文春砲を撃つ会社の台所事情 ――醜聞の陰で細る、文藝春秋という出版社
最近、文藝春秋という会社が何かと話題です。新刊がよく売れたとか、新しい文学者を世に送り出したという話ではありません。「週刊文春」や文春オンラインが放つ政治家、芸能人、企業をめぐる醜聞です。
記事が出るたびにテレビやネットが騒ぎ、「文春砲」という勇ましい言葉が飛び交います。そのため、文藝春秋は巨大な報道企業で、さぞかし羽振りもよいのだろうという印象を抱きがちです。
ところが、株式会社文藝春秋を出版社としてビジネスベースで、経営の視点で眺めてみると、まるで違う姿が見えてきます。

文藝春秋の売上高は、2024年3月期で約190億円です。従業員は約320人。出版業界のトップ企業、講談社の売上高が約1700億円規模であることを考えると、文藝春秋は知名度こそ全国区ですが、産業的には中堅、見方によっては中小企業に近い出版社です。
しかも2010年代に200億円を越えていた売上高は、徐々にではありますが、毎年減り続けています。
さらに深刻なのは利益です。東洋経済オンラインの取材によると、本業である出版事業は8年連続の営業赤字、会社全体でも4年連続の営業赤字となり、50歳以上の社員を対象とした特別早期退職プログラムまで実施しています。
同社が中期経営計画で掲げた2026年度の経常利益目標は、わずか2800万円です。190億円を売り上げても、目指す利益はほとんど水面すれすれの経営です。
文藝春秋には、「週刊文春」だけでなく、「文藝春秋」「文學界」「オール讀物」「Number」といった立派な雑誌があります。芥川賞、直木賞とも深い関係を持ち、日本の言論や文学における存在感は、売上高では測れないほど大きいといえます。
しかし、その文化的権威を、十分な利益に変える仕組みを持っているかとなると、心もとありません。
現在の電子書籍市場の約88%は漫画(コミック)です。文芸書や実用書などの「文字もの」は1割にも届きません。講談社、集英社、小学館などは、人気漫画を電子書籍、アニメ、映画、海外出版、商品化へと何度も展開できます。
文藝春秋もコミックを刊行していますが、巨大な漫画資産を長年蓄積してきた会社ではありません。電子出版市場が伸びても、その中心部に十分な鉱脈を持っていないのです。
そこで残る強力な商品が「文春砲」です。
政治家や芸能人の醜聞は、出版不況のなかでも確実に人目を引きます。電子版なら、雑誌の発売日を待たずに記事を出せる。第一報、続報、音声公開、動画公開と小刻みに展開すれば、読者を有料記事へ誘導できます。
しかし、ここには危険もあります。
経営体力が落ち、人員が減り、速報と閲覧数が重視されれば、時間のかかる裏取りや、ネタ元そのものを疑う作業が後回しになる可能性があります。
もちろん、経営不振が誤報の直接原因だと証明されたわけではありません。しかし、企業体力の低下と、近年指摘される報道の危うさが同時に進んでいることは、見過ごせません。
かつての文春砲は、否定されることをあらかじめ予想し、その先に写真、録音、文書を用意していました。ところが最近は、発射した後で時系列や素材の信頼性が問題になる例が見られます。
大砲の音は相変わらず大きい。けれど、それを支える会社の台所は、決して豊かではないのです。
文藝春秋の姿は、単に一出版社の経営問題にとどまりません。社会的影響力は大きいのに、それを支える収益基盤は細い。文化や報道の権威と、民間企業としての体力が大きく乖離しています。
文春砲が近ごろ危なっかしく見えるのは、砲手の腕だけの問題ではないのかもしれません。砲身を磨く予算も、砲弾を検査する人手も、静かに細っているのではないでしょうか。
世間を震わせる大砲の背後で、老舗出版社そのものが小さく震えている。いま文藝春秋を見るうえで、もっとも気になるのは、その光景です。
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