春になると思い出すこと
50年以上生きてくると、色々な春を経験している。
1番、印象に残っているのは弟が大学進学した春だろうか。
弟はワタシの3つ下、妹は弟の2つ下で。
我が家はワタシが長子だ。
高校卒業後の大学推薦を、親に反対され諦めて。
かなりふて腐れていた時期だった気がする。
今と違い、女の子は学歴ばかり高いと嫁に行けない。とか。
直ぐに嫁に出すのに、学費を掛けるのは勿体無い。
などという古い考え方をする親も少なからず居た時期でしょうか。
両親の考えは、奨学金を取って進学しても「下宿費諸々」が掛かるので辞めてくれ。
女の子は結婚したら、夫の給料で暮らせるが。
男の子は、自分で生計を立てないとならないから「息子に掛けるお金を一点集中したい」
女のお前は早く働いて「弟の進学を経済的に助けるんだ」。
そんな感じだった。
まあまあ、今の子が聞いたら「バカジャナイノ」と言い出しそうなレベルの状況の後にやってきた春だった。
我が家の両親からしてみたら、初めて家から出す子供でかなりピリピリしていた。
父の社用車で、荷物を目一杯積み込み。
幾つか県を跨いだ、弟の下宿まで走った。
一緒に掃除をして、荷物を入れた。
食事をして「じゃあね」と戻る途中の車内で母はシクシク泣いていた。
娘であるワタシは「これじゃ、先が思いやられるわ」と空を仰いでいたのを思い出す。
弟が進学して1週間ほどした頃だろうか、両親の部屋の壁に東海地方の広域地図が貼られた。
母は、そこから弟の下宿を見つけ出して保育園で使うタイプの薄紙で作ったバラの花を付けていた。
そう、母は結婚するまで保育士をやっていたので・・・そのくらいはやるだろうとワタシは思った。
だがしかし、毎朝、毎晩、母はそのバラの花を見て泣くのだ。
シクシクシク、シクシクシク。鼻をすする。
いい加減にしろ!
何度思ったか分からない。
いつの間にか・・・いや、あっと言う間に1年が過ぎた。
母に取っては、これ以上無いほど長い時間だっただろう。
新学期前に弟が、帰省してきた。
弟の顔は、一人暮らしを経て少したくましくなっていた。
少し痩せたかなと思ったら
「俺さ、この頑丈な体と体力を生かして引越屋の手伝いしてるんだ」
「良い働きするから、卒業したら正社員にならないかって言われてさ」
なるほど、それで良い感じにシュッとしたのだろう。
元々、スポーツ推薦で大学に行っているから体格的にも申し分ないし。
当然、機転も利く。
体力もある、そりゃ良人材と思われる訳だ・・・と姉は思った。
弟は、とても誇らしげに「俺自炊していてさ」と台所に立って腕まくりをする。
「母さんに、俺の得意料理を食べさせてやろうと思って楽しみに帰って来たんだよ」
どんな料理を作るのか、興味津々見ていると。
なぜか、彼は熱したフライパンにマーガリンを落とすと躊躇せず砂糖を放り込んだ。
「!!!!????」
そして、そこに溶き卵を入れてオムレツを作り始めた。
ど・・・独創的だ。
油代わりにマーガリンを入れるのは分かるが。
卵に砂糖を入れず、熱したフライパンに直接入れるのは始めて見た。
あっと言う間に、無事オムレツが出来上がった。
味を覚えていない所を見ると、何の変哲も無い味だったのだろう。
ただ、覚えているのは
「美味しい、美味しい」と涙を流しながら食べていた母の顔と、少し恥ずかしそうな弟の笑顔だけだ。
きっと、少し塩気が利いて隠し味になって美味しかったのかな?と。
ふっと30年程前の春を思い出したのだった。
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