読書録:漢字文化の世界
藤堂明保『漢字文化の世界』(角川ソフィア文庫)
本書は元々角川選書として刊行されたもので、親本が1980年代の刊行であるため少々古いが、新知見で上書きされる部分はあるにせよ、人文科学では先行研究が完全に否定されることは少ない。むしろ、批判的継承というかたちで新たな学説に繋がるほうが多いと思う。
中国史の概説書は多いが、多くは王朝の興亡に焦点を当てており、文化史的な方面の概説書は少ない気がする。一方で思想史の概説書は比較的多い気がするが。本書は漢字を拠り所に、中国文明の基礎ともいえる漢字文化を紐解いていく。漢字は表意文字であるため、その成立を追うと様々なことがわかるらしい。漢字の成り立ちは象形・指示・会意・形声の4つにに分類できるようで(許慎の『説文』は仮借と転注を加えているが、藤堂先生はこの2つは造字法ではないとする)、その成り立ちを考察すると様々なことが見えてくるらしい。細かくは触れないが、おもしろい。
本書は4部から成り、第1部は伝説と考古学的知見から中国文明の成り立ちを追い、第2部は文字の成り立ちから諸民族と地域特性を追い、第3部は生活文化を復元し、第4部は思想を読み解く。通史ではないので、各章はコラムのような趣があるが、中国文明の概要はよくわかると思う。ちなみに、度量衡に最も多くのページが割かれている。メートル法が浸透する以前、多くは人体を基準に単位が設定されていた。英語圏のフィートが足から来ていることはよく知られるが、漢字の成り立ちを紐解くと、単位を示す漢字の多くが人体や動作に由来するらしい。単位には十進法や二進法などがあるが、それらも動作に由来するようだ。
本書の第4部は中国の思想史を概観し、最後は毛沢東で結んでいるが、読んでいると、まさかの左翼批判で終わっている。毛沢東を反面教師に、理想と現実の矛盾・ズレを受け入れ、人の世の難しさを理解せよ――ということだろうか。詳細には踏み込まないが、藤堂先生は文化大革命には批判的だったように見受けられる。
意外な終わり方で驚いたが、研究者として冷静な視点で好感が持てる。
読んでいると老荘思想がけっこう資本主義批判に通じるものを持っているようで、温故知新とはこのことなのだと改めて思った。古典を無碍にしてはいけない。
いいなと思ったら応援しよう!
現在、経済的な事情もあって、一部記事を有料にしております。
記事購入と併せ、内容が気に入っていただけましたら支援していただけると助かります。