vol.63 『テクノロジーの世界経済史』を読んで今後の会計士業界について考えてみる
はじめに
毎日のように新しい生成AIのニュースが飛び込んできますが、ついにApple Intelligenceも公開され、日本でも言語を英語 (米国) にすると同機能が使えるようになりました。
Appleがこの分野に参入することにより、ますます技術革新が進み、AIが我々の生活の身近な存在となりそうです。
このように技術革新はいつの時代も社会を大きく変えてきましたが、近年はAIの進展が我々の働き方に劇的な影響を与えようとしています。
そのような中、先日カール・B・フレイの『テクノロジーの世界経済史』を読みました。
産業革命以前から、技術革新が歴史的に社会や経済にどのような変化をもたらしてきたかを描いたとても素晴らしい書籍でした。そこで今回は、「『テクノロジーの世界経済史』と共に今後の会計士業界について考えてみる」ということで、書籍の内容を振り返り、これを会計士業界に当てはめながら今後の会計士のあり方について考えたいと思います。
『テクノロジーの世界経済史』の概要
『テクノロジーの世界経済史』は、歴史を「大停滞」「大分岐」「大平等」「大反転」という4つの時代に分け、それぞれの時代における技術革新と社会の変化を描いています。
1 大停滞 (18世紀以前):産業革命前までにおいて、多くの重要な技術が登場していたものの、人々の生活条件の改善は技術によるものは未だ少なく、経済成長の多くは貿易に依存していました。当時は労働コストも安く、技術革新から得られるものが少ないと考えられており、失うものは大きいと考えられていました。
2 大分岐 (18~19世紀):イギリスで産業革命が始まります。技術が導入され、機械と共にイギリス国内の生産構造が激変しました。当時の技術革新は労働を補完するものではなく置換するものが多く (「労働置換型技術」)、労働者が機械に対する怒りを爆発させていきます (例: ラッダイト運動)。産業革命の結果、生産性こそ急拡大しましたが、中所得の職人の仕事はなくなり、格差が拡大することとなりました (例: エンゲルスの休止)。
3 大平等 (19~20世紀):舞台はイギリスからアメリカへと移ります。20世紀の大量生産体制により、技術は労働を補完するものへと変化し (「労働補完型技術」)、労働者の生活は向上し、中産階級が誕生しました。労働組合が強化され、自動化が進む中で賃上げが達成されました。
4 大反転 (20世紀以降):20世紀末からのコンピュータの発展により、技術は再び労働を置換するものとなり (「労働置換型技術」)、中間層の没落が進んでいます。デジタル技術は世界のすべての人々に恩恵をもたらすとしていましたが、実際には正反対のこと (例: アメリカ社会における地域的な二極化) が起きています。この傾向が今後も続くと、自動化はポピュリスト政治家の標的になることでしょう。
なお、最後に「未来」という章が設けられており、技術の進歩にどう適応していくべきか、以下のような戦略や方法を提案しています。
教育
再訓練
賃金補償
税額控除
職業に関する規制
転居
住宅および用途規制
輸送インフラ
再開発など
次のセクションでは、これらの歴史と未来予測から会計士として何を学ぶべきかをまとめてみます。
これらの歴史と未来予測から何を学ぶべきか?
重要なポイントが三つあると思いました。
(1) 労働置換型か労働補完型か?
「2 大分岐」の際は技術が労働置換型であり、ラッダイト運動や広がる格差等、多くの痛みを伴ったものの、「3 大平等」へと入ると、徐々に技術が労働補完型となり、経済全体のパイ増加に加え、個々の賃金も上昇トレンドとなりました。
現在起きている技術革新が労働置換型、労働補完型いずれの分類にあてはまるのかは、自らが所属している産業によっても変わりうるものであり、自分自身にとってどちらにあたるのかを適切に見定めることが重要だと思いました。
(2) エンゲルスの休止はいつ発生し、どれくらい続くのか?
エンゲルスの休止の期間では、利益の大半は事業家が手にすることになります。
当時のイングランドでは、1人当たりの国民総生産は上昇しながらも、実質賃金の上昇は停滞するという状態が続いていた。ある研究者はこれを「エンゲルスの休止」と呼んでいる。
歴史を見る限り、この期間が永遠に続くわけではなく、どこかのタイミングで休止自体が終了し、個々の実質賃金も上がっていくことが予測されますが、問題はその期間 (イギリスの産業革命時は約70年間) となります。もし自分自身がこの期間の真っ只中にいるなら、非常にリスクが高いと思われます。
(3) どのようなスキルを身につける必要があるか?
歴史を振り返ると、機械という技術により工場が家内工業を駆逐され、多くの職人の仕事がなくなりました。一方で工場の規模や数が増えると職長、技術者、修理工等の新たな雇用が生まれると同時に、一定水準以上の教育が求められることとなりました。
仮に、今足元で進んでいるデジタル革命と過去の産業革命との間で類似性を見出すのであれば、AIはいくつかの既存の仕事をなくすと同時に、より高度な教育を要求する新たな職種を生み出していく可能性があります (例: ビッグデータ・アーキテクト、デジタル・マーケティング・スペシャリスト)。この全体の流れにアンテナを立てつつ、どのようなスキルを身につける必要があるのか考えていく必要があると思います。
会計士業界の未来
ほとんど全ての業界がデジタル革命の影響を受けるように、会計士業界もこれを避けることはできないでしょう。私はこの業界ですでに四半世紀に渡って働いてきていますが、少し振り返るだけでも多くの変革がありました。以下はBig4と呼ばれる大手監査法人を中心によく見られる例かと思います。
監査調書の電子化
被監査会社との資料のやりとりのWeb化
Web会議やビジネスチャットツールによるコミュニケーション
監査の一連プロセスにおける単純作業の切り出し
リモートにおけるデリバリーセンターの活用 (あるいはAI化)
これらにより、例えば財務諸表のタテ計や割合の計算チェックといった作業は段々と減少し、新たな仕事 (例: 被監査会社と監査チームの監査ソフトをAPI等を通じてつなげる専門家) が増えてくるのかもしれません。
仮に今、会計士業界もエンゲルスの休止の期間にいるとするのであれば、業界内での格差が広がっていき、高く意識を保持しないまま日々過ごしてしまうと、賃金は上がらず、最終的には仕事自体がなくなってしまうリスクに直面していることとなります。デジタル革命下において、会計士として新たな活躍の場に入るには、より高い教育やスキルを身につける必要があるということかと思います。
まとめ
最近の生成AIの動向や『テクノロジーの世界経済史』の内容をふまえ、「『テクノロジーの世界経済史』と共に今後の会計士業界について考えてみる」としてまとめてみましたがいかがでしたでしょうか?
個々の技術や所属している産業にもよると思いますが、現在進んでいるデジタル革命の技術は労働置換型のものが多く、実際にGAFAやマグニフィセント・セブンといわれる巨大IT企業は多額の利益をあげています。他方、中間層が少しづつ没落していく状況を鑑みると、これはイギリスの産業革命に類似しているように思います。
いま私たちが進んでいる道のりは、イギリスの産業革命でたどった道のりに酷似しているようにみえる。工業化でその後何が起きたかは誰もが知るとおりだ。
将来のことを確実に言い当てることは誰にもできないものの、産業革命と類似の事象が今後起こらないとは断言できません。
最後にドイツのビスマルクのものとされている名言を用いこの記事を閉じたいと思います。
愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ
おわりに
この記事が少しでもみなさまのお役に立てれば幸いです。ご意見や感想は、noteのコメント欄やX (@tadashiyano3) までお寄せください。
この記事に記載されている内容は、私の個人的な経験と見解に基づくものであり、過去に所属していた組織とは関係ございません。

