時給1万円のアルバイト その2 監禁生活
杉山と内山は小さく笑っていた。
杉山「よし、じゃあ始めよう」
2人は部屋を出て、向かいの部屋から声をかける。
内山「お前が思っている以上に、辛いぞ」
ふと、拓は部屋のドアが閉まっていないことに気づいた。
拓「おい、ドア閉めないのか?」
向かいの部屋から内山と杉山は拓の様子を見ている。
内山「あぁ、お前の様子も見たいしな」
杉山「気が向いたら閉める」
拓は2人の方を見た。部屋から見えるように向かいの部屋の壁にデジタル時計がかけてある。10時を指している。
ドアのすぐ近くにテーブルとイスが置いてあり、拓の様子を見れるようになっている。
拓「10時か……」
そういうと拓は床に横になった。
向かいの部屋では杉山と内山が椅子に座って、拓の様子を半笑いで見ている。
杉山「ん?」
杉山は何かを感じて入口の方をみた。
杉山「あ、お疲れ様です」
内山「今、始まったとこです」
杉山と内山は頭を下げて話しかける。
そこには頷く男の後ろ姿があった。
拓「さて、どうしようか」
拓は部屋を見回していた。やることもないので、そのまま目を瞑った。
どのくらい時間が経っただろう?拓は知らぬ間に眠りについていた。
拓「あ、寝てたか……」
拓は大きく伸びをした。時計は11時を指している。
拓「もう1時間経っちゃったな。この調子じゃ余裕だな」
そんな拓の様子を杉山が見て、小さく笑った。
杉山「これからがきつくなるぞ」
拓は足元の小石を壁にぶつけていた。時間の経過がとても遅く感じる。
拓「にしても、暇だなぁ」
向かいの部屋では杉山が拓の監視をしている。時計は12時を指していた。
拓「あ、ねえ?なんか下に敷くものとかない?石の床で寝るのは痛くて」
杉山「そんなものはない。それを遊び道具にされても困るんでな」
拓「しないよ。そんなの」
杉山「食事の時間だ」
そういうと杉山はトレイを持って入ってきた。
トレイには、カツ丼、カレー、うどん、サラダがのっている。
拓「え?こんなにあるの?」
杉山「少ないか?」
拓「いや、多すぎでしょ」
杉山「多かったら残してもいい」
そういうと、杉山はトレイを床に置いて部屋を出た。
拓「まぁいいや」
拓は無我夢中で食事を食べ始めた。
そんな様子を杉山は部屋を出て向かいの部屋から見ている。
ガツガツ食べている拓。しかし、杉山の目線が気になった。
拓「何見てるんだよ」
杉山「ゆっくり食えよ」
拓は再び食べ始めた。杉山は、その様子をニヤつきながら見ていた。
拓「あーもう腹いっぱい」
拓は横になって腹を擦っている。
カレーとカツ丼が半分なくなっていて、うどんは少し減っている。サラダはなくなっている。
向かいの部屋から杉山がやってきて
杉山「なんだ、もういいのか?」
拓「こんなにも食えないよ」
杉山「……そか」
そういうと杉山はトレイを運び部屋を出た。
拓は天井を見上げている。そしてゆっくり目を閉じた。
拓は知らない間にまた寝ていた。
ふと目が開き、大きく伸びをした。
時計は1時を指している。
拓「また寝ちゃったなぁ~」
そういうと上体を起こした。
しばらくして拓は空腹になってきた。
拓「腹減ったなぁ~」
向かいの部屋の時計は2時を指している。
拓「まだ飯食ってから2時間しか経ってないじゃん」
そういうと拓はドアの近くに移動した。向かいの部屋には内山がいた。
拓「あれ?代わってる」
内山「ん?あぁ、交代の時間なんでな。なんか用か?」
拓「ねえ?なんかおやつでもない?」
内山「そんなものはない」
拓「んだよ……」
拓は部屋の中心に戻った。頭を掻きながら部屋を見回す。
拓「なんもやる事ねえな」
向かいの部屋の時計は7時を指している。
部屋で食事をしている拓。ラーメンとスパゲティと大盛りのサラダ。
拓「やっと飯だ。腹ペコで仕方ねえ」
そういうと拓はガツガツと食事をしている。
向かいの部屋で杉山がその様子を見ていた。
内山がイスに座って監視をしている。入口のドアが開き杉山が入ってきた。
杉山「どうだ?」
杉山が内山に質問した。
内山「歌、歌いだしたよ」
奥の部屋から拓の歌声が聞こえる。
杉山「よっぽど暇なんだな」
内山「交代の時間か」
部屋の時計は10時を指している。
杉山「まだ始まったばかりだな」
拓はイライラしてきた。今、自分が何をしているのか、まったくわからずただ時間になれば食事を与えられるだけだ。
こんなことに何の意味があるのか。そう思うが母親の為だから仕方ない、と思うしかなかった。
拓「腹減った」
向かいの部屋を見る。時計は12時。
拓「まだ半日しか経ってない」
拓は横になっていた。向かいの部屋の時計は2時。
イスに杉山が座っている。
拓「ねえ?ちょっと!」
杉山「ん?なんだ?」
拓は入口ギリギリのところまで移動する。
拓「なんか食べ物とかない?」
拓のその言葉に、杉山は時計を見た。
杉山「まだ2時だぞ」
拓「腹減ってしかたねえんだ」
杉山「6時まで待ってろ」
拓「んだよ……」
拓は残念そうに壁にもたれかける。
拓「一ヶ月の辛抱だ」
拓は3種類の丼をガツガツ食べている拓。
向かいの部屋の時計は6時を指している。
食べ終わったトレイを運んでいる内山。どれも少しずつ残っていた。
拓は向かいの部屋の時計を見ていた。カチッと音が鳴り時計は10時を指していた。
拓「やっと一日経った……」
拓は壁に2つ目の横線のキズをつけた。
拓「2日目だ」
時間になれば大量の食事をあたえられる。
拓はペットになったような気分だ。楽しみといえば、1日3回の食事くらいしかなく、後は寝てるか、部屋に転がっている石を投げるか。
それくらいしかやることがなかったからだ。
壁にキズが3つになった。
拓は内心おかしくなりそうだった。
拓「あー!なあ!おっさん!」
向かいの部屋の杉山に声をかけた。
拓「おい!おっさん!」
向かいの部屋にいる杉山が反応する。
杉山「ん?なんだ?」
拓はドアの近くまで移動して
拓「なんか食い物とかないの!」
杉山「食事は1日3回。そう言ったはずだ」
拓「でもよ」
ドアのギリギリに立っている拓。
杉山「おい。そこから出たら失格だぞ」
拓「……くそ!」
悔しい思いで部屋の中心に戻る拓。頭を掻いた。
拓「あー!もう!」
壁にキズは5つになった。拓のイライラは頂点まで登っている。
拓は壁を蹴っていた。
拓「あー!んだよ!」
部屋をウロウロするしかなかった。
拓「腹減った!暇だ!暇だ!腹減った!」
ドアが開き、内山が入ってきた。憎たらしい笑顔の内山を拓は睨むように見ている。
内山「まぁそんな目で見るな。ほれ」
そういうと内山は1冊の本を差し出した。
拓「……本?」
拓は、内山から本を受け取った。
内山「お前に貸してやる。暇つぶしに読んでろ。ただし」
拓「ただし?」
内山「大事に扱え。くれぐれも破ったりするなよ」
拓「あぁ。わかった」
内山は部屋を出て向かいの部屋のイスに座って拓の様子を見ている。
拓は座り込み本を読むしかなかった。
拓「小説か……まぁいいや」
今の拓には、なんでもいいから暇つぶしアイテムがほしい、それしかなかったのだ。
部屋の中では拓が本を読んでいる。内山はイスに座ってその様子を見ていた。入口のドアが開き、杉山が入ってくる。
杉山「お、いよいよ始まったか」
拓は座り込みマジマジと本を読んでいる。最後のページを読み終えた。
拓「あーもう終わっちゃった……」
その様子を杉山が見ていた。
杉山「もう終わったのか」
拓「なあ、他に本は……ねえよな」
杉山、小さく笑った。
拓「だよな……くそ!」
再び本を読み始める拓。その様子を監視カメラに映っていた。
壁のキズが7つになっている。部屋の中央に本を立て、本を飛び越えている拓。
拓「つまんねえな」
拓はため息交じりでつぶやいた。その時、ドアが開き内山が入ってきた。
内山「本は回収だ」
拓「おい!やめろ!」
内山は本を拾い上げ、部屋から出ようとした。
拓「おい!返せ!返せ!」
拓のその言葉に内山はニヤリと笑った。
内山「大丈夫だ。代わりに別の物をやる」
そういうと、部屋の外からクッキーのお菓子を部屋に投げてきた。
内山「次はこれだ……中身もある。大事に食べろよ」
内山は向かいの部屋で椅子に座って拓の様子を見ていた。
拓はクッキーのお菓子を見ると、慌てて手に取り袋を開け食べる。
拓「ダメだ!大事にしないと」
1つだけ食べて、床にクッキーを置いた。
食事を食べようとしている拓。トレイには大盛りのご飯、から揚げ、焼きそば、味噌汁、サラダがある。
向かいの部屋では杉山がカップめんにお湯を入れていた。
拓「あんたの食事はそれか?」
杉山「あぁ。いいなぁお前は豪華で」
時計は7時を指している。杉山は腕時計を見た。
ガツガツ食べている拓。ふと向かいの部屋を見た。
時計のカチッとした音が鳴り、針が1つ進んだ。その時、杉山は腕時計を見てカップめんを食べ始めた。
壁のキズは10個になっている。
あれだけ食べているのに拓は少しやせ細っていた。
空になったクッキーの袋を見ていた。
拓「あー!くそ!くそ!」
袋を投げ、壁を蹴った。
拓「くそ!なんだんだ!このバイト!」
頭を掻く拓。落ち着きのない様子で部屋をウロウロしている。
杉山「まぁそうイライラするな」
ドアの方には杉山が立っている。
拓「おい!なんか!なんかないのか!?」
杉山「さぁ?どうしようかなぁ?」
拓「おい!さっさとしろ!」
杉山「今日は、いいものを貸してやる」
そういうと、ポケットから携帯電話を取り出し拓に見せてきた。
杉山「俺との会話にも飽きただろ」
拓に向かって携帯電話を投げた。
杉山「電話の相手は……この仕事の幹部だ」
拓「何?」
杉山「つまりこの仕事を考えた本人だ。言いたい事も沢山あるだろ」
拓の携帯電話を握り締める力が強くなる。ゆっくり耳元へ持っていく。
拓「もしもし!おい!てめえ!」
「……」
拓「こんな仕事させやがって!」
「……」
拓「今すぐこっちへこい!ぶっ殺してやる!」
「……」
拓「おい!なんとか言ったらどうだ!」
「……」
何を言っても反応がない。そして電話が切れる音だけがした。
拓「おい!もしもし!もしもし!」
杉山「あらあら、切れちゃいましたか?」
拓「リダイヤルしてやる」
杉山「それはダメです」
杉山は拓から携帯電話を取り上げた。
拓「何しやがる!」
杉山「せっかく俺以外の人と会話出来るチャンスだったのに。もっと会話を考えないと」
そういうと杉山は小さく笑って部屋を出た。
拓「くそ!」
壁のキズは15個。キズを見ながら拓はブツブツと呟いていた。
拓「後、半分。後、半分」
内山が入ってくる。手にはトレイを持っていて、ラーメン、チャーハン、中華丼がのっている。トレイを床に置く内山。食事にがっつく拓。
拓は、完全に飼われているペットのようになっていた。
空になった丼と皿がトレイにのっている。そこに内山が入ってくる。拓は内山を睨むように見ている。
拓「おい、そろそろ何かないのか?」
内山「そろそろないとは?」
拓「わかってんだろ!」
内山「……まぁそう焦んな」
拓は内山に皿を投げつけた。大きくパリーンと皿の割れる音がした。
拓「うるせえ!」
拓の内山を見る目が殺気立っている。
拓「早くしろ!」
それを見て内山は小さく笑った。そしてポケットから10万円出して拓に投げつけた。
内山「ほらよ。これで遊べ」
拓「てめえ!」
拓は10万円と投げ返した。床にお札が散らばる。
拓「なめてんのか!金ならいらねえんだよ!」
拓の息遣いが荒くなっている。
拓「後、半月。半月待ったら金もらえるんだ。」
無言で部屋を出る内山。
拓は部屋の入口ギリギリで踏みとどまった。床には万札が散らばっている。
舌打ちをして万札をしばらく見て折り始める。万札で紙ひこうきを作り、投げる。紙ひこうきが飛ぶ。
壁のキズは20個。壁にもたれかかって放心状態に拓はなっていた。
拓「後、10日。後、10日」
拓は狂ったようにブツブツ呟いている。
そこに杉山が入ってきた。
杉山「だいぶ弱ってるようだな」
杉山が話しかけても拓に反応はない。
杉山「今日はお前にいいものを持ってきた」
そういうと拓に向かってナイフを投げてきた。部屋の隅の方にナイフが落ちる。それに気づく拓。ゆっくりとナイフを拾った。
杉山「辛かったら、死んでギブアップしてもいいんだぞ?」
杉山のその言葉に拓は激怒する。
拓「誰がギブアップするか!」
拓は杉山にナイフを向けた。杉山は両手を上げる。
杉山「おぅおぅ焦るな、焦るな」
その時、監視カメラが動いた。
拓「後10日なんだぞ!今更そんな事言うか!」
杉山は部屋の真ん中で立ち止まった。
杉山「そうか、じゃあそれを返せ」
ナイフを杉山に向けながら近づく拓。
杉山「それとも、俺を刺すか?」
ニヤリと鼻で笑いながら杉山は拓を見ている。
ジリジリと近づく拓。ゆっくりと後ずさりする杉山。
杉山「好きにしろ。どうせおめえに俺は刺せない」
拓の目が見開く。怒りが頂点にきたのだ。
歯を食いしばり、ジリジリと近づく。杉山、ニヤリと笑う。
拓の手にはナイフを握っている。
その時、ふと拓の脳裏に母親が浮かんだ。
これはなんのためにやっているんだ?
母親の治療代のため。
だったら…
拓の手からだんだん力が抜け、ナイフを落とした。
杉山「おい!どうした?刺さないのか」
拓「……母さんの為だ」
杉山「おい!俺がむかつかないのか?」
拓「後10日の辛抱だ」
杉山「おい」
拓「部屋から出て行け!」
拓は杉山を睨むように見ている。それを見て杉山は一歩後ずさんだ。
杉山「くそ」
部屋を出る杉山。そこには内山が立っていた。
杉山「くそ。何もしなかった」
杉山はそういうと服をめくった。お腹には防弾チョッキを着ていた。
内山「刺さなかったな」
壁に25個のキズ。拓は部屋の隅っこで座っていた。
力なく無表情で向かいの部屋を見ている。
拓「後、5日」
向かいの部屋の時計は10時。
内山がイスに座って拓を監視している。杉山がやってきて、内山と交代をしする。拓はその様子を睨むように見ていた。
部屋の時計は14時。内山が入ってきて杉山に話しかける。
杉山「どうだ?」
内山「いや、ずっとあの調子だ」
奥の部屋では、相変わらず拓が座って2人を睨むように見ている。
内山「あのままぜんぜん動かん」
杉山「そうか」
部屋の隅で座っている拓。
拓「もう少し、もう少し」
内山が入ってきてナイフを投げてきた。ナイフが落ちる音するが、拓は無反応だった。
内山「おい。こんなとこに閉じ込めた俺がムカつかないのか?」
そういうと内山は両手を広げた。
内山「殴っていいんだぞ」
手招きをする内山。
内山「こいよ!おい!刺せよ!」
拓「……」
しかし、何を言っても拓は無反応だった。
内山「くそ!」
壁のキズは29個。そこに拓は30個目のキズをつけた。
拓「やっと、やっとだ」
拓の長い一か月はここで終わった。中に杉山が入ってきた。
杉山「終わりだ。部屋を出ろ」
拓はゆっくり部屋を出た。
監視部屋では、内山が手に袋を持っていた。中身は拓が着ていた服だ。
内山「おい、お前の服だ」
そういうと、袋を拓に向けて投げた。しかし拓は受け取りそこねた。
床に袋が落ち、中の服が散乱する。
杉山「もう、まったく」
杉山は拾って拓に渡した。
拓は服を着終わった。黒い服には目立たない程度に少しシミがついていた。拓はそれに気づいて服を引っ張ってシミを見ていた。
拓「なんだこれ?」
杉山「おい」
拓「ん?何?」
杉山「もう出ていいぞ」
拓「……そうか」
杉山「金は後日振り込んでおく」
拓は部屋を出た。入れ替わるように、サングラスをかけた男が部屋に入ってきた。
内山「すいません、1つ予定外が」
杉山「でも、それ以外は、大丈夫です」
男は無言でうなづいた
ビルから中から拓が出てきて、空を見上げた。
拓「ふー!一ヶ月ぶりの外だ!」
拓は思いっきり伸びをし、深呼吸をした。
拓「外の空気ってこんなに旨かったのかな」
拓は道を歩いている。人とすれ違う。が、すれ違った人、半袖の服を着ていることに気づいた。
拓「にしても暑いなぁ。まだ5月だぞ」
体に空気を入れるように服をパタパタしていた。
拓「とりあえず、どうしよう」
辺りをきょろきょろしていると、岡野卓哉と島崎順一郎が拓に気付いた。島崎が拓に声をかけた。
島崎「あの、石橋拓さんですね?」
拓「はい、そうですが?」
2人は警察手帳を見せた。岡野が拓にしゃべりかける。
岡野「石橋響殺害の件でいくつかお伺いしたい事がありまして」
拓「え?響さんが殺された?」
岡野「そうです。一緒に署までご同行願えますか?」
拓「は?なんで僕が?」
島崎「しらばっくれても無駄だ。お前がやったんだろ!」
そういうと島崎は拓に手錠をかけた。
拓「ちょっと何するんですか!?」
島崎「詳しくは署で聞こう」
近くに止めてあるパトカーに乗る3人だった。
