10年前の今日……ヤク中で」

彼女の思わぬ告白に驚いた。僕は何も言えなくなった。知らない間に足を止めていた。
「……」
「弟とは仲良くはなくてね。ヤク中と知ってても何もしなかった」
「……」
「なんで何もしなかったのかな。今となっては後悔してるの」
僕は彼女の顔を見た。彼女は無表情で冷静に話していた。
「私は就職して家を出てた。だから関係ないと思ってた。でも……」
彼女の目から涙がこぼれている。
「あんとき、ちゃんと止めていれば……」
僕は何も言うことが出来なかった。冷静な人の涙には、不思議なものがあった。彼女はそのまま話し続ける。
「世間って冷たいものね。仕事場では変な目で見られたわ」
「変な目?」

「お前もやってんじゃねえのかってね」

「え……」
「ま、そう見られても仕方ない世の中なのよね」
「……」
「関係ないって思っても、結局は兄妹だなって。血って繋がってるもんなんだなって」
そういうと、前を向いて歩き出した。
「あの」
「ん?」
「……いや、なんにも」
僕はノドまで出かかっていた。

自分と同じだということを。

この人にこんな過去があったなんて、思いもしなかった。
僕らはその後、何も話すこともなく、知らない間に別れていた。

家に帰って、少し考えた。
僕も父さんと向き合ってなかった。話さない、関わらないのが普通になっていた。だから、あんなことが起こったのかもしれない。
ちゃんと父さんと向き合って、話をして、そうすれば父さんは殺人事件なんて起こさずにすんだ、自殺なんてしなかった。
だったら僕はどうしたらよかったのか。きちんと父さんと向き合えばよかったのか。
あの人になら、僕のこと、話してもいい、そう思うようになっていた。
ツアーとかともかく、話したら何かわかるかもしれない、何か変わるかもしれない、そう思った。

次の日、僕は彼女に会いに来ていた。
夜の21時、開店時間ピッタリに訳あり旅行会社にやってきた。
少し緊張の面持ちで中に入ると、彼女が声をかけてきた。
「いらっしゃい」
僕が緊張しているのかを気にもせずに、いつも通り接客をしている。
「あ、あの、この間の件なんですが」
「はい」
「理由を聞いてくれるんですよね」
「聞くって言うか、ツアーを組むのに必要な事なので」
「あの……」
僕は意を決して話した。

「俺の父親は、殺人者なんです」

少し緊張した。周りに他の客がいなくてよかった。開店時間だったら誰もないと思ってた。
でも、彼女はどう思うだろう?
驚くか、それとも突き放すのか、そんなことを考えていたら、予想外の反応が返ってきた。

「……そう」

そう?驚かないのか?普通はここで驚くはずだが…
「え?驚かないんですか」
「で?」
で…あくま冷静だった。本当に旅行プランの話をしているかのようだった。
「あ……で、その後、父親が自殺したんです」
「……なるほどね」
彼女はパソコンをたたいている。メモでも取っているのか。僕は話を続けた。
「それ以来、周りの目が怖くて。どうしたらいいのか……」
「……」
「俺の人生をめちゃくちゃにした父親が憎くて。でも勝手に死にやがって。あいつに何も出来ないんです」
「ふ~ん」
「ふ~んって。何も思わないんですか?」
「何?慰めてほしいの?」
「……そんなんじゃないです」
彼女のパソコンをたたく手がとまった。
「……わかったわ」
「え?」
「ツアー組んであげる」
「ツアー?」
「自殺ツアー。したいんでしょ?」
「……それは」
「どうなの?」

自殺ツアー?半分冗談で言ったことが現実になるのか?

「……どんなツアーになるんですか?」
「まだわからないけど。ま、最後は自殺する、くらいしかまだ言えないかな」
「……そうですか」
「どうするの?」
「……」
「別に無理にとは言わないわよ」
「……すいません。ちょっと、考えさせてください」
「……わかったわ」
パソコンの画面を見ると、そこには自殺ツアー、と書かれているのがはっきりわかった。

その帰り道、自殺ツアーのことが頭から離れなかった。
本当にやるのか?と言うか、自殺ツアーってなんなんだ?
自殺するのを止めるツアー?そんなわけない。
じゃあ自殺をするツアー?どういうことだ?もっとそんなわけない。
考えれば考えるだけわからなくなってくる。
そんなことを考えていたら雨が降ってきた。
僕は空を見上げた。顔に冷たい雨が当たる。
死ぬのが怖いわけじゃない。でも、本当にそれでいいのか…
彼女に話を聞いてもらえて、少し肩の荷が降りたような気にもなっている。
今まで誰もちゃんと話を聞いてくれなかった。でも、ようやく話せた。
特にアドバイスがほしい訳でもない、慰めてほしい訳でもない。

自殺ツアーか……

深夜に家に帰ると、なかなか寝付けなかった。
どうしても頭から離れない…

気が付いたら朝になっていた。寝た感じはまったくしていなかった。
すると、外でドアの叩く音がなった。
「すいません、大家ですけど。松本さんいますか~?」
僕は眠い目をこすりながら玄関のドアを開けた。
「はい、今開けます」
ガチャっとドアを開けると、外は相変わらず雨が降っており大家が立っていた。
「あの?なんですか?」
そういうと大家さんが一瞬怯むのがわかった。
「松本さん。あの~その~」
ん?なんか様子が変だ。寝起きの僕にでもわかる。
「はい?なんでしょう」
大家はモゴモゴしながら言ってきた。

「近いうちに出て行ってもらえないかな?」

それは予想外の言葉だった。
「え?なんでですか?」
「なんでって、そりゃ」
僕はふと思い出した。家賃だ。そういや今まで父さんが払っていたのだ。それが急に止まったのだから…
「あ、家賃ですよね。すいません、ちゃんと払いますので」
「お父さんの事、聞いてね」
「え……」
僕は固まってしまった。そうだった……世間の目を忘れていたのだ。
学校で、近所で散々言われたのに。家は安全な場所だと思っていたのに。
「他の住人や、近隣の人から、いろいろ言われちゃってね」
「そんな」
「とにかく、早いうちに頼むよ」
「え?じゃあ僕、ここ出てどこに行ったらいんですか?」
「そんなの、自分で考えなさいよ。子供じゃないんだから」
大家の冷たい言葉に一瞬イラっとした。それを大家も気づいたのか、ビクッとする。ダメだ、冷静になれ。
「お願いします。もうちょっと待ってください」
僕は頭を下げた。家賃を滞納しているわけでもないのに、なぜ謝らないといけないんだ…でも、今はそんなこと考えている暇はない
「せめて一か月だけでも…そうすればどこか探しますから」
僕は外に一歩だけ出た。その時
「何!?警察呼ぶよ!」
「え?なんで?」
「もうこれ以上、ここにいないでください!じゃあ」
そういうと、大家は逃げるように帰っていった。
「ちょっと大家さん!」

一歩外に出て、大家の後ろ姿を見ていた。大家はこちらを軽蔑するような目で振り返り、雨の中逃げていった。
左右を見ると、両隣の住人がこちらを見ていた。その目線も冷たい、軽蔑しているような目だった。
そして僕の目線に気づき、慌ててドアを閉めた。
やっぱり僕の味方はいない。ついに家まで追い出されるようになった。
僕はこれからどうしたらいいんだろう。子供じゃないんだから自分で考えろ、そう言われても、状況が状況なだけにわからない。

僕は力なくドアを閉めた。外では雨が降っている。
室内を見回すと、目線の先のテーブルの上の訳あり旅行会社の名刺があった。
彼女の話してどこか心が安心していた自分がバカのようだ…
そうだ、やっぱり世の中こんなものだ。
僕の中で1つの決断ができた。

その日の夜、雨はすっかりやんでいた。
僕は21時には店の前に来ていた。
ドアが開き中に入る。彼女が声をかけてくる前にこちらから声をかけた。
「あの、ツアーお願いします」
突然、声をかけたのにも関わらず彼女は冷静だった。
「……わかったわ」
そういうと何やら書類を出してきた。
「じゃあこれにいろいろ書いてちょうだい」
「わかりました」
そこには住所、氏名など普通のことを書くようになっている。
普通の旅行のプランを決めるときのように…
でも、このプランの動機などを書く部分もあった。
僕は少し考えながらも、前に話した内容を書いた。
「ツアーが組め次第、連絡するわ」
書き終えると、彼女はそう言い奥の部屋に消えていった。

家に帰ってくると僕は布団に横になり天井を見ていた。
案外あっさり決まった、自殺ツアー。
別の後悔なんてない。自殺することを…
でも自殺ツアーってどんなのだろう?
死ぬ前にやること、死ぬ前に食べるもの、死ぬ前に…
考えだしたらキリがない。
まずは、ここを出ていかないといかない。解約とかってどうするんだろう?
まぁいい、大家から出ていけと言われてるんだ。勝手に出ていこう。
新しい家は…必要ない。
だって死ぬんだから。死んだ後のことを考えるのはやめておこう。
ツアーの日までなんとかなるだろう。
そんなことを考えていたら、だんだん眠くなってきた。

次の日、窓ガラスを叩かれるような音で目を覚ました。
音の正体が気になりドアを開けて外に一歩出た。
ドアの外に「出てけ!」「この殺人者!」「死ね!」等書かれた紙が貼られていた。
僕は無言でその紙を破いた。
こんなことをやってくるやつもいる。何が目的なんだろう?
SNSで誹謗中傷してるやつらと変わらないじゃないか。
そんなことを考えていると、今度は窓に石が当たる音がした。
窓を開けた。
何かが飛んできて顔に当たった。
石だ。
外を見ると子供が石を投げているのが見えた。
部屋の中に落ちた石を拾い子供を見た。
目線に気づき子供たちは逃げていった。
大家に言われなくても、どうやら引っ越しをする運命になっていたのかもしれない。
その時、スマートフォンが鳴った。
僕は音に反応してすぐに電話に出た。
「もしもし」
「もしもし、ツアーが決まったわよ」
その報告は突然だった。
「来週の日曜に出発します。必要なものをメールで送るわね」
「わかりました。あの何をするんですか?」
「それは当日のお楽しみよ」
「お楽しみって」
旅行じゃないんだから…
でも、ツアーだから、そういうのも仕方ないか。
前に言ってたのは、最後は自殺するくらいしか言えない、と。
その前に何かあるのか?
自殺の名所につれていくだけ?そんなわけないか。
それとも楽に死なさてくれるのか?
それはそれでいいのかな。
最後にやること、最後に食べるもの、最後に考えること
僕がわからないことを全部教えてくれるのか?
どうするにしろ、僕が死ぬことはもう決まったようだ。
僕の命は来週の日曜日まで。

当日、朝の8時に待ち合わせの場所に向かうと、そこに彼女はいた。
僕は動きやすい服装でそこへ行った。
必要なもの、と言っていたが特に何もなかった。動きやすい服装で来ることくらいしかなかったから、逆に何を持っていったらいいのかわからなくなった。
彼女も、動きやすい服装出来ている。なんか旅行会社の案内する人って、バスガイドみたいな服着るんじゃなかったのか?
「案内するような恰好じゃないな」
「まぁ、おいおいわかるわよ」
「なぁ、本当に…その」
「自殺ツアーよ。安心して」
「安心できないでしょ、普通」
「あなたが言ったことでしょ」
「そうだけど」
そういうと彼女は歩みを進めた。僕はそれについていった。

車に乗って移動している。その車内は特に会話もなかった。
僕はどこに連れていかれるのだろう?
そのことがずっと頭から離れない。
「昨日はちゃんと寝れた?」
「え?寝れるわけないじゃん」
「そう」
当たり前だ。死ぬ前日、ぐっすり眠れるわけがない。
「しばらく移動だから寝てていいわよ」
「そう言われても…寝れると思う?」
「そうね」
そういうとお茶を差し出してきた。僕は受け取って一口飲んだ。
「大丈夫よ。睡眠薬なんて入ってないから」
僕は吹き出しそうになった。
「なんだよそれ」
「ふふふ、冗談よ」
そういうと車は山の方へ向かっていった。

車で2時間は走っただろう。
駐車場なのか、どうなのかわからない山の広場に車を停めた。
「ここから歩くわよ」
まだ目的地じゃないようだ。ここから歩くのか。どこに連れていく気だ?
そう思いながらも彼女についていった。
しばらく道なき道を歩く。すると大きな草原に出た。

広い草原。その真ん中に大きな木がある。
彼女はその木の近くで立ち止まる。僕は辺りを見回しながら木に近づいた。
「なんだここ?」
日本にこんな場所なんてあったんだ。小学生のころとかにテレビCMで見たことあるくらい?広い草原に1本の大木。
高さはどのくらいあるのだろう?想像できないくらい大きい。
彼女はその木をさすりながら話しだした。

「この木はね、樹齢数百年の木なの」
「へぇ~。すげえなぁ」
僕も木を触ってみた。どっしりと太い。言われなくても樹齢何百年とわかるような木だ。
「どう?不思議なパワーを感じない?」
「さぁ?わからないけど、すごいのはわかるかな」
「この地を数百年も見続けた木」
彼女は木の周りを歩いた。僕もそれについていくと、裏側には手作りのブランコが作られていた。
木の枝にロープをひっかけて作った、漫画に出てきそうなブランコ。アスレチックとかでしか見たことがない。
「この木で沢山の子供が遊んだのよね」
「このブランコも、年季入ってる」
僕はブランコに乗ってみた。何年振りだろう、ブランコなんて。
高校生になってから、公園にもいかないし、ましてやブランコなんて乗ることもなくなった。
「この木は子供たちの遊び場だったのね」
「ふ~ん……ん?そんな話をして、もしかして自殺する俺を止めようとしてる?」
僕はふと思った。やっぱり自殺を止めるツアーなんじゃないのか。こうやって人の思い出話をして、僕の感情を揺さぶるつもりなのか。
「……どうかしら?」
彼女は木をさすりながら微笑んだ。
「何を言われても、俺には無駄だから」

「来週には伐られるの。この木」

それは突然だった。来週にはこの木が伐られる?
「え?なんで?」
「ここにゴルフ場が出来るみたいなの」
そういうと彼女は気を見上げた。僕もつられて見上げる。木の先が見えないくらい大きな木。
「だからこの木の命も来週まで。たぶん、私達がこの木にとって最後の客になるでしょうね」
最後の客?たしかにこんな山奥に誰も来ないだろう。
「さ、行くわよ」
「なんだよ。ちょっと待ってよ」
彼女はそそくさと歩いて行った。慌てて僕は追いかけた。

山道を歩いている。かれこれ1時間は歩いただろう。
彼女は相変わらず無表情。僕はさすがに疲れてきた。
「おい、どこに行くんだよ」
「もうへばったの?若いのに情けないわねぇ」
「は?へばってねえよ!」
僕はムキになって彼女を追い越した。
そんな僕を見て彼女はフッと笑っていた。

そこからまた1時間くらい歩いた。
すると目の前に大きな山小屋が見えてきた。
山小屋の前で立ち止まった。煙突があり、レンガとか木でできた家。これもドラマとかでしか見たことがない。この時代にこんな家に住んでいる人がいるものだろうか。
「着いたわ」
そういうと彼女は中に入っていった。
「ん?なんだここ?」
僕も同じように入っていった。

#創作大賞 #お仕事小説部門

いいなと思ったら応援しよう!