白山眼鏡
4年ぶりに、メガネを新調した。
メガネ屋さんには、レンズを交換したり、セルフレームを磨いてもらったり、特に用事もないのにふらっと店に立ち寄ったりはしていたので、そこまで間が空いた感覚はない。けれど、「新しいメガネを買う」という行為そのものは、やっぱり別格で、どうしてもテンションが上がる。
メガネは白山眼鏡で買うと決めている。
個人的に、白山眼鏡ほど「東京の匂い」がするブランドはないと思っている。大袈裟に言えば、白山眼鏡を買うことは、都市生活者の特権なのだ。
白山眼鏡といえば、数々の著名人が愛用していることでも知られている。特にジョン・レノンがかけていたことで有名な、日本を代表するアイウェアブランドだ。
白山眼鏡は学生時代からの憧れで、大阪・NU茶屋町にあった店舗を、用事もなくウィンドウ越しに眺めては、「高くて、いまは買えないなあ」と思いながら、羨望の眼差しを向けていた。
個人的な原体験は、大学生の頃に読んだ雑誌『2nd』。Sancaのディレクター、丸山剛彦さんが白山眼鏡をかけている誌面を見て、「かっこいいな」と素直に思ったことかもしれない。
いまでは感覚が少し麻痺しているけれど、JINSやZoffの登場で、眼鏡は「1時間でできるもの」になった。それはそれで便利だし、素晴らしいと思う。一方で、白山眼鏡は卸しを行わず、東京と大阪の直営店でしか買えない。
長野に住んでいた頃は、買いたくても「1週間後に受け取りと調整で再訪する」というのが現実的ではなかった。社会人になってからもタイミングを逃し続け、なかなか手に入れられずにいた。
はじめて白山眼鏡を買ったのは、2019年7月。東京の編集プロダクションに転職し、はじめて手にしたボーナスを握りしめて、店に向かった。

振り返ってみると、あの日から、ぼくの人生の第二章が始まった。白山眼鏡によって、「自分の顔」というものが確定したからだ。
365日メガネをかけて生活する人間にとって、メガネは「道具」ではない。 目や鼻や口と同じで、ほぼ顔のパーツそのものだ。
「良い靴は、素敵な場所へ連れて行ってくれる」というヨーロッパのことわざがあるけれど、近視の人間にとっては、靴よりまず眼鏡だ。絶対に。切実に。眼鏡だけは、今後もファストなものを買うことはないと思う。

白山眼鏡にしてから、仕事のグレードも、生活の質も、ほんの少しだけ上がった気がしている。それは、自然と顔を上げて、自信を持って振る舞えるようになったからかもしれない。

そして今回買った3本目は、〈ROUND classic〉というモデル。色は茶色の鼈甲の丸メガネにした。
茶色系の靴を履くとき、黒縁メガネだと少しうるさいなと感じることがあって、ファッショニスタとしては、茶系のメガネも持っていないとな、という判断である。

生涯で、あと5つぐらいは白山眼鏡でメガネを作ると思う。
年齢を重ねるごとに、似合うメガネも、かけたいメガネも変わっていくだろう。それが、いまから楽しみである。

