【初めてのソロテント泊登山】予期せぬ暴風雨、それでも蝶ヶ岳が好きになった。
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突然の山熱 深夜のオッコトヌシ
夏の暑さがまだ残る9月。
ここのところの曇ったり雨だったり不順な天気の中、ずっと天気を気にして見ていました。明日明後日は晴れマーク。お昼に天気予報を見て突然思い立ち、夜から三股の駐車場へ。
途中、安曇野在住者には馴染みの避暑地の烏川緑地や美味しいお水の延命水を通り過ぎ、初めての真っ暗な夜道の登山口駐車場への道。
ゆっくり進むと突然、目の前をチョロチョロと小さな獣が、えっ!!!あれはもしやウリ坊⁉︎
2匹が足早に崖下へ、ウリ坊だけってことはないよな、それならお母さんイノシシにぶつかったら私の車なんて、ひとたまりもない。気をつけてゆっくりゆっくり進みます。出てこないでと、祈りながら。
するとライトの先にどでかい身体のイノシシ。オッコトヌシ!
うわ、急ブレーキを踏みました。
すると後ろから3匹のウリ坊。また崖下に素早く消えて行きました。何家族もいるんだね。

深山に来てる実感。
昼間にお水を汲みに来た時などはこの辺りで猿はよく見かけるけど、イノシシに遭遇は初でした。明日はクマのことも気をつけないと。1人だからね。助手席のザックについたクマ鈴をわけもなくギュッと握りしめます。
こんな遅い時間にやって来たのには訳があって、平日でも朝には登山者でいっぱいになってしまうという第一駐車場。重い荷物を背負って数100mを歩いて登らないといけない第二駐車場に停めるというのは避けたいと思い、何としても登山口に一番近い駐車場に停めたかったのです。それなので初めての真っ暗闇山道ドライブ。
幸い仕事に一区切りついてたこともあり、この日程がとれました。
いつも家から眺めている常念岳、いつか登ってみたい。いつかっていつ?今、今だよ、一番若いのは明日より今日。
登りたい気持ちがどんどん風船のように日毎に膨んでいきます。スーパーに行っても行動食に良さそうなものをついついカゴに入れる始末。
しかし初めての山でのテント泊。予約をする山小屋は行き当たりばったりの性格の自分には敷居が高い。蝶ヶ岳のテン場は2,000円。予約も不要とのこと。土日はいっぱいで張るところがないかもしれないけど平日ならワンチャンあるかも。これはもう行くしかない。経験談を読んだりYouTubeを見たりするとどうやら難易度は常念が上、初心者はまず先に蝶ヶ岳!目指すは標高2677m。
明日の晴れマークを見てとうとう私の風船が弾けました。
浪漫の重さ17kg
もちろん前から必要なものをパッキングしたり、行動食を買い集めたり、少しずつ準備はしていました。
背中には推定17kg
登る前に量ろうと荷物スケールを持ってきていたものの、電池が切れていて使えなかったので量れませんでした。
(これには後日談があり、絶縁のフィルムを抜いてなかっただけで電池は使えたというオチ、ポンコツすぎるわたし)
「一人だから、誰にも頼れない」
という不安から、水や食料を過剰に詰め込み、気がつけばずっしりと重い荷物になっていました。小屋のブログには水不足の文字。
標高の高い山の上でメスティンでご飯も炊いてみたい、夕陽を見ながらコーヒーを淹れたい、椅子は重いからやめて、でも寝る時に使うエアマットを転用して座椅子にするサーマレストトレッカーチェアなら快適に過ごせるはず。
そうそう度々行けるわけではない山の上でのロマンが炸裂、あれもこれもと詰め込むうちにかなりの重さに。これでも着替えを減らしたり、自分なりに取捨選択はしたつもりですが…そもそも山登りに椅子って選択ないんですよね?キャンプ脳からの横滑りなので…
駐車場から歩き出し、登山口に向かううちに、フラフラ。重すぎ。あれ?これは何か間違いか?引き返して荷物を減らす?天気予報は晴れだから、雨具を置いて行こうか、いや、ダメダメ、お守りだから。ここまで歩いて来て、車に戻るなんてそんな時間のロスは、到着が暗くなることの方が怖くてせっかく早朝に出発したんだからと、そのままの重さで三股の登山口へ。
登山口の看板の前に立ったとき、すでに心の中には小さな不安がありました。一歩一歩歩くごとにその不安がどんどん大きくなって行く。初めてのテント泊装備。ずしりと肩と腰に食い込む重さに「本当に歩き切れるのだろうか」と。もうここまで来たからには、あとは進むしかありません。
それでも昇って来た朝日が木々の間から真っ直ぐにオレンジ色の光の矢をこちらに向けて放っている、せせらぎと言うよりはもっと豪快に聞こえる水の音を左耳に、はたまた右から流れる川の水しぶきの音、ところどころ黄色に色づいた葉や栃の実が大量に落ちている所に山の恵を確認、確実に秋の訪れを感じさせてくれます。
薄暗い日の出前の木々のシルエットから、キラキラした木漏れ日に変わって行くように、私の不安もいつのまにか太陽の光の中に溶けて行き、林の下を歩き森の匂いを嗅いでいつしかワクワクした気持ちでいっぱいになりました。
急登に次ぐ急登 マイペースを見つけるまで
序盤の樹林帯は急登の連続で、普通の家では見たことないような急な階段が連続しています。さしずめ昔の家の屋根裏に向かう階段です。傾斜の角度が。

期待に胸膨らませて渡った吊り橋が懐かしいです。平らの道。普段は汗をあまりかかない体質の私の顔から汗が流れ、呼吸はすぐに荒くなりました。それでも木漏れ日の煌めきや時折頬を撫でていく涼しい風に「まだ大丈夫」と自分に言い聞かせながら一歩一歩登りました。
目に映る圧倒的な緑に癒されていたからかもしれません。艶々としたゴゼンタチバナの緑と赤い実、コントラスト、クリスマスにも思いを馳せます。
風にヒョロヒョロと揺れる白緑色のサルオガセ、カラマツの葉の細かな緑、踏みしめる落ち葉の香り。

樹皮についた苔の灰白色。クマザサの中から姿は見えないけどかわいらしい小鳥の声も聞こえます。
青と緑、特に、緑青色とも言うような白の混ざった緑色がとても好きなので、写真を撮りながらだとなかなか進みません。
ノロノロながらも一人で自分のペースでゆっくり登る。人に道を譲るたび、下山ですれ違う人や後ろから抜かして行く人から「縦走ですか?」と何度も声をかけられるほどの重装備、どちらかというと小柄な体には似合わない大きさだったのでしょうか、「重そうですね」の声かけの回数の多さに、もう相手の納得する答えを「はい、縦走です」と言いそうになりました。
でも嘘を言っても荷物が軽くなる訳もなく、自嘲気味に「1泊だけなんですけど、初めてであれもこれも詰め込んでしまいました。えへへ」と返事すること数十回。
先達の皆さんは、深く頷きながら、
「初めてはみんなそうだよ。」
「自分もそうだった。今はこのとおり軽い荷物しか持てないよ、ははは」
と慰めともとれるお言葉を。
一人で登っているけど、そういうスモールトークが時折あることで、連帯感というか、気持ちのいいものだなと思いました。
重さの辛さは相も変わらずですが、しばらくすると息が上がらずにすむ、ゆっくりですが自分のペースを掴んできた気がしました。力水、蝶ヶ岳名物ゴジラの木やカラマツの小径、ジュラシックパーク感ある、わさわさのシダを膝でかき分ける木道、標高を上げるごとに変わりゆく植生、目から受ける刺激が辛さを半減、いや、1/3減はしてくれているような気さえしてきます。重いけど楽しい。森に抱かれて歩く。目の前の道を進むだけ。もう兎にも角にも登るしかないと腹を括ったのです。

樹林帯を抜けて 常念とのご対面
樹林帯を抜けると日光が体に当たり暑さが体力を奪っていきます。
夏山の人気上位の山、蝶ヶ岳、真夏にここを登る人はどうなのか、この時期でこんなに暑いのなら、暑さにも寒さにも弱い私は、真夏は無理だなとボソリと呟きました。ここで熱中症になるわけにはいかない。頭に載せたスポーツ手ぬぐいに水をかけつつ、進みました。貴重な水を少しずつ。気化熱で少しでも涼しくなることを願って。
気持ちの良い山の空気、視界が開けると眼前に圧倒されるほどの常念岳が見えました。リアル常念はこんな色なんだ。麓の街に住み、毎日遠く眺めているだけだったあの常念岳がすぐそこに。

「こんにちは、毎日いつも見ています。ご挨拶させていただきます。」
これは興奮とともに、なんとしてでも今向かっている蝶ヶ岳山頂へ辿り着かなくてはと気持ちが奮い立ちました。ザックの重さに押しつぶされそうだった心が、景色に支えられて少し軽くなった気がしました。
一瞬でもそう思える瞬間があったことは、登るガソリンになります。
でもそんなに甘くはありません。歩き出し傾斜がきつくなると、それは単なる思い過ごし、何も変わらない、重くなる足取り。肩と腰への重さが、なんだかどんどん増している気さえしてきます。
標高は着実に上げていっていますが、私の心はアップダウンの激しいこと、この上ない。
重さのあるゼリー飲料も休憩のたびに飲みましたし、水も500ml減りました。
ヒュッテで水が買えるとは知っていましたが、昨日見た小屋からの最新のお知らせに水不足とのこと、上で水が買えないと困ったことになるからとしっかりと荷物に水を詰めました。重さの理由はそこにもあります。
経験不足と心配性。
あとでいろいろ後悔することになりました。
山での出会い 言葉のチカラ
しかしながら辛い辛いと思いつつも、山で出会う人たちの気持ちの良さ。
「上は絶景ですよ、頑張って!」
「もう少し、一緒に頑張りましょ!」
みなさん見ず知らずの私に優しい言葉をかけてくれて心が温かくなります。
どれだけ元気をもらったことか。
山の民、ありがとうございます。
最後のベンチを越える頃には、風が冷たく吹き上げてきて、登って来た道にガスが出て来ています。上を見るとハイマツの群生が。斜めに生えて、厳しい環境だということを物語っています。
空が近い、いよいよ頂上付近へ。
テント場に到着
パッと視界が開け、色とりどりのテント、ここがテント場。
あぁ、とうとう到着したんだ。遠くには魅惑的なトンガリ、憧れの槍が綺麗に見えています。
蝶ヶ岳テント場にたどり着いた瞬間の安堵は忘れられません。とにかく早くテントをたててザックを下ろしたい。テント場に着くと混雑してはいるものの、まだ空きがあります。こちらの受付はテントをたてた後でも良いらしいので、まずは場所探し。
風を避けられる木の近くが良かったものの、そこはさすがに人気スポットです。すでに埋まっていました。
平らなところを探し、テントをたてます。
岩ゴロゴロテント場でも石の下の砂地にペグは刺さります。更に石にガイロープを結び、その上から大きめの石を重しに。用心には越した事はないのでたくさん積みました。我ながら綺麗なピン張りな仕上がり。思わず写真を撮るほどに。
登りの苦労はどこへやら、テントをしっかり張って身軽になるとゲンキンなもので調子が出て来ました。
標高2677m初登頂、毎日見ていた山の裏側を初めて見た
それからテント場から徒歩3分の山頂へ。正面に広がる穂高連峰の圧倒的な姿を見ながら
「やっとここまで来た」
と胸の奥でつぶやきました。
この上ない達成感。
目の前に広がる穂高連峰。ガスもなく綺麗な山容が見えています。向こうに見えるのは上高地かな。涸沢カールかな。山のアプリで確かめてみます。
雄大ってこういうこと。
うわー、うわーと言葉にならない感嘆の声が止まりません。


しかしながら、テント場に着いた時よりも、時間が経つにつれどんどん風が強くなります。
予定していた穂高連峰を眺めながらコーヒーを淹れて、飲みながら夕陽を待つなんて計画は無理無理、ダウンを着込んで防寒したもののこの強い風の前には長くは立ってもいられず、すぐさまテントに退散です。
ヘリコプターと炊飯ミッション
気を取り直し夕飯のミッション。先程テントをたてながら、前もってメスティンにお米を入れて浸水しておきました。
さて、実験開始です。固形燃料で自動炊飯開始。無印のグリーンカレーを蓋の上に重しに。そのまま温めて一石二鳥です。
iPhoneのタイマーを25分にセット。私のお気に入りのアラーム音は犬の吠え声です。
お米が炊ける間に寝床の準備。エアマットに空気を入れる。息切れしないように、慎重にゆっくりフーフー。
小腹が空いたので家で洗ってジップロックに入れてきたミニトマトを数個口に頬張りながら、ザックの中を整理します。保冷バッグの中で凍らせたペットボトルのおかげでトマトが冷えています。酸味が気持ちをリフレッシュさせてくれます。
ミニトマトは大正解でした。
簡単に重さを減らせるものは水と食べ物だけ。
なのに疲れのせいか思ったより、甘いものや塩辛いものへの食欲がなく、行動食も減っていません。なぜ2つもカロリーメイトが。行動食をあまり食べなかったから疲れているのか、疲れているから食べたくないのか。
更に水は1.2L残っています。この水は持って上がるよりも小屋で買えばよかった。想像と違って制限されることもなく普通に水は売っていました。
落ち着くと反省点ばかりが頭に浮かびます。ごはんが炊けるまでひとり反省会です。
すると、突然、外で、バルバルバルバルと轟音が近づいてきます。テントを閉め切っていたので何事かと慌てて外を見てみると荷揚げのヘリコプターの音でした。
上がって来ては荷物を下ろし、また小屋で出たゴミなどでしょうか、下に下ろすものをぶら下げて、麓と数回は往復しているようでした。
こうやって山小屋を支えているんだなー。かっこいい。とてもいいものが見れました。テントの中から眺めるヘリコプター。臨場感たっぷり。荷卸しをしたらすぐさま山の傾斜に合わせるかのように、機体を斜めにして高度を下げていく姿がとてもかっこよかったです。

ヘリコプターに見惚れているうちに、ワンワンとiPhoneが鳴りました、炊飯終了の合図です。
標高の高いところでは芯が残りやすいもの、手ぬぐいでぐるぐる包んで、蒸らし時間をしっかりと。
ほったらかしで簡単に上手にご飯が炊けました。
浪漫のスタンプ、1つ。ミッションコンプリートです。
風が強くて開け放しにすると寒いテント、でも、夕日も気になって、時々開けて見るけれど、今日はあまり期待薄のようです。雲も多くなって来ました。茜色の雲を少しだけカメラに収めて、諦めて引きこもり開始。
楽しい夕餉の始まりです。固形燃料で本当に炊けるのか不安でしたが、ふっくらと炊きあがった白いご飯にカレーをかけた一口は、思わず声が出るほどの美味しさでした。
「標高の高い山の上でご飯を炊くことが出来た」という小さな達成感が、疲れを癒す何よりのごちそうになりました。
メスティンをそのまま器にワイルドスタイルです。2合炊いたので、よけておいた残りのごはんは明日のお昼ごはん用のおにぎりにして、それとは別に朝ごはん用はあらかじめチタンカップによそっておいて味噌汁の袋で蓋をして。プラダンでできた軽量のテーブルの上に置いておきました。明日の朝はお湯だけ沸かして味噌汁で温めて食べる予定です。
この準備を万全にしたかのような行動が仇になるとは、この時の私は全く知る由もありませんでした。
夕暮れの景色を見ながらのんびり夕飯を食べて過ごす予定が、テントのジッパーを閉め切っても隙間から入る風。耐えきれずに石で壁を作りました。
風はおさまることを知らずどんどん強くなります。フォーシーズン用のスカートがあるテントだったら少しは快適なのだろうか、それでも登って来るまでは夏山の気分で疑っていなかった。
日が落ちると寒さで星を見る余裕もなくなりました。

夜の嵐、暴風雨との戦い
さらに夜が更けると、天気は一気に崩れました。天気予報は晴れだったはず。油断した心に動揺が走りました。
どんどん強くなる風、テントは幸いまだ耐えてくれています。あれだけ頑丈に重しをしたからね。
でもだんだんとその信頼度も大きく揺らぐ出来事が…
風だけだった音に強い雨音が加わり、耳栓をしていても聞こえるほど。テントが大きく揺さぶられ、ジェットコースターに乗ってるような気持ちです。こんなに揺れるのはおかしい、これはテントごと飛ばされるのではないかと不安で寝転んでもいられません。
結局一睡もしないまま、手で押さえて揺れを止めたくなるほどの強い風。外の様子を確認したいけど雨音と止まない風でなかなか決心がつきません。たくさんのテント泊の仲間たちは、みんなこの風を耐えているのだろうか?
私だけになっているのでは?
そんなありえない想像が生まれるほどに、むき出しの自然と一対一の対峙です。窓のないテント、恨めしく思いました。
逡巡しながら不安は募るばかり、耳栓をしたまま、聞こえるのは耳栓越しでも聞こえる暴風雨の音と、自分の早くなる心臓の鼓動。
初めて見たホワイトアウトの中、小屋へ
不安な気持ちが限界突破して、いよいよ飛ばされるのではと怖くなってヘッドランプをつけて山小屋へ避難しようと決意。トイレにも行きたいし。決意を固めました。
寝袋から出て、寒くないようにさらに衣服を加え、風の音は引きも切らず強いままだけど、雨音が少しだけ弱く変わったタイミングで外に出るとライトをつけても濃い霧で全く先が見えない。ホワイトアウト。
周りのテントも消灯したまま静かなものです。
私は初めてのことで、パニックになりました。
ここで怪我したら元も子もない。落ち着いてゆっくりと確実に小屋への道を探しました。昼間の感覚を必死に思い出します。確かあのあたりに方向板があって、その先に風向を見る吹き流しのポールがあったはず、記憶をフル稼働、でもトイレに最後に行った時とまるで様子が違います。薄暗くてもヘッドライトが効いたのですんなりと行けた昨夜とは大違いです。
こんなに細かったっけ?小屋への道。合ってる?道を外れたら死の恐怖との隣り合わせ。ゆっくりゆっくり足元を照らし進みます。この風で外に出ている人は一人も居ません。
ようやく道として小屋へ導いてくれている垣根を見つけました。
ここまで来ればこの坂道を降りるだけ。白い霧の中に薄ぼんやりと赤いヒュッテが見えてようやく安心しました。晴れていればたった数分の道のり。どれだけ時間がかかったでしょうか。
それにしても雨具を持って来てよかった。震えているのは寒さなのか恐怖なのか。
小屋の戸は開いていて、時間は3時半過ぎだっただろうか、中は真っ暗。テント泊だけど、中に居させてもらってもいいのだろうか、聞く人も居ない。すると奥の床に荷物を広げているヘッドライトをした背中を発見。小屋の人ではなく、登山者の方です。思い切って話しかけてみます。
「あの、テント泊していたんですけど、風と雨が強くて、怖くて耐えられなくて、避難してきたんですけど、ここにしばらくいてもいいものでしょうか?」と尋ねてみました。
その方は明け方に常念方面に出発する予定の登山客の方でした。
「いいんじゃない」
「予報外れたね、外ずいぶん荒れてるね、まぁ、こんなもんだよね。稜線はね。」
そうなんだ、狼狽える私とは正反対に、淡々とお話する姿に、自分の心持ちとのギャップになんだかハンマーで再度頭を打たれた感じでした。
山を甘く見た罰なのかな。甘く見たつもりはないけど、結果的に甘かったんだよな、自分。天気予報…外れることもある、あるんだよね。
会話の中でYAMAPを教えてくださった、その方のその日の山行を拝見すると強風でレインカバーが飛んでしまい、縦走を断念して車を回送にしたとの記録。暗闇の中ヘッドライトをつけて出発されたその後がとても気になっていたのでとにかくご無事で良かった。
テント崩壊の危機と想像を超える試練
トイレに行った後、その後もしばらく明かりのない山小屋の入り口のベンチにいさせてもらいましたが、まだ暗さが残る中でもテントが心配でテント場に戻ってみることにしました。すると道の横に崩壊したぺちゃんこになっているオレンジ色のテントが見えます。ポールが折れてしまっているようです。人の気配はない様子。でも中の人はどこへ??
私のテントは大丈夫かな、不安が募ります。遠目に確認。すごいノリノリでダンスしてるみたいに左右に揺れている。でもポールは折れていないみたい。よかった。
さらに近づいてみると、
ん?いや、あれれ、私のテントの様子がおかしなことに気がつきます。
えー!ひっくり返ってる!!!
テントはなんとなんと横転していました。
四隅のうちの風上の1本のペグとガイロープが外れてしまった模様。
まだまだ執拗に吹きつける強い風の中、とにかく必死でテントを立て直しました。雨が目に入ります。もうこの時のことは少し記憶が飛ぶ感じです。我が身に起きている状況をなかなか素直に飲み込めないのと、とにかくやらなくては更にテントが壊れる危険性があるので待ったなしです。必死でした。
グラウンドシートが変な形にめくれてしまって。他の3点がガッチリと止まっているために、かえってなかなか引き出せません。無理に引っ張って破けても困るし。
ああ、詰んだ…とにかく風よ、どうか、お願い、一瞬だけでも止んでください。
無情にも止むことのない雨風に、心で祈りながら、慎重になんとかグラウンドシートを元の位置に戻し、抜けたペグと石を元通りにしました。やれやれ、中に入って濡れた身体を拭かないと。
テントは無事でもメンタル崩壊の危機
立て直したテントのジッパーを開けてみると中には想像を絶するさらなる惨状が…試練は続く…
夜に炊いておいたご飯がものの見事に散乱していました。
エアマット、寝袋、クローズドセルマット、ザック、いろんなものにごはん粒が散乱して付着していました。
全部おにぎりにしておけばよかった…
なんで昨日の私はごはんをカップに…
後悔先に立たず。
その時は天地がひっくり返る想像なんて出来なかったのです。
人間の重さが無くなったテントは揺らされ放題揺らされたに違いありません。
雨の中でも、テントを離れる時にガイラインの張りをちゃんと確認したのに…
離れる時は風で揺れはしていたものの、四隅のペグと石でちゃんと立っていました。
でも冷静になって考えれば、テントの中の最大の重しは人間。ザックや寝袋だけでは限界があります。
山小屋に避難している間に吹いた強風に耐えられなかったのでしょう。
なんでそこかしこに石があるのにテントの内側にありったけの石を置いてこなかったのか。
濡れた石でテントの中を汚すことを敬遠したのです。まさかテントが横転するなんてあの時の私には考えられませんでした。狼と七匹の子山羊よろしくテントのお腹に石を詰めるべきだったのです。
強風の中、テントを再設営しながら何度もそう反省しました。
なかなか手厳しい山での初テント泊の洗礼でした。
テントの片付けで朝を迎える
やがて白い雲の向こうに昇っているであろう太陽のおかげであたりが少しずつ明るくなり、朝が来たことを実感します。期待していたご来光も見られず、雨は止んだものの霧と風はずっと継続中。
昨日遅く到着したせいで行けなかった蝶槍に下山前に行こうと計画していたのですが、これでは計画頓挫です。
テントを立て直し、ごはん粒だらけのテントに入り濡れた身体を拭き、身を屈めてごはん粒を回収して座るスペースをつくり、ヘナヘナペシャンと座りこみ、しばらくは身じろぎもせずに放心状態でした。
こんなはずじゃなかったのに…ちょっとだけ涙も滲みます。奥歯を噛み締め、堪えます。
茫然としながら、風が収まるのをテントの中で待ち続けました。
風は一向に止む気配さえありません。
しばらくすると身体が冷えたせいか、またトイレに行きたくなりました。もうヘッドランプはいりません。でも、濃い霧が立ち込めて、トイレに行くにも慎重にならざるをえません。なんとか辿り着き、トイレに行った後、小屋の裏手から少しだけ蝶槍方向へ歩いてみると、進めないほどの風と霧、3分で撤退。これは無理です。全てを諦めました。雷鳥さんに会いたかった。

霧の中失意の下山開始と奇跡の再会
早く下山しないと。テントへ戻り下山準備を始めても風に煽られてテントがうまく畳めず、ようやく押し込むようにしてザックに詰めました。
あの重い荷物を持って上がって来た時より今朝の我が身に降り掛かる諸々が精神的にきつかったです。
この時点でテント場に残っている人は少数。みなさんあっという間に、縦走か、下山か。それぞれの道へ。
とにかく早く無事に帰らなくては。
寒くて雨具の上着を着たまま下山開始。なかなか体温も上がりません。
相変わらず重いザック、重さはあまり変わっていないのは減った水を、結局は小屋で買いました。
寒かったので温かいものを飲みたくて登りの時よりテントで沸かして飲んだ水分の方が多かったです。
会えなかった雷鳥の幻を追い求めながら、ハイマツに別れを告げ、登って来た見覚えのある道を下山します。
雨で濡れて滑りやすくなっている山道、石と落ち葉のセットが一番危険です。ズルッとなりながらも転ばずに慎重に下りましたが、第二ベンチまで休まずに下りて来ると、なんだか案外軽快に下りていることに気がつきます。
下山マジック、ここで調子に乗ってしまったツケが後で来ることも知らずに、飛ばしてしまいます。
しばらく順調に下りて視界が開けたところから山頂のあたりを見ると青空も少し覗いています。
もう少し上で待っていたら良かったのかな、もう一度綺麗な景色見たかったな。こんなことなら昨日もっとちゃんと見ておくんだった。風が強くなる前に、テントをたてるより先に頂上へ行けば良かった、蝶槍まで行かずとも少し近くまでは行けたかもしれない。いろんな後悔と残念な気持ちが頭の中を駆け巡ります。
途中岩のところで休憩した時に会話をした縦走を予定していたけれど取りやめたという男性二人組の方も全く同じように、昨日ちゃんと見ておけばよかったと口々に言っていて、やっぱり天気予報に裏切られてみんな同じ気持ちで降りているんだ、変わりやすい山の天候の前には、致し方ないことです。
登りにあんなに時間がかかったことを考えると早めに降りて来た判断は英断だったと思います。
終盤は「下りたら温泉!」と唱えながら下り続け、まめうち平でしっかりと休憩。ザックをしっかり降ろせる高めの椅子があるところでしか休憩したくないので待望の休憩ポイントです。
しばらく座って汗を拭いたりしていると、お喋りをしながら楽しそうに下山して来たお二人の女性に見覚えが。
昨日登りの際にお話しながら少しの間一緒に登ったり、ザックの後ろに手が回らないのを手助けしてくださったり、何かと親切にしていただいた女性二人組でした。
上に行ったら、おかげ様で無事に登頂出来たことを報告したいと思い、テント受付の時に小屋の中をキョロキョロ探してみたりしたものの、見つけられずじまいで残念に思っていたのでした。
大きな荷物を見て声をかけてくれる人はたくさんいましたが、そんなに重いものを担いで歩けるってすごいですと好意的に言ってくれた人は彼女たちだけだったのです。その彼女たちの言葉にどれだけ勇気づけられたことか。言葉のチカラを感じたものでした。
再会を喜び、しばらく座ってお互いの山での話を。彼女たちも私が無事着いたのかが気になって昨日テント場まで見に来てくれたとのこと。私が小屋でキョロキョロ探した時間には蝶槍にいたとのこと。すれ違いでした。
終始和やかに楽しそうにお話しされているおふたり。羨ましくなるほどのとても気持ちのよい素敵な二人組でした。
私にもこんなバディがいたらなぁ…
楽しそうに休憩している彼女たちを後にして、私の方が先にまめうち平を出発したものの、しばらくして、後から来た彼女たちに抜いて行ってもらいました。そこで本当のお別れです。
名残り惜しく、またどこかの山で会えたらいいなぁと思う出会いでした。
膝が自分のものじゃない
その頃には序盤調子に乗ったツケが。痛みはないものの、膝が言うことを聞かない感じ。時々ガクッとなることも。
もう統制の効かないポンコツな身体に。
気力だけで降りる感じ。
「止まらなければいつかはゴール」
そう心の中で唱えながら。
停めて来た愛車までの道のりはまだまだ、足を止めるわけにはいきません。
急階段を無事に降りきって安心したせいか、力水を過ぎた辺りから更に足が思い通りに運ばなくなって、よちよち歩きのようなスピードで、なんとか前に進みます。
するととてつもない睡魔が。歩いていても眠いのです。
歩きながらあくびも止まりません。

疲労と眠気との闘い、そして温泉へ
やっとの思いで、登山口へ。
しかしそこからがまた更に長い。登山口から駐車場への道のり、こんなに長かった?意気揚々と、登り始めた昨日の朝と同じ道なのに、全てが違って見えます。
まだかな、まだかな、一番手前に停めた愛車が約34時間ぶりに見えた時は本当に嬉しかったです。
車に乗り込み、ほっぺたをつねったりして眠気を覚まし、麓に降りて温泉へ。
ようやく辿り着いたしゃくなげの湯では湯船の中でウトウトと舟を漕ぐほど疲れていました。
そしてお風呂の椅子から立ち上がるのが辛いほどの筋肉痛。立ち上がるたびに、うううと低い声が出るのを止められない。炎症している筋肉痛を少しでも和らげようと、普段入ったことのない水風呂にも挑戦しましたが、効果は?
夜には少し体が軽くなったように感じました。
反省と後悔と
今回の反省はキャンプ用に買ったダウンの寝袋は充分過ぎるほど温かかったけれど、いくらどんなに圧縮してもかさばりすぎてパッキングが大変。貯金をして高価な山用のものを新調すべきなのかもしれません。それよりも、テント泊をするならば軽量化が肝だということ。
そして食べなかった食料がかなりありました。それも全て重さです。
これは経験を重ねるしかないのかもしれないです。
冷えたきゅうりとミニトマトは大正解。次にどこかへ行く時も必ず持って行こうと思います。
やりたかったことが出来て嬉しかったけれど、稜線での炊飯はこの装備では現実的ではなかった。フリーズドライとか軽さが正義なのも今はわかります。
「よく頑張った」と自分に言いたい気持ちもありますが、冷静に見れば危うさだらけの山行でした。怪我もなく無事に下山できたのは幸運でした。これをきっかけに、次はもっと余裕を持った登山をしようと思います。翌日さらに強くなったこの筋肉痛は無理をした結果ですが、次への教訓のしるしだと思います。
次に向けて
今回の蝶ヶ岳は、失敗だらけのフルコースでした。
すべてが「初めてのテント泊」だからこそ直面した試練でした。甘さや準備不足を痛感しつつも、山が教えてくれたことは大きかった。初めてだからこそ見えた課題が多く、次に活かせる経験になりました。
次はもっとシンプルに。なるべく軽やかな装備としっかりした計画で。
久しぶりの登山でしたが、大変さに懲りて二度と登りたくないとは思わずに、次はどこに行こうと前向きに思える楽しい山行でした。
やっぱり登山にハマってしまったのかもしれません。

忘れた頃に届いた初テント泊登山の記念品
9月の三連休の後で人気の蝶ヶ岳のシルエットの手ぬぐい、売り切れでした。ここでしか買えない手ぬぐい。記念に欲しい。でも、どうしても欲しくて聞いてみるとスタッフさんが山を降りたタイミングで郵送にて送ってくれるとのこと。郵送料と手ぬぐい代をお支払いして待つことにしました。
後日、忘れかけた頃、10月の半ば、ポストに手ぬぐいが届いていました。蝶ヶ岳を含む近隣の山の案内図と、色鉛筆で描かれたシラネアオイの絵のポストカードに「たいへんお待たせしました またのお越しをお待ちしております」のメッセージも一緒に。
特別なプレゼントをもらった気分でした。
来年以降になると思いますが、次に蝶ヶ岳を訪れるときには、この手ぬぐいを携えて堂々と「ただいま」と言える自分でありたいです。
そして一度でも登ったということが、それまでは麓の街から遠くに見える山脈のひとつでしかなかったのに、どこにいても、季節が変わって雪をかぶっても、蝶ヶ岳を探してしまう自分がいます。
いつになるかはわかりませんが、再びあの山に登って、蝶槍で雷鳥に出会う夢を持ち続けようと思います。
おつかれ山でした。
長い山行記録にお付き合いいただき、ありがとうございました。蝶ヶ岳のあの風を、少しでも感じていただけましたか?
私自身、書いているうちにまたあの稜線が恋しくなりました。夏に雷鳥に会えるかな。
山に行かなくてもスーパーで行動食を買い溜めてしまう病です。それがいつのまにか消えています。犯人は私。
私は冷えたきゅうり🥒とミニトマト🍅と、「ブルボン ちいさなかすていら」がお気に入りの行動食です。ちいかわ ならぬ ちいかすと呼んでマストアイテムになっています😊カステラ、チョココロネが好きです。
もしよろしければ、皆さんの山の思い出や、おすすめの行動食、読んで感じたことなど、お気軽にコメントで教えていただけると嬉しいです。また次の山歩への励みになります。読んでくださってありがとうございました🍫
蝶ヶ岳では暴風雨に泣かされ、心が折れかけました。
あの日の失敗は、その後ずっと頭の片隅に残っていました。
だから次の山行では、装備も歩き方も、反省できることは全部見直しました。
その答え合わせのような山行が、11年に一度の紅葉に染まった涸沢カールでした。
いいなと思ったら応援しよう!
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。応援📣嬉しいです。いただきましたチップは山の行動食🍡🍫カステラ代に使わせていただきたいと思います。貯めて福砂屋を買いたいです。