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スマッシュ‼︎ 第1話 (全5話)〜力こそ全てフェデラーのマネ男〜

30代から40代前半にかけて、テニススクールに通っていた。


鹿児島にいる、唯一の高校時代の親友から、「テニスを始めたらドハマりした」と聞いて、そんなに面白いのかと、軽い気持ちで、近隣のテニススクールに見学に行った。

90分の、初級クラスを見学したのだと思う。
ラリーというにはあまりにもお粗末、上にゆるく打ち上げながら、羽子板みたいな軌道でボールをやり取りしている。

ふーん......と最初は退屈だった。

だが、仕事終わりの夜、柔らかい光に包まれたインドアコートで、ゆるいやり取りをぼんやり見ているうちに……

そこだけが、時がゆっくり流れているような感覚になった。
スローモーションを見ているような、不思議な感覚。

インドアコート独特の、埃っぽい匂い、キュッキュッと鳴るテニスシューズ、ポーンと高い天井に抜けるように響くボールの音。暖色系のライトに照らされた、青い絨毯コートのコントラスト。

それまでバラバラだった音や光や匂いが、突然ひとつの世界として鮮明に立ち上がり、その中に自分も溶け込んでいくような感覚になった。
きっと、ゾーンに入ったのだと思う。

私は、その日のうちに入会を決めた。


🥎🥎🥎🥎


数年後――

中級クラス、ダブルス練習試合。
3セットマッチ。

ド派手黄色いシャツ着たド派手コーチ
力こそ全てフェデラーのマネ男(50代)

      VS.

ほとんど動かない男(ハシビロコウ)(30代後半)
片手バックハンダー、エナンことやも(私)


ゲームカウント0-0、0-0。


◆エナンことやものサーブ

ファーストサーブはネットに引っ掛けた。セカンドは慎重になる。

エナンことやもは、テニスの中でもサーブが苦手であった。
サーブというか、トスが苦手であった。

エナンことやもは、妙なところで完璧主義者なので、完璧なトスの時しかラケットを振らない。

リターンは、力こそ全てフェデラーのマネ男。この男は、早い球=上手いと思っている大変に危険な男だ。コントロールはめちゃくちゃ。
以前、顔面目掛けて豪速球が飛んできたことがある。なので怖い。

4回目のトスやり直し。
力こそ全てフェデラーのマネ男がイライラしている。
頭の上のイライラゲージが満タンになり、バーサク状態に入っている。

チャンス。入れにいくサーブでも、力任せにリターンしてくるから、絶対にアウトになる。ホームラン野球してくる。

エナンことやもは、トスをとりあえず短めにあげて、入れにいくへなちょこサーブを打った。


◆力こそ全てフェデラーのマネ男のリターン

予想通り、力こそ全てフェデラーのマネ男は全力リターンの構えをした!
フェデラーのマネをして、飛んでくるボールに左手をいっぱいに伸ばしてタイミングを測っている。
ラケットを持つ手は、力んでWilsonのラケットがこん棒に見える。

エナンことやもは、構えるより、怖さで顔をラケットでガードした。

力こそ全てフェデラーのマネ男の渾身のリターン!
空気をつんざくかのようにラケットを振った。

「キャー😱!」 


怖さのあまり、しゃがんで頭を抱え込むエナンことやも。

「やもさーん!何やってるんですかー」
ド派手黄色いシャツ着たド派手コーチが笑っている。
リターンエースを取られた模様。しかし、エナンことやもはそれどころではない。
ボールなど見ていなかった。

もう、ド派手黄色いシャツ着たド派手コーチったら、何であんな危険なプレーを注意しないんだろう。力こそ全てフェデラーのマネ男が歳上だから、言いにくいのか。
力こそ全てフェデラーのマネ男は週に3回通う金ヅルだから、野放しなのか。

前衛を守っている、ほとんど動かない男(ハシビロコウ)は、何事もなかったかのように、ネットの前でじっと構えている。

私のミスでポイントを取られたことをどう思っているのか、顔が見えないからわからない。
「ドンマイ」くらい言って……、まあ、そんな間柄でもないか。


ゲームカウント0-0、15-0。

(続く)



この物語は、実在の人物や実際の出来事に着想を得たフィクションです。


次回「スマッシュ‼︎第2話」は
「ド派手黄色いシャツ着たド派手コーチ」です!

では、良い週末を。

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