なぜ教師は「笑顔でいろ」と言われるのか ー 技術と願い、その先の話
まえがき
私が初任者だった頃、管理職や初任者指導の先生方から「たとえ授業がうまくいかなくても、とにかく子供の前では笑顔でいることが大切だよ」とよく言われました。
後輩ができるようになった今では、今度は私が伝えるようにもなりました。また一方で、「とにかく笑顔で」という話をしている先生方の姿もよく目にしてきました。
この「とにかく笑顔で」という言葉はよく見聞きするし、自分でも自然と口にしてしまうほど、当たり前に納得できるものです。
ただ、人が抵抗もなく、すんなりと受け入れてしまう”当たり前”ほど、裏にはそれを支える”何か”が流れているものです。
今回は、「とにかく笑顔で」という言葉の裏に、どんなものが隠されているのか探っていきます。
1)「笑顔でいる」ことはある種の諦念
まず、「たとえ授業がうまくいかなくても、とにかく子供の前では笑顔でいることが大切だよ」という言葉が発せられる背景には、次のような前提があると思います。
・授業が思うように進められない(学習指導面)
・子供との関係性がうまく築けない(生徒指導面)
・それにより、教師自身に不安が募る(精神面)
確かに、私が初任者だった頃は、学習指導も生徒指導もうまくいかず、精神的にもまいっていました。それでも「笑顔でいる」ことが、その場に立ち続けるための、最後にして最低限の責任の果たし方のように感じていました。
しかし、今はそれだけではないように思います。管理職やベテランが発する「笑顔でいる」という言葉には、「教師でいることの限界」に対する、経験則的なある種の諦念が含まれているのではないかと思います。
2)“教師”でいることの限界
教師は子供たちを教育する専門職です。
その専門性は「制度と理論」によって支えられています。現場の教師が、教育課程のすべてを計画・立案しているわけではありません。学習指導要領があり、文科省や教育委員会の政策があり、さらに研究知見の上に教育は成立しています。
しかし、どれほど優れた「制度と理論」が構築されたとしても、教育という営みは「教師と子供」の関係の中でしか成立しません(と私は信じています)。
つまり、究極的には、現場の教師がすべての「制度と理論」を背負い、子供の前に立っているのです。
果たして現場の教師は、そのすべての「制度と理論」に対して十分な責任を果たすことができるのでしょうか。
……
そんなことできるわけがありません。
これが「教師でいることの限界」です。
3)それでも責任と対峙する
①教育技術的な話
それでもなお、その「限界」を受け入れ、子供の成長を切に願うのが教師という存在です。限界を知っているからこそ、なお願わずにはいられないのです。
そして、願いの先にたどり着く一つの在り方が「笑顔でいる」ことでした。
では、教師が「笑顔でいる」と、何が起きるでしょうか。
子供に安心感が生まれ、明るい雰囲気が教室を包み、教師と子供(あるいは子供同士)の関係性がポジティブなものになります。そして、子供たちは落ち着いて学習に向かうことができるでしょう。
ここまでは、いわゆる教育技術的な話です。願いの先にたどり着く結末は、もう少し信仰的な側面を帯びています。
②技術の先にある願いの話
教師が笑顔でいると、子供たちは「安心」します。
子供たちがここで得る「安心」は、マズローの欲求段階説に照らすと、「第2階層:安全の欲求」あるいは「第3階層:所属と愛の欲求」に当てはまります。子供たちが「ここにいていい」と感じられることは、ある種の存在承認を得ることにつながります。
では、存在承認を得た子供たちは次に何をし始めるでしょうか。
子供たちは、次に自分の足で立とうとします。自分の歩みで進み出そうとします。自分の力で学びを得ようとし始めます。
つまり、逆説的ではありますが、教師の笑顔があることで、教師を飛び越え、子供たちは教材や学習内容と直接向き合い、思考を始めます。そこで、子供たちの学びにはエンジンがかかります。
「笑顔でいる」ということは、教育技術的な文脈にとどまらず、「教師でいることの限界」を背負いながらも、子供の成長を引き受けようとする、願いの文脈にある行為であると言えるのではないでしょうか。
4)結び
「たとえ授業がうまくいかなくても、とにかく子供の前では笑顔でいることが大切だよ」
この言葉にはもちろん、教育技術的な意味合いも多分に含まれていることでしょう。
しかし、幾年も教師として経験を重ねる中で、「笑顔でいる」ということについて、それが確かな経験知・実践知として揺るぎないものだと感じ取ってきたからこそ、発せられる言葉なのだと思います。
そして、ともすればそれは、子供の成長を切に願う、教師であるがゆえの宿願から発せられる言葉なのです。
終わりに一言で結ぶならば、教師の“笑顔”は、子供たちの学びの”離陸地点”となっているのです。
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