なぜ働いていないと本が書けなくなるのか
<前回記事:本を書くのをやめて、noteを書く理由~作家の印税の闇>
なぜ働いていないと、本が書けなくなるのか。
一見すると、妙な問いに聞こえるかもしれない。
多くの人は、むしろ逆だと思っているだろう。
「いやいや、働いているから時間がなくて、本が書けなくなるんでしょ?」
「俺だってなー、仕事さえ辞めれば、腰を据えて本が書けるはずなんだよ! あー仕事やめてぇー!」
だが、現実は違う。
働いていないと、本は書けなくなる。
なぜか。
理由は単純──生活できなくなるからである。
■作家の収入(印税)の仕組み
作家の収入の基本は、印税である。
印税率は、昔からなぜか「10%」と相場が決まっている。
零細出版社では新人の場合に8%になることもあるが、基本的には、中堅でも売れっ子でも、10%固定である。
すると、どうなるか。
定価1,500円の本が一冊売れると、作家に入るのは150円という計算になる。
では、そもそも本はどれくらい売れるのか。
このご時世、1万部売れたらヒットと呼ばれる。
「一万部です、〇〇先生ありがとうございます!
ぜひ次回もお願いしますね!」
編集者も、このくらいのテンションでホクホクである。
だが、問題は、作家が実際に受け取る金額だ。
150円 × 1万部で、150万円。
税金や諸経費を引く前で、この金額である。
所得税、住民税、社会保険料などを差し引くと、手取りはおそらく100万円前後になる。
仮に、年に一冊、毎年1万部売れる本を出せたとしても、年収は150万円だ。
平均年収450万円と言われるこの時代において、かなり低い水準だと言わざるを得ない。
■ベストセラーは、幻想である
では、大ヒットしたらどうだろうか。
たとえば、10万部。
いわゆるベストセラーである。
この場合、印税は1,500万円前後になる。
これなら、さすがに夢があるように見えるかもしれない。だが、冷静に考えてみよう。
これはあくまで「一発」の金額だ。
毎年10万部売れる保証はない。
むしろ、そんな作家はほとんど存在しない。
一方、エリートサラリーマンはどうか。
年収1,000万円前後を、安定して何年も積み上げていく。
いや、そこまで高い例を持ち出す必要はない。年収600万円のIT系サラリーマンと比べてもいいだろう。その場合、ベストセラーという宝くじが当たっても、その収入は「2年半分」にすぎない。
つまり、奇跡的にベストセラーを出せたところで、長期的に見ればサラリーマン以下なのである。
これが、数字で見た現実だ。
■ほとんどの本は、増刷しない
さて、ここまでベストセラーやヒット作の話をしてきたが、正直に言えば、それはかなり特殊なケースである。
現実には、作家の8〜9割の本は、増刷しない。
初版が出て、それで終わり。
では、その「初版」とは、どれくらいの部数なのか。
ジャンルや出版社にもよるが、だいたい3,000部から5,000部。新人であれば、2,000部ということも珍しくない。
仮に、定価1,500円、印税率10%、初版4,000部だとしよう。
作家に入るのは、
150円 × 4,000部 = 60万円
これが、その本から得られる収入のすべてである。
一年分ではない。
「その一冊を書いて得られる全収入」だ。
では、運よく増刷したらどうなるか。
たとえば、初版4,000部に加えて、増刷2,000部。編集部としては「悪くない」と評価される数字だ。
だが、それでも印税は、
150円 × 6,000部 = 90万円
夢が膨らむどころか、増刷の壁を越えてなお、この程度のしょっぱい金額である。
■本は、静かに消える
ちなみに、初版のまま増刷がかからなければ、その本はすぐに書店から姿を消す。「売れなかった本」という扱いになるからだ。
そして、これが地味に効いてくる。
一冊ならまだいい。
二冊続くと、空気が変わる。
三冊連続で初版止まりになると、編集の態度は、はっきりと冷たくなる。
まず、返信が遅くなる。音信不通になることも、珍しくない。
作家「あの……(来週返事すると言ったのに、一ヶ月放置されてますが)、あの企画って、どうなりましたか?」
編集「え……あー、はいはい。すみません。いや、社内会議にはかけたんですが、反応が悪くて。どうしたらいけるかなーと考えていたところです」
作家「(いや、結果が出た時点で一報しろよ……)そうでしたかー。引き続き、よろしくお願いしますー」
基本的に編集さんは、一般的な民間企業で働いた経験がないせいか、報連相が壊滅的にできない人が多い。(ものすごい割合で)
※もっとも、編集さん側にも編集さん側の辛い事情がある。このあたりについては、また改めて別の記事「なぜ編集していると、編集できなくなるのか」を書きたいと思う。
ともかく、売れない作家は、編集さんの記憶から消える。
たとえ作家側が必死に連絡を取り、次の企画を持ち込んだとしても、出版社内の会議では、すでに「売れない作家」という前提で、企画の是非や初版部数が検討される。
しかも厄介なことに、「売れなかった」という数字は、出版社の垣根を越えて共有されていたりする。
(有名な大手書店が、販売数データを有料で公開しており、それを〇〇倍すると実売部数がだいたい推測できて、出版社はその数字から初版を決めているのだ)
ここで、はじめて気づくことになる。
作家という仕事は、「当たれば勝ち」ではない。
「勝ち続けなければならない職業」なのだと。
■なぜ、人は作家を目指してしまうのか
ここまで見てきたように、作家の世界は、めちゃくちゃ大変である。
それでも、作家を目指す人は後を絶たない。
なぜなら、めちゃくちゃ気持ちいいから。
だって──
自分の書いた本が、全国の書店に並ぶんだよ!
「先生」と呼ばれるんだよ!
まぐれでもヒットすれば、数百万円〜数千万がドカンと入ってくるんだよ!
オレ、才能あるかもっ!!
この感覚は、かなり強烈である。何者でもない無名から、一角の人物になったかのような快感。数字や現実の話など、一瞬で吹き飛んでしまう。
だから、デビュー作で大きく当ててしまった作家は、不幸である。
舞い上がるからだ。
作家業でいけると思ってしまうからだ。
そして、会社を辞めてしまうからだ。
だが、現実は厳しい。
一作目の成功が、二作目、三作目を保証してくれるわけではない。むしろ、「次も当てられるかどうか」という、より重たいプレッシャーが始まる。そして、すぐにネタ切れになる。
貯金があるうちはいいだろう。しかし、それも次第に尽きていく。歳を重ねるごとに、再就職のハードルも上がっていく。
その末路として──
心を壊す人が、現実にいる……。
結局のところ、いまの出版業界で「作家だけで食べていく」には、かなり特殊な条件が求められる。
若く、体力があり、マーケティングや広告代理店など大手企業での経験(ビジネススキル)があり、コミュニケーション能力が高く、メディア露出やセルフプロデュースを前提に動ける人。
そうした人が、テレビやネットで顔を売り、話題を回し続ける──その前提があって、ようやく「作家業で食べていく」が視野に入る。
しかし、それはもはや作家業というより、タレント業である。作家とは直接関係のない才能や努力まで、同時に求められることになるのだ。
■結論:だから、働きながら半身で書け
なぜ働いていないと、本が書けなくなるのか。
作家業が儲からないから。
継続も厳しく、生活ができないから。
だから、やるなら、働きながら、半身で、趣味として書くべきである。
もちろん、私も働いている。
そして、趣味で本を書いている者である。
そんな私の累計部数は、72万部です。
<本記事の続きはこちら↓>
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