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「眠りの悪魔はパフェを夢見る」第6話

 バジーの厳しい体質改善メニューにより、今ではカモミールティーもバジーの長話しも必要とせず眠りに就くことができるようになっていた。一日の始まりの日光浴に毎日の通勤ウォーキング、規則正しい生活リズムが作られたお陰だそこは彼に感謝したい。
 ただ、今日は彼も既に寝てしまっているという不安があった。
 目を瞑り、暗闇の中でじっと眠りが来るのを待つ。寝そべるマットレスの中に沈みこみ、どんどんと落ちていく感覚に陥る。どこまでも、どこまでも落下していく。底のない暗い空間に放り出され、ただただ止まることなく下へ向かう。
 叫んでも泣いても助けなんて来ない。だから諦めて浮遊感に身を任せるしかなかった。
 不意に、風を感じた。今までにない展開に驚いていると、落下が止まり空へと体が吸い上げられる。
 そうか、これは夢だ。
 バジーがその長い鼻で悪夢を吸い上げる姿が容易に浮かぶ。
 悪夢の終わる気配に安心している内に、暗闇は消え失せ私も意識を失って'いた。

 ゆさゆさと体を揺すられてすぐに起きられるくらいには、この生活にも慣れてしまった。
「おはよう、バジーちゃん。二日酔いとか大丈夫そう?」
 カーテンを開けて朝日を浴びながらバジーに声を掛ける。
 夢を見ていた気もするが、どうにも思い出せない。ただ、なんとなく良い夢だったというぼんやりとした感覚がある。
「沙恵さん、ついにやりました! 夢パフェですよ、夢パフェ!」
「うそ、バジーちゃん昨日酔って寝てたじゃん!」
 信じられない気持ちで見に行くと、確かに扉の開いた冷蔵庫の中には虹色に輝く美しい層と、ホイップクリームに星が瞬くきらびやかなデコレーションのパフェが完成していた。
「きっと毎日の夢パフェ作りの習慣のお陰で、寝ていても無意識のうちに作っていたんですよ!」
 自慢気なバジーだが、自分でもまだ驚いているのだろう。ヒツジ耳がぱたぱたと動いているのを私は見逃さなかった。
「ほら、せっかく作れたんだから食べなよ! 念願だったんでしょ?」
 私が急かすと、バジーも気がついたようにパフェスプーンを手にする。毎日の生活リズムを整え、お酒を我慢しコンビニパフェを食べ続けた日々の努力の結晶なのだ。おいしく食べて貰わねばこちらが報われない。
「では、いただきます!」
 満面の笑みを浮かべ、バジーはスプーンでホイップを掬う。きらめく星ごと頬張り、目を閉じ味わう。しばらくじっと固まっていたバジーだが、目を開け妙な顔をしている。そのまま一口、もう一口と食べ進めるがどうも釈然としない表情を浮かべている。
「まさか、おいしくなかった、とか?」
「いえ、そんなことはないのですが……」
 口ではそう言いつつも、最後まで眉根を寄せたままだった。空のパフェグラスを前にずっと困惑しているバジーに、昨日の彼の言葉がふと蘇る。
「もしかして、私の作ったパフェの方がおいしかった?」
 私の問いに、対するぎょっとした表情が全てを物語っていた。
「そんな訳ないじゃないですか! あんなパフェとも呼べない海鮮詰め合わせもどきの方がおいしかったなんて、何かの間違いです!」
 ずっと楽しみにしていたご馳走より、私の気持ちがこもった手作りパフェがおいしかったなんて信じ難いのだろう。慌てふためくバジーの様子が愉快で眺めていると、急にこちらを睨みつけてくる。
「こんなの納得できませんからね! もっと良い夢パフェが作れるように協力して貰うんで覚悟して下さい!」
 生意気だと思いつつ、不思議と腹は立たなかった。
 次はどんなパフェをバジーに作ってあげようか、楽しみになっている私がいた。
<了>

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