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舞台裏はAIに任せる。だから僕は、新聞を読み、走り、肌を整える

この記事は、柳川さん主催の「ノッカリアドカレ 夏 2026 6月」11日目の記事です。

柳川さんのこの一文が、ずっと頭に残っています。

AIがあればもはやコードは書けなくていいです。ただ書けなくていいけど、知識がいらないわけじゃないです。

「AIでモノづくりしたいエンジニア未経験者が押さえておきたいWebアプリの基本知識」

僕はコードが書けません。ただ、柳川さんの言う"知識"なら、少しは持っているつもりでした。長くWebサービスの開発ディレクターやプロダクトマネージャーをやってきたので、プロダクトがどう作られ、どう構成されているかは、仕事として見てきたからです。

それでも、独立して一人で事業をやってみて気づいたことがあります。その知識だけでは、足りなかった。AIがあれば、裏側は本当に作れてしまいます。そして誰でも作れてしまうからこそ、裏側では差がつかなくなっていく。最後に残るのは、表に立つ「人」のほうではないか。

今日書きたいのは「AIで作れた」話ではなく、AIに舞台裏を任せられる時代だからこそ、インターフェースである"人としての自分"を磨かないとまずいな、と感じ始めている、という話です。

俯瞰では「見えていた」。でも、五感では掴めていなかった

「知識なら持っている」と書いたのは、こういう経歴だからです。新卒で入った会社でWebサービスの立ち上げからグロース、売却やクローズまでひと通り関わり、その後パーソルキャリアで転職アプリのプロダクトマネージャーやPM組織のマネージャーを務めました。そして2024年に、いまの Granty を創業しています。

マネージャーになって、見える景色はむしろ広がりました。だから当時は、事業をわかっているつもりでいた。でも振り返ると、あれは俯瞰して「見えていた」だけだったな、と思います。求職者に向き合うキャリアアドバイザー(CA)の現場の手触りも、企業に断られ続ける企業担当(RA)の泥臭さも、自分の手と五感で掴んだわけではなかった。僕は転職という事業を、俯瞰では知っていても、肌では知らなかったのです。

だから、AIをバフにして「全部やってみる」ことにした

今度は自分の手で握ってみたかった。そうして始めた Grantyエージェントで、CAもRAも経営も、ぜんぶ一人でやってみようと決めました。

ただ、正直に言うと、すべてをアナログでやる前提だったら、たぶん始めていません。転職エージェントの仕事がどれだけ労働集約的で、求職者一人ひとり、企業一社一社へのカスタマイズの塊か。パーソルキャリア時代に近くで見ていましたし、僕自身、転職エージェントに相談した経験もあるので、想像はついていました。

それでも踏み出せたのは、AIがある、という前提があったからです。自動化や効率化だけでなく、一人ひとりに合わせた個別の最適化までAIと一緒にできるなら、この仕事を一人で始められるかもしれない。その読みに賭けて、コードを書けないまま、AIを相棒に、自分の業務を助けるツールを手探りで作っています。

・職務経歴書づくりの下書き支援(求職者の経歴を、応募先に合わせて整える)
・求人マッチング〜選考管理ツール(求職者にマッチした求人を抽出し、推薦以降の選考ステータスを管理)
・求人情報の取り込み・整理ツール(企業から預かった求人を届けやすく整える)
・企業・プロダクトに関する公開情報収集ツール(企業の動向を把握)
・企業ヒアリングからナレッジ抽出ツール(求人ポジションに関して詳細ヒアリングした内容を求職者対応で使える状態に)
・面接対策支援ツール(企業理解シートや想定問答集、模擬面接フィードバックを提供)
などなど

そうして実際に始めてみると、想像以上でした。企業様との人材紹介契約に向けた商談。契約後の、求人ポジションや事業・プロダクトの戦略、期待するPM像のヒアリング。求職者との面談、求人のご紹介、企業様へのご推薦。一つひとつが、意外なほど複雑なタスクの連続です。AIを使いながらでも痛感するのだから、これをAIがない時代に全部やっていたのかと思うと、正直、気が遠くなります。

柳川さんの言う通り、いまは「作ってから仕組みを知る」時代です。「これがあれば一人でも回せるかも」と思った課題を、その日のうちに形にしてみられる。AIは、一人の射程を確かに伸ばしてくれています。

AIが引き受けてくれたもの、人間に返ってきたもの

AIが具体的に何を引き受けてくれているのか。たとえば職務経歴書の支援です。求職者の経歴を応募先企業に合わせて整えるのは、以前なら何時間もかかるカスタマイズ作業でした。いまは、面談で聞いた情報と求人票をAIに渡して下書きを作り、僕が「ここは本人の言葉のほうが伝わる」「この実績は数字を添えたほうがいい」と手を入れる、という流れになっています。

大事なのは、AIが引き受けてくれたのが「時間」だけではない、ということです。以前の転職エージェントの仕事は、こうした作業を夜遅くまで、休日も抱えてこなすのが当たり前でした。僕が大手時代に近くで見ていたCAやRAの方々は、求職者への想いは強いのに、作業量に追われて疲弊していた。善意と献身で回っていた仕組みは、働く人の健やかさを削ることで成立していたとも言えます。

AIが作業を引き受けてくれたことで、僕に返ってきたのは「求職者の話をちゃんと聞く余裕」と「自分自身を整える時間」でした。皮肉なようですが、AIという最新の技術が、仕事で最も古く、最も大切なこと、つまり人と向き合うことに時間を使える状態を作ってくれています。

念のため、これは「エンジニアはいらない」という話ではありません

ここまでで「AIがあればエンジニアは要らない」と聞こえたら、本意ではありません。むしろ逆です。

僕がAIで作っているのは、自分の手元の業務ツールや、まだ試している段階の機能で、正直「まず動けばいい」と割り切っています。一方で、求職者からお預かりする履歴書や職歴のような大切な情報は、同じ基準では扱いません。そこは慎重に守るべき領域です。

そして事業を長く使われるプロダクトに育てるなら、その土台には間違いなくプロのエンジニアの力が要ります。自分で少し手を動かしてみたからこそ、その凄みの解像度が上がりました。

これは「一時しのぎを自分でやってみている」話で、たぶんAIで誰でも"それっぽいもの"を作れる時代ほど、本物の技術を持つエンジニアの価値は際立っていくのだと思います。

AIが裏側を均すほど、最後に残るのは「人」かもしれない

ツールを作りながら、冒頭に書いた予感は、だんだん怖さに変わっていきました。裏側を効率化できるのは、僕だけではない。AIが普及すれば、誰もが同じように効率化できる。機能で差がつく時代は、長くは続かないでしょう。

そうなったとき、やっぱり最後に残るのは、表に立つ「人」なのだと思います。

もちろん「転職エージェントは人で選ばれる」と言い切るのは綺麗事です。大手はブランドと豊富な求人があるだけで相談が集まる。でも、立ち上げ期の僕にはそれがない。だからフロントに立って、一人ひとりと向き合うしかありません。

ただ、続けてみてわかってきたこともあります。この複雑な仕事を一人で、つまりCAもRAも経営もすべて、回していると、求職者の人生に向き合いながら、同時に企業側の事情も、事業の数字も、ぜんぶ自分ごととして見ることになります。全体を俯瞰しながら、目の前の一人と向き合う。この経験は、資格やスキルのような名前こそつかないけれど、確実に自分を鍛えている気がします。人間力、と呼ぶしかないようなもの。AIが裏側を均していく時代に最後に効いてくるのは、たぶんこの「名前のつかない部分」です。

少し前に、「管理職は罰ゲーム」という言葉が話題になりました。僕も管理職を2年ほどやって、当時は同じように感じたことがあります。でもいま振り返ると、あれも「名前のつかない部分」を鍛えてくれた、重要な経験でした。やりたい人が少ない経験は、裏を返せば、やった人にしか残らないものがある経験です。だからこそ、あえて取りにいく価値がある。一人でフロントに立ち続けるいまの働き方も、たぶんその延長にあります。

仕事と生活は地続きだ。だから新聞を読み、走り、肌を整える

そう考えると、AIに任せて空いた時間をぼんやり過ごせば、その分そのまま"自分の差"になって表れてしまう。仕事の中で鍛えられる部分があるなら、その土台になる日常も、ちゃんと整えないといけない。

そもそも、労働と生活はきれいに分けられるものではないと思っています。面談で的確な問いを投げられるのは、朝に読んだ記事の蓄積があるから。商談前にコンディションを整えられるのは、日頃の運動習慣があるから。仕事のパフォーマンスは、生活の質の上に成り立っている。だから僕は、「ワークライフバランス」というより、「生活まるごとが仕事の土台」という感覚で、日常を整えています。

僕の場合は、たとえばこんなことです。

毎朝、紙の新聞をめくる。 デジタルでニュースは読めます。でも紙の新聞は、自分が追っていないテーマの記事も自然と目に入る。経済ニュースを追うつもりでめくっていたのに、最終面の文化欄でつい「私の履歴書」を読みふけったり、社会面の小さな記事に手が止まったり。求職者との面談で「この業界、最近こういう動きがありますよね」とさらっと話せるのは、この偶然のインプットのおかげです。AIがパーソナライズした情報を届けてくれる時代だからこそ、ノイズも含めた幅広い知性が、人と向き合うときの引き出しになります。

走って、身体を整える。 ランニングと自重トレーニングを、できるだけ崩さずに続けています。体力は集中力に直結しますし、求職者との面談が続く日や、企業との商談の前は、コンディションが成果に影響するのを実感しています。走ったあとの頭の冴えは、どんなタスク管理術にも代えがたい。

週に一度のサウナだけは、何があっても欠かさない。 唯一、効率も目標も関係ない時間です。ただ頭をからっぽにして"ととのえる"。一人でフロントに立ち続ける働き方は、知らず知らずのうちに力が入り続けています。力を抜ける時間があるから、また明日、人と向き合える。これだけはAIに最適化されない聖域として守っています。

夜はパックをして、肌の手入れをする。 清潔感は、人と対面で向き合う仕事の基本装備です。面談や商談は、信頼の第一印象から始まる。大げさに聞こえるかもしれませんが、内面を磨くのと同じくらい、外見の手入れを怠らないのは、人と向き合う仕事を選んだ自分への約束のようなものです。

効率や成果からいったん離れて、自分の感覚に戻る時間です。大事なのは、こうした一つひとつというより、アナログなインターフェースである自分を、意識して手入れし続けること自体だと思っています。舞台裏の仕事はAIにどんどん任せる。でも自分を整えるこの時間だけは、あえてアナログのまま手元に残しておく。このメリハリが、いまの僕にはちょうどいいバランスです。

それは、キャリアの「複利」になるのかもしれない

これは、冒頭の柳川さんの言葉に戻る話でもあります。コードは書けなくていい。でも、知識という"地図"は要る。そしてAIに良い指示を出せるのは、良いインプットと判断の土台を持つ人だけです。

誤解のないように言うと、AIをどれだけ使い倒すかは、これからますます大事になると思っています。問われているのは「AIを使うか、人を磨くか」の二択ではありません。任せられることはAIにどんどん任せて、そうして空いた力を、人としての自分を鍛えることにどれだけ振り向け続けられるか。差がつくのは、たぶんそこです。

最後に、転職エージェントとして一つだけ。

柳川さんは別の記事「なぜ3年で転職してはいけないのか」で、転職について「年数ではなく、語れる実績があるか」「実績は複利で効く」と書かれています。

僕は、その複利の土台にあるのが、AIに任せながら自分を鍛え続けるこの姿勢なんじゃないかと思っています。個別のスキルは、AIによって早晩古くなるかもしれない。でも、そうやって積み上げた経験と判断は、簡単には陳腐化しません。毎日のインプット、体力、清潔感、心の余白。その地味な積み重ねが足元を支えて、複利のように効いてくるのだと信じています。

僕自身、まだ何かを成し遂げたわけではありません。ただ、大手を出て一番よかったのは「事業の全工程を、自分の手と五感で握ってみた」経験でした。いまはその地図を広げ、表に立つ自分を磨くことに、毎日ちょっとずつ投資しています。危機感を燃料にしながら。

そして、ありがたいことに、これを一人でやっているわけではありません。じつは柳川さんには、Grantyエージェントの先輩PMメンターとして関わってもらっています。エンジニアからプロダクトマネージャー、いまは事業責任者として事業戦略から組織運営までを担う立場から、第三者の目で、求職者のキャリア選択や、入社後の立ち上がりまでを一緒に見てもらう。そんな伴走の形を、二人でつくっているところです。

もしあなたが、いまの「俯瞰では見えているが、肌では掴めていない」状態にモヤモヤしているなら。あるいは、働くことと生活を整えることが、どこかでバラバラになっている気がするなら。自分の地図を、手と五感で広げる転職を考えてみてもいいかもしれません。Grantyエージェントは、そういう越境を一緒に考える相手でありたいと思っています。

柳川さん、いい問いをありがとうございました。

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松原 泰之|Granty(グランティ) 記事を楽しんでいただけましたでしょうか。シェアいただけたらとても嬉しいです。サポートは夢の実現に向けて使わせていただきます!