猫の歯石除去を勧める適切なタイミングと留意点
はじめに
猫の歯石除去(スケーリング)は全身麻酔下で行う必要があります。
これは歯肉の下についた歯垢・歯石を確実に取り除き、痛みや感染の原因を治療するためです。
麻酔のリスクが心配かもしれませんが、歯科処置を適切なタイミングで行うことは猫の健康と生活の質に大きく寄与します。
今回は、年齢や基礎疾患によるリスク・メリット、処置が必要な主な症状、麻酔の安全対策、そして国際的なガイドラインに基づく推奨事項について整理します。
参考文献、ガイドライン:
「2019 AAHA Dental Care Guidelines for Dogs and Cats」aaha.orgaaha.org、
「2021 AAFP Feline Senior Care Guidelines」pmc.ncbi.nlm.nih.govpmc.ncbi.nlm.nih.gov
Hall et al. “The impact of periodontal disease and dental cleaning procedures on serum and urine kidney biomarkers in dogs and cats.” PLOS ONE. 2021
journals.plos.org
Merck Veterinary Manual(猫の歯科疾患)merckvetmanual.commerckvetmanual.com
VCA動物病院(猫の歯科疾患の解説)
vcahospitals.comvcahospitals.com
AAHA麻酔ガイドライン 2020
aaha.org
年齢によるリスク・メリット
● 若い猫(若齢猫)
猫は生後半年~1年ほどで永久歯が生え揃います。1歳を迎える頃には、予防的な意味も込めて初めての歯科検診を受けることが推奨されます。

3歳以上の猫の50%以上に何らかの歯周疾患がみられるとの報告もあり、早期からのケアが重要です。若い健康な猫では麻酔のリスクは非常に低く、安全にスケーリングを受けられます。
● 成猫(中年期)
3~10歳ほどの成猫では、歯石の蓄積や歯肉炎が進行しがちです。飼い主さんが気づかないうちに歯周病が進行していることも少なくありません。

定期検診で歯肉の赤みや歯石の付着が確認された場合、適切なタイミングでスケーリングを行うことでさらなる悪化を防ぎ、口腔内の痛みや不快感を取り除くことができます。この年代でも全身麻酔下での処置は安全に行えることが多く、メリットがリスクを上回ります。
● 高齢猫(シニア・11~15歳以上)
シニアの猫では重度の歯周病、歯のぐらつき、歯の吸収病変など、慢性的な歯の問題が蓄積していることがよくあります。これらは口腔内の激しい痛みや感染の原因となり、放置すると「食欲低下」や「元気消失」など生活の質の低下を招きます。

年齢そのものは麻酔処置の絶対的な回避する理由ではありません。
「高齢であっても健康状態を安定させれば、猫は十分安全に麻酔が可能である」とガイドラインでも述べられています。もちろん高齢になるほど麻酔リスクが上がる傾向はありますが、年齢よりも猫の健康状態(内臓の状態など)の方がリスクに与える影響は大きいと、唱えられています。
適切な術前検査と管理のもとでは、高齢猫においても歯石除去の利点(痛みの軽減・感染源の除去による全身状態の改善など)の方が勝るケースが多いです。
痛みや感染を抱えたまま高齢期を過ごさせるリスクの方が大きいため、かかりつけ獣医師は高齢猫でも必要に応じてスケーリングを勧めることがあります。
慢性腎臓病(CKD)など基礎疾患がある猫への適応と注意点
慢性腎臓病(CKD)の猫では、口腔内の慢性的な炎症や細菌感染が腎臓に悪影響を与える可能性が指摘されています。
歯周病に伴う細菌や炎症性物質が血流に乗ると、心臓や肝臓、腎臓などの臓器に病的変化を引き起こすことが報告されています。
CKDの猫であっても、口腔内の感染巣は可能であれば取り除いた方が良いと考えられます。ただし、腎臓病を抱える猫では麻酔中の血圧低下や薬剤への反応に注意が必要です。
適応の判断
ガイドラインでは「高齢や慢性疾患があること自体で歯科治療を諦める(あきらめる)べきではない」とされています。
重要なのはその疾患が安定して管理されているかです。例えばCKDの猫では、十分に脱水を補正し腎機能が落ち着いている状態であればスケーリングを実施します。
口腔内の痛みや感染は慢性腎臓病を持つ猫の食欲不振や体調不良の原因にもなり得るため、状態が許すなら処置するメリットが大きいです。
一方で重度の腎不全で著しい脱水や貧血がある場合など、全身状態が不安定な場合はまず腎臓の治療や点滴で状態を安定させてから歯科処置のタイミングを判断します。
重度な脱水状態の猫さんのテントテスト。つまんだ皮膚が元に戻りません。
注意点・麻酔管理
基礎疾患がある猫では、麻酔前に追加の検査を行ったり専門医と相談したりしてリスク評価を慎重に行います。CKDの猫の場合、術前・術中・術後に点滴(静脈点滴)を行い、腎臓への血流を保つことが推奨されています。
全身麻酔では、血圧が下がり、血流がゆっくりになります。
身体の"血の巡り"を維持するために、静脈点滴を行います。
また腎臓で代謝・排泄される薬剤(抗生物質など)は通常より減量し、血圧をモニターしながら低血圧を避けるといった工夫も行います。

歯科処置に1時間以上長時間かかった猫では、腎臓のストレスマーカーが一時的に上昇する傾向が示されました。そのため獣医師は処置をできるだけ効率よく行い、必要に応じて一度に無理をせず段階的に治療を分けることも検討します。
基礎疾患を持つ猫でも、注意深い管理の下であれば、歯石除去による利益(痛みや炎症の除去)が大きいため、総合的に判断して飼い主に処置を提案します。
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