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ドリー・ファンク・ジュニアを送った10分後、次の選手たちがリングに入る。

追悼から10分後、次の選手たちがリングに入る

8月9日、後楽園ホール。

11時10分。

リング上で、ドリー・ファンク・ジュニアさんを偲ぶ10カウントゴングが鳴ります。

そして11時20分。

同じリングで「ゼンニチJr.フェスティバル2026」の入場式が始まります。

10分後です。

ただし、試合が始まるわけではありません。

第1試合のゴングは11時30分。

追悼から20分後です。

最初、この日程を見たとき、私は「過去から未来へ」という言葉が頭に浮かびました。

偉大なレスラーを送り、その10分後に次の世代がリングへ入ってくる。

話としては、とても綺麗です。

でも、少し綺麗すぎる。

全日本プロレスの歴史は、そんなに一直線ではないはずです。


ドリー・ファンク・ジュニアさんは、全日本プロレスの四代目PWF会長を務めていました。

現在の全日本では、三冠ヘビー級、世界タッグ、世界ジュニア、アジアタッグなどがPWF認定選手権として管理されています。

そして今回のゼンニチJr.フェスティバル。

公式戦は、すべてPWFルールによる30分1本勝負で行われます。

ここに、私は少し引っかかりました。

ドリーさんを送った20分後。

次の選手たちは、ドリーさんが会長を務めてきたPWFのルールで勝ち点を奪い合い始める。

これは誰かが意図して作った物語ではないでしょう。

だからこそ、面白いのです。

歴史は、追悼映像や昔の写真の中にだけ残っているわけではない。

気づかないほど普通に、今日のプロレスの中へ入り込んでいる。


8月9日の大会は全8試合。

そのうち6試合がジュニフェス公式戦です。

第1試合は田村男児対青木優也。

メインイベントもMUSASHI対吉岡世起。

大会の大半をジュニアのリーグ戦が占めます。

しかも、予定通りに開幕するわけではありません。

昨年のジュニフェスを制した青柳亮生は、今年も当初Bブロックにエントリーしていました。昨年は決勝でライジングHAYATOを破って優勝しています。

しかし現在の開幕戦カードを見ると、大森北斗の相手には望月成晃の名前があります。

予定は変わる。

人も変わる。

それでも大会は始まります。

ここでも、「先人から若者へ」という単純なバトンタッチにはなりません。

未来を作るのは若い選手だけではない。

経験を積んだ選手が新しい場所へ入り、若い選手と同じ勝ち点を奪い合う。

誰かに席を譲ってもらって、次の世代になるわけではありません。

リングに上がった者が、自分で場所を取る。

プロレスは、そのくらい乱暴な方がいいのかもしれません。


「伝統を守る」という言葉があります。

プロレスでは、とてもよく使われます。

でも、守るとは何でしょう。

昔の試合を語ることなのか。

歴代王者を覚えておくことなのか。

かつてのスタイルを残すことなのか。

どれも間違いではありません。

ただ、それだけなら伝統は少しずつ展示物になっていきます。

触れない方がいいもの。

変えてはいけないもの。

そうなった瞬間、歴史は現在から離れてしまう。

今回の日程を見ていて、私は別の見方をしたくなりました。

伝統は、保存されるだけでは続かない。
次の選手に使われて、少し形を変えながら残っていく。

PWFルールで戦うからといって、田村男児がドリー・ファンク・ジュニアのようなプロレスをする必要はありません。

MUSASHIも吉岡世起も、誰かのコピーになる必要はない。

むしろ、違っていい。

違う時代のレスラーが、昔から残っているリングやルールを使って、自分たちなりのプロレスを作る。

それも伝統の続き方なのでしょう。


11時10分。

10カウントゴングが鳴ります。

そこには、静かな時間があると思います。

ドリーさんを実際に見た人。

映像で知った人。

名前だけは知っている人。

それぞれが、それぞれの距離から一人のレスラーを送る。

そして11時20分。

ジュニフェスの選手たちがリングへ入ってきます。

さらに10分後。

11時30分。

田村男児と青木優也が、第1試合を始めます。

20分前まで、ドリー・ファンク・ジュニアさんを送っていたリングです。

でも、もう次の試合が始まっている。

少し早いようにも感じます。

けれど、プロレスとはそういうものなのかもしれません。

誰かがいなくなっても、興行は続く。

選手が変わっても、団体は次の街へ行く。

昨日と同じものを残しながら、昨日とは違う試合をする。

ドリーさん本人が、ジュニフェスのリングにいるわけではありません。

けれど、「PWFルール」という文字は残っています。

そのルールの上で、次の選手たちが自分の勝負を始める。

私は8月9日、そこを見たいと思います。

全日本プロレスが過去をどれだけ大切にしているかではありません。

受け継いだものを、次の選手たちがどう使うのか。

伝統は、飾っておくものではない。

使われる。

ときには形を変えられる。

それでも残ったものが、たぶん次の伝統になる。

11時10分に一人のレスラーを送り、

11時30分には、もう次の試合が始まります。

その20分間に、

全日本プロレスが半世紀以上をかけて続けてきたものが、少し見えるような気がするのです。





ドリー・ファンク・ジュニアという名前を、歴史上の人物だけにはしたくありません。
この記事をきっかけにもう少し彼のプロレスを見てみたいと思った方へ。リングに立っていたドリーさんへ戻れる一本です。




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