見出し画像

『俺の好きな人を面白がって探っていた彼女が、答えが自分だと知った瞬間フリーズした』

「さあさあ、始まりました! 『武元唯衣の放課後! 気になるあの子を丸裸スペシャル〜!!』」

放課後の教室。
夕日が差し込む静かな空間に、けたたましくもよく通る関西弁が響き渡った。

声の主は、俺の前の席で、椅子をくるりとこちら側に向けて座っている武元唯衣。
彼女はどこから持ってきたのか、空のペットボトルをマイク代わりにして口元に当て、架空のカメラ(黒板のあたり)に向かって満面の笑みで手を振っている。

「本日のゲストは、この教室でただひとり居残りをしている、平凡にして特徴のない男子生徒、○○くんです! よろしくお願いしまーす!」
「……誰が特徴のない男子生徒だ。俺はただ日直の仕事が終わるの待ってただけだろ」
「はいっ、そこでツッコまない! 番組のテンポ悪くなるでしょ!」

ビシッとペットボトルで俺を指差し、名MCさながらに場を仕切る唯衣。
いつも底抜けに明るくて、クラスのムードメーカーである彼女は、こうして時々「架空のバラエティ番組」を突然スタートさせ、俺を巻き込んでくるのだ。

「えー、それでは早速、ゲストの○○くんに色々と際どい質問をぶつけていきたいと思います! ズバリ!」

唯衣は俺の机越しに、顔のすぐ近くまでペットボトルのマイクを突き出し、目をキラキラと輝かせた。

「最近、休日は何して過ごしてますか!?」
「……ただの雑談じゃねえか。普通にゲームしてるよ」
「おおーっと! 悲しいですねえ! 花の高校生が休日に家でひとりでゲーム! 彼女を作る努力がまったく見られません!」
「うるせえな、大きなお世話だ」
「ふふんっ。まあ、うちみたいな完璧な相方がおらんかったら、そんなもんやろなー」

唯衣は「ドヤッ」という効果音が聞こえそうな顔で胸を張り、ニヤニヤと俺をいじってくる。
完全に「バラエティ番組でゲストをイジっておいしくするMC」の顔だ。

(……ほんと、いつも楽しそうだな)

俺は呆れながらも、コロコロと表情を変える彼女の顔を、少しだけ愛おしく見つめていた。
ずっと「ただの気の合う友達」という仮面を被って、彼女の隣で笑ってきた。

でも、俺の本当の気持ちは、とっくの昔に「友達」の枠をはみ出している。

「……じゃあ、次! これが本日のメインテーマです!」

唯衣は一度コホンと咳払いをし、俺の机に身を乗り出すようにさらに前のめりになって、俺の顔を覗き込んできた。

「ズバリ! ○○くんには今、気になってる人とか、好きな女の子はおるんですか!?」

ニヤニヤとした、完全に面白がっている顔。
俺が「い、いねえよ!」と焦って否定するか、「実は……」とモゴモゴ照れるのを見て、思い切りイジり倒す気満々なのだろう。

夕日が、彼女の明るい茶色の髪をキラキラと照らしている。
俺は、ペットボトルのマイク越しに至近距離で俺を見つめる彼女の瞳を、真っ直ぐに見つめ返した。

「……はい。いますよ」
「おおーっと!?」

俺が一切照れずに即答したことで、唯衣は「予想外の特ダネを引いた!」と言わんばかりに目を丸くし、さらにマイクを押し付けてきた。

「こ、これはスクープの予感です! それは一体、どんな子なんですか!? 同じクラス!? もしかして先輩!?」
「そうですね……」

俺はわざとらしく少し考える素振りをし、そして、ゆっくりと口を開いた。

「いっつも元気で、ちょっと騒がしくて……でも、本当は誰よりも周りのことをよく見てて、すごく優しい子です」
「ほうほう! ええ子やんか! それで!?」
「それに……笑ってる顔が、すげぇ可愛くて。ずっと隣で見ていたいって思える子です」
「くぅ〜っ! 青春ですねえ! ちなみに、その子は今どこにいるんですか!?」

完全にテレビの前の視聴者(架空)に向けて、大盛り上がりで実況を続ける唯衣。
俺は小さく深呼吸をして、彼女の目から一切視線を逸らさずに、最後の一撃を放った。

「今、俺の目の前で、空のペットボトル握りしめて架空の番組のMCやってる人です」

ピタッ、と。
時が止まったように、唯衣の動きがフリーズした。

「……え?」

コラン、コランコラン……。

彼女の手から力が抜け、マイク代わりのペットボトルが机から床に落ちて、間の抜けた音を立てて転がっていった。

「……え、あの、えっと……」

さっきまでの流暢な関西弁と、バラエティクイーンとしての完璧な立ち振る舞いが、完全に崩壊していた。

彼女の目はパニックを起こしたように泳ぎ、夕日を浴びたせいだけではなく、耳の先から首筋までが、ゆでダコのように真っ赤に染まっていくのがわかる。

「……俺は、ずっとお前のこと、女の子として好きだったよ。唯衣」

俺がトドメを刺すように真剣なトーンで名前を呼ぶと、唯衣は「ひゃっ!?」と小さく短い悲鳴を上げ、両手で自分の真っ赤な顔を覆い隠してしまった。

「な、ななな、なんちゅうこと言うねん……っ!! ばか! アホ!」
「お前が質問してきたんだろうが。番組のMCなら、ちゃんとゲストの回答受け止めろよ」
「う、受け止められるかぁっ! こんなん放送事故やんか……っ!!」

指の隙間から、涙目になった彼女の瞳が俺を睨みつけてくる。
いつもの「男友達」のノリはどこへやら、そこには完全に「不意打ちの告白にパニックを起こした、一人の純情な女の子」しかいなかった。

「……で? 放送事故でもなんでもいいけど、俺の告白の返事は?」
「〜〜〜っ!!」

俺が少し意地悪に問い詰めると、唯衣はこれ以上ないほど顔を真っ赤にして、ギシッと椅子から立ち上がった。
そして、床に落ちたペットボトルを慌てて拾い上げ、震える手でそれを顔の前に構えた。

「……げ、現場からは……っ、以上、ですぅっ……!!」

そう叫ぶなり、唯衣は椅子をガタッと鳴らしてくるりと前を向き直り、自分の机に突っ伏して完全に顔を隠してしまった。

「……ちょっと、番組強制終了しないでよ」
「うるさいっ……! 今は無理……心臓もたへん……っ」

前の席の腕の中から聞こえる、くぐもった、でも嬉しそうな震え声。

俺は、完全にバラエティ番組が崩壊した静かな教室で、可愛すぎる「元MC」の真っ赤になった耳と震える背中を、後ろから愛おしそうに優しく撫で続けた。

~終わり~

いいなと思ったら応援しよう!