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水面心理相談室#8「愛されているか確かめるたび、少しずつ遠くなる」|心理学|HSP|人間関係

この番組は、読むラジオをテーマに、皆様からお寄せいただいたお便りの中から、ひとつの心の悩みを取り上げ、朝倉と相馬が心理学の視点を交えながら、静かに言葉を交わしていく相談室です。

すぐに答えを出すためではなく、心の奥に沈んだ言葉を、少しだけ水面まで浮かべるための時間。

今夜も、ひとつのお便りから始めます。

朝倉
「それでは、本日のお便りです。」

“好きな人ができると、相手の気持ちが気になって仕方ありません。

本当は素直に聞ければいいのに、わざと返信を遅らせたり、少し冷たくしたりして、相手が追いかけてくれるかを確かめたくなってしまいます。

でも、そんな自分が嫌です。

信じたいのに、試してしまうのはなぜなのでしょうか。”

朝倉は、便箋を置いた。

信じたいのに、試してしまう。

その一行だけ、書いた人の声が少し小さくなった気がした。

朝倉
「信じたいのに、試してしまう。」

相馬
「うん。相手を苦しくさせてしまう行動ではある。でも、その奥にある気持ちまで、悪いものだと決めつけなくていい。」

試す、という言葉だけを聞くと、相手を振り回す行動のように見えるかもしれない。
実際、試される側は苦しくなる。

けれど、試してしまう側の心にも理由がある。

好きだから、怖い。
大切だから、不安になる。
失いたくないから、先に確かめたくなる。

朝倉
「愛が足りないというより、不安が深いのかもしれませんね。」

相馬
「そう。試す行動の根っこには、不安への対処があることが多い。」

本当に好きなら、追いかけてくれるはず。
冷たくしても来てくれるなら、きっと大丈夫。

そうやって、小さな実験を始めてしまう。

でも、試される側にはそうは見えない。

急に返信が遅くなる。
理由もなく冷たくされる。
わざと距離を取られる。

すると相手は思ってしまう。

嫌われたのかな。
何かしてしまったのかな。

朝倉
「安心したかっただけなのに、相手には拒絶として届いてしまう。」

相馬
「そう。ここが、とても苦しいところだと思う。」

人の不安は、言葉になる前に行動になってしまうことがある。

寂しいと言えないから、黙る。
不安だと言えないから、冷たくする。
好きでいてほしいと言えないから、試す。

本当は、追いかけてほしい。
本当は、大丈夫だよと言ってほしい。

でも、そのまま言うのは怖い。

それを口にするには、自分の弱さを相手に差し出さなければならないから。

朝倉
「信じれば済む話ではないのですね。」

相馬
「うん。信じたい気持ちは、たぶんもうある。でも、信じ切るのが怖いんだ。」

期待して、大丈夫だと思って、それでも傷ついたら、今度こそ立ち直れない気がする。

だから、本気で心を預ける前に確かめたくなる。

朝倉
「傷つく前の、防衛なんですね。」

相馬
「そう。でもね、もうひとつ奥にある怖さも見ておきたい。」

朝倉
「どういうことですか。」

相馬
「試す行動の奥には、“愛される自分を、信じられない”という怖さが隠れていることがある。」

こんな自分を、本当に好きでいてくれるのだろうか。
今は良く見えているだけかもしれない。
そのうち、本当の自分に気づかれてしまう。

そう思っていると、相手の好意は安心ではなくなる。

嬉しいはずの言葉が、少し怖くなる。
優しさが、まぶしすぎるものになる。

朝倉
「だから、相手が近づくほど苦しくなる。」

相馬
「うん。試しているのに、追いかけてきてくれるほど、かえって息苦しくなる人もいる。」

朝倉
「愛されたいのに、愛されると信じられない。」

相馬
「そこが、試すことをやめられない本当の理由かもしれない。」

試すたびに、一瞬だけ安心できる。

追いかけてくれた。
離れなかった。

でも、その安心は長く続かない。

また不安になる。
また確かめたくなる。
また試してしまう。

朝倉
「安心のためにしていたことが、不安を増やしてしまう。」

相馬
「試すことで得られる安心は、とても短いんだ。」

朝倉
「では、試したくなった時は、どうすればいいのでしょう。」

相馬
「まず、自分に聞いてみるといい。私は今、相手を困らせたいのか。それとも、安心したいのか。」

試したくなった時の本音は、たぶん、責めたい気持ちではない。

安心したい。
好きでいてほしい。
ちゃんと大事にされていると感じたい。

相馬
「だったら本当は、試すより、伝える方がいい。」

“寂しかった”
“少し不安だった”
“ちゃんと好きでいてくれているか、怖くなった”

そう口にするのは、冷たくするよりずっと勇気がいる。
自分の弱さを、相手に見せることになるから。

朝倉
「責める言葉ではなく、渡す言葉にする。」

相馬
「そう。渡した本音のぶんだけ、人は少しずつ近づいていける。」

スタジオに、短い沈黙が流れた。

朝倉は、窓の外の水面を見た。

静かな夜だった。

もし石を投げれば、この水面もすぐに波立つのだろう。

でも、波が立ったからといって、深さが分かるわけではない。

反応があることと、愛があることは、同じではない。

試すたびに返ってくる波は、たしかに何かの証のように見える。

でもその波は、水面を揺らしただけで、深いところには届いていない。

恋はきっと、試すたびに、少しずつ遠くなる。

だから、相手の気持ちを確かめたくなった夜は、石を投げる前に、思い出してあげてね。

あなたが本当に知りたかったのは、波の大きさではなく、その水の深さだったはずだから。

第9話につづく▼

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