中年ゲイ、ゼクシィを買う。
結婚とは賃貸契約である。
SATC(※1)で同じようなことをサマンサが言っていた。いや、サマンサは車に例えて気がする。サマンサ曰く「Before you buy the car, you take it for a test drive. (男だって試乗してみなきゃね!)」だそうで、それは本当にそうだなと思う。
※1…アメリカのドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」の略。ろくでもない女4人組が繰り広げる珍道中を描いたドラマである。平成初期までのゲイにはバイブルのようなドラマ。
特殊な場合を除き、試乗しないで車は買わないし、男も試乗して相性や価値観が合うのか確認してから結婚する。結婚してから「実は借金あンだよね~」なんて告白された日にゃ目も当てられない。加えて、残り一口になった麦茶を放置するタイプだったらもう絶望である。この手の男は何度注意しても平気で一口残していくし借金は増えていく。先の尖った革靴を履いてアイコスをふかすし、子供の面倒を頼んでもマッチングアプリで10年以上前の自撮りを使って大して面の良くない女のケツを追っかけている(※2)。
※2…偏見である。
ただ、ゲイは例外である。なぜなら、一発ばちこりコイてから名前を知るなんてざらにあるからだ。ピロートークで「こいつ エノキ山しめじデラックス じゃなくて 田中太郎 っていうんか」とわかったり、友人に彼氏ができて「俺たち、友達から恋人に…へへへ」なんて惚気いっぱいの馴れ初めを聞かされても、よくよく聞いてみたら「最初にやることヤってんじゃねーか!」みたいなパターンもある。それにこの界隈のカップルの入れ替わりはハイスピードだ。シベリアンハスキーの愛くるしいパピー期が終わるころには、もうすでに彼氏が4人違っているぐらいのスピードで入れ替わりが激しい。BLみたいなお付き合いをしているゲイカップルは全体の上位5%にも満たない。残念なことに西島秀俊だったり水沢氷魚みたいなゲイは存在しない。IKKOが言っている通り、幻なのである。なんだかゲイのネガティブキャンペーンをしているようになってしまったが、きっと同族の諸兄ならわかってくれると信じている。この世界はそんなに綺麗ではない。
結婚が賃貸契約のように感じるのは、そのプロセスが似ているからだと思う。内見はお付き合いで、申込はプロポーズ。審査は両家の顔合わせだし、手付金は結納金。婚姻届けの提出をもって結婚が成立するところとか、有責離婚で慰謝料という名の違約金が発生するところまで似ている。唯一違うとすれば、契約期間が存在するところだろうか。期間さえ満了していれば簡単に出ていける賃貸契約のほうがまだ優しいのかもしれない。
去年の今頃、相手もいないうえに法律的にも結婚できるわけじゃないのに、ゼクシィを求めて蝦夷のコンビニを駆けずり回った。なぜなら愛しくて愛しい推しの子「ミッフィー」のポーチが購入特典になっていたからである。
版権のあるキャラクターグッズは非常に高い。公式ストアではポーチ一つで3,000円などと平気な顔でかましてくるなかで、ゼクシィは300円(税別)で買える。この時代に300円でお茶とおにぎりすら買えないのに、ミッフィーが300円で買えるのだ。買うしかあるまい。むしろ買わずしてどうする。
この情報を知ったのは発売されてから1週間経過した後だった。やばい、完全に出遅れた。婚活パーティーのフリータイムになった瞬間に目当ての殿方のところへ行こうとしたら、腐ったドリアンのような女に先を越されたぐらい出遅れた。どうでもいい鼻くそカップルに私のミッフィーが取られたら夜しか眠れないと焦りに焦った私は、蝦夷中央のコンビニを10軒以上はしごした。
血眼で脂汗を浮かせた中年異常独身同性愛者男性から「ゼクシィってまだありますか?」と突撃された店員さんたちの顔は、みな一様に引きつっていた。ちょっとした怪異である。よく通報されなかったなと思う。
どこを探しても見つからなくなり、イチモツではなく一抹の不安からの涙を流していたところ、たまたま通ったクソデカコンビニの片隅に腐るほど売られていた。恥も外聞もかなぐり捨ててもまだ小賢しい私は、ゼクシィを裏返しポテチとプリンを添えてレジに出した。「これは頼まれたからついでに買ったんですよ。ええ、決して私がゼクシィを進んで買ってるわけじゃないんです。ましてやミッフィーのために買っているなんて違いますからね。私はいい年した大人なので。」という顔をして、楽天payのQRコードを店員に提示した。
研修中のマークが右斜めに傾いて今にも取れそうになっていたその彼は、特に顔色も変えずにバーコードを読み込み「あたためますか?」と聞いてきた。これはもう完全なる私への宣戦布告かと思ったが、私は良識のある大人だったので「いえ、すぐ使うので大丈夫です~。」と答えて会計を終えてコンビニを後にした。
…30mほど歩いてから気が付いた。
すぐ使うってなんだよ…。
使う相手いないよ…。
顔から火が出るほど恥ずかしくなった私は、ゼクシィをリュックに詰め込んで駆け出した。
そして気が付いた。
最初からAmazonを使えばよかったのだと。
あれ以来、あのコンビニには行っていない。あの店員がいるのかもわからない。
ゼクシィはあたためずに、資源ゴミの日に捨てた。
…いや燃えるゴミの日のほうがよかったかもしれない。

婚姻届も付いてきた。
夫の欄に西島秀俊の名前を書いた後、涙がポロリと落ちた。

なんなら今年のほうがかわいいまである。
運命やいかに。
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