【大人にこそ読んでほしい一冊】ミヒャエル・エンデ『モモ』を読んで
『モモ』ミヒャエル・エンデ 2005.6.16 発行 岩波書店
内容
主人公モモが、町の外れの円形劇場に住み着き、持ち前の傾聴力で人々の心を豊かにしていました。しかし、「時間貯蓄銀行」と名乗る灰色の男たちが現れ、人々に時間を節約させて、その奪った時間で生きていることを知ります。人々の心は余裕を失います。モモは奪われた時間を取り戻そうと灰色の男たちに立ち向かうファンタジー作品。
町の外れの円形劇場に住む少女モモは、特別な力を持っていました。それは「聴く力」。モモはただ静かに人の話を聴くだけで、話す人の心がほどけていき、悩みが軽くなっていくのです。
そんな町に、ある日「時間貯蓄銀行」と名乗る灰色の男たちが現れます。彼らは人々に「時間を節約すれば、もっと豊かになれる」と説き、無駄な時間を削るように仕向けます。人々は余裕を失い、心の温かさや創造性が奪われていきます。実は灰色の男たちは、節約された時間を奪い、それで生きている存在だったのです。
モモは、奪われた時間を取り戻すため、時間の国へと旅立ちます。時間を司るマイスター・ホラや、亀のカシオペイアの助けを借りながら、灰色の男たちに立ち向かうファンタジーが展開されます。
時間と心
灰色の男たちが奪っていくのは、単なる時間ではなく、心の余白や人と人とのつながり。彼らの存在は、効率や生産性ばかりを追い求める現代社会の姿と重なります。忙しさの中で、私たちは何を失っているのでしょうか。
小さなモモにできたこと、それはほかでもありません。あいての話を聞くことでした。
人に話を聞いてもらえると、気持ちが落ち着いたり、悩みが小さくなったり、心が軽くなった経験は、みなさんもあると思います。
モモが持っていた「聴く力」は、ただ耳を傾けるだけではなく、相手の存在そのものを受け止める力だったと思います。だからこそ、彼女の前では人々が安心して話し、自分の本当の気持ちに気づいていくのです。
でも、実際に「相手の話を聞く」というのは、思った以上に難しいことです。私たちは、話を聞いているつもりでも、心の中では「次に何を言おうか」「どう答えようか」と、つい自分の思考が先に動いてしまう。そして、自分の話をしてしまいます。
本当に聞くというのは、沈黙を恐れず、相手の言葉をきちんと受け入れること。モモはその「待つ力」を持っていたからこそ、誰もが彼女の前では素直になれたのかもしれません。
だからこそ、モモのように聞くことができる人は、時間を取り戻す力を持っているのかもしれませんね。
話す相手は誰でもいいのか?
観光ガイドのジジの話では、「モモだけに話す物語」がありましたが、後半、全部人に話してしまい、魂が抜け落ちてしまう場面があります。
今の世の中では「話すこと」が、誰かと分かち合う行為というよりも、誰かに見られることを前提とした発信になっている場面が多いです。X、ブログ、Instagram…それらは本来、表現であり、記録であり、誰かとのつながりの手段だったはずなのに、いつの間にか「評価されること」「拡散されること」が目的になってしまう。そうなると、話すことが自分の魂を切り売りするような行為になってしまうのかもしれません。
灰色の男たち
たしかに時間貯蓄家たちは、あの円形劇場あとのちかくに住む人たちより、いい服装はしていました。お金もよけいにかせぎましたし、つかうのもよけいです。けれども、ふきげんな、くたびれた、おこりっぽい顔をして、とげとげしい目つきでした。
「灰色の男たち」の本質を鋭く突いています。彼らがもたらすのは、表面的な豊かさ、高級な服、多くの収入、消費の自由。しかしその代償として、人間らしい感情や余裕、そして心の温度が失われていきます。
時間貯蓄銀行のシステムに乗るということは、「無駄」を排除することに他なりません。けれども、その「無駄」の中には、誰かと笑い合う時間、ぼんやり空を眺める時間、何気ない会話といった、命を豊かにする瞬間が含まれていると思います。
「人と何かを共有する時間」
本当の豊かさは、時間の使い方ではなく、時間の感じ方にあるということだと言えます。
時間とは命
作中で語られる「時間とは命」という言葉は、物語全体を貫くテーマです。時間はただの数字やスケジュールではなく、生きることそのもの。
モモが時間の花を見つける場面では、時間が「花」として描かれます。花は移ろいやすいものです。咲いて、散って、枯れていく。しかし、また新たなつぼみとなって咲いて、再生します。それがこの場面では示されています。また、「星の時間」の場面は、非常に印象に残りました。
おわりに
『モモ』は、ファンタジーでありながら、私たちの暮らしの根幹にある問いを投げかけてくる物語です。
灰色の男たちの影響を受けた人々は、時間を節約し、効率化を極めようとします。その結果、物質的には豊かになっても、生活はやせ細っていき、心が空っぽになってしまいます。
「無駄な時間」とは、「生活」そのもの
一見「無駄」に見える時間の中にこそ、人間的な喜び、創造性、そして人生を彩る大切なものが詰まっている、と『モモ』は教えてくれます。
現代社会はますます「タイムパフォーマンス」や「効率」が重視されがちです。だからこそ、『モモ』が投げかける「無駄と思える時間こそ大事」というメッセージは、今を生きる私たちにとって、とても重要な意味を持つのではないでしょうか。
どんどん豊かになっていく生活
どんどん貧しくなっていく心
一瞬一瞬を大切に生きたいですね。
『モモ』を読んで、改めて大人にこそ、ファンタジーを読んでほしいなと思いました。
ここまでお読みいただきありがとうございました。また次の記事でお会いできたらと思います。
いいなと思ったら応援しよう!
いただいたチップで本の購入や美術館に行きます。それがまた記事になります。気が向いた時に応援していただけたら嬉しいです♪