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仏教系学園ラブコメ小説 「ダーリンはブッダ」 第十六回 冬の訪れ

冬の訪れ

 銀杏の木が紅葉して黄金色に輝いている。落葉で地面が黄色く染められると、少しだけいつもと違った世界を歩いているように思う。白いコートに紺色のマフラーを巻いたヒカルが真っ白な息を吐くと、駆け足で冬がやってきそうだった。

 ヒカルは寒いけれども冬が好きだ。顔に吹き付ける冷たい風、雲が絶え間なく形を変え、薄くスカイ・ブルーの空に模様を描くところ。その模様が鳳凰やドラゴン、様々なものに形を変え、何かを知らせようとするところ、制服の上に自分を守るようにコートやマフラーを重ねていくこと。それのどれもが好きだった。

 人っていつでもやらなきゃいけないことがあって、色々なものに巻き込まれて、時間がなくてぐちゃぐちゃになってしまうものだと思う。

 だけど、冬の間だけそんなぐちゃぐちゃを忘れて、ただ寒いなあ……ということに意識を集中できそうな気がした。

 冴馬はそういう、冬の持つ特性に似ていた。冴馬といると私は、自分の混乱や日常のぐちゃぐちゃを、吸い取られていくような気持ちになる。きっとそれは彼の先生から受け継いだ、すばらしい特性なのだ。
 
 北校のヤンキーと仏教部との決戦があった日から数えて、一ヶ月が経った。
 うちの仏教部が5人の部員を集め、おてもと研究会から部室を勝ち取ったという噂は瞬く間に西校の噂になった。
 私がその仏教部に入ったということも西校中に知れ渡ってしまい、ひそひそと噂されどことなく教室にいずらくはなったのだが北校での事件以来、私の周りにはいつも冴馬とガリ子がいた。

 ガリ子と冴馬は似ていると思う。周りの空気を一切読んでいないところとか、我が道を貫き通すところとか。だけど私は教室の女生徒が、今までと明らかに違う目で自分を見ていることに気がついた。その目は、「あーあ」と言っているのだった。
 
「あーあ、あんな部活に入っちゃって……」
「あーあ、ブッダ君の側にいるからっていい気になって……」
「あーあ、あなたの人生、もうダメに決まってるわ。」
 と、そんな「あーあ」を誰もが言葉にせずに発しているように感じる。するとガリ子は言った。
 
「空気っていうのはねえ、読むほどに損なのよ。大概の人は読み過ぎか読み間違えをするから。それぐらいなら読まなきゃいいのよ。言いたいことがあれば口に出して言えばいいんだから。誰でも実際の話、立派なことができるわけじゃないじゃない? 

だから小さなため息みたいな物を漏らして、少しだけ意地悪をしていい気になったりするのよね。やるべき事がある人は、そんなつまらない空気に影響されたりしないものよ。そんなことより私は27キロ台になるために努力をしなきゃ。高橋君と結婚したらウエストの細い、きれいなウエディングドレス着たいの」

「ガリ子……タカハシにちゃんと聞いた? ひょっとしたら太ってる方が好きかもしれないわよ。」
「あら、ちゃんと聞いたわよ。そしたら高橋君、女と付き合ったことがないからわからないって。けっこう純情よね」
「いや、このレベルまで痩せてたら止めた方が私は親切だと思うよ……」

 北校の事件以来、ガリ子のことをあだ名のままガリ子と呼んでいる。冴馬に北校でのガリ子の活躍ぶりを聞いたら、すごくおかしくてもう、細江さんなんて呼べる気がしなくなったのだ。

 北校のヤンキーの前に自分から出て行って股関節を両方脱臼して、救急車に乗せられて帰るだなんて……なんか、すごすぎる。入院しているガリ子のお見舞いに行き、両足にギプスを巻いたガリ子を見たら私は笑い出してしまった。そうしたら、ガリ子のことをあだ名で呼んでもいいような気がして、「ハイ、ガリ子」と言ってお花を渡すと、ガリ子は「フン、ありがとう」と言って受け取ったのだ。

「あたし、お花好きなのよ。だって、花って美しいんですもの。ピンクのバラの花だなんて、ヒカルさんにしてはやるわね。私、このお花大好きよ。」
 ガリ子は本当のことしか言わないから、私も素直に嬉しくなった。

 「痩せなきゃ痩せなきゃ」とうるさいガリ子だけど、この間、私が学校裏のおばあさんが手作りで焼いているお店のタイヤキを買ってきたら、あんこを一粒だけ食べてくれた。「あら、おいしいじゃないの。」と言って、タイヤキ一匹はほとんど残してしまったけど。あんこ一粒でも食べてくれたことが、私には嬉しい。

 そんなガリ子と一緒にいるから余計に教室の女子の私を見る目は厳しくなるんだけど、よく考えたら、あんな意地悪に無視してくる女子と一緒にいたがってた自分の方がおかしかったのかもしれない。

 大好きだった幼なじみの夏樹も私から少し距離を置くようになったけど、それもまた、過去のことなのだ。寂しいけど、それにすがるともっと寂しくなるということを、私は知っていた。



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