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【上下水道料金ウォッチ 】2026年6月まとめ|長泉町30%・豊岡市2.2倍、水道料金の「決め方」が動いた月


今月の定点観測

水道料金・下水道使用料の1か月分の動きを整理してお届けする定点観測、2026年6月号です。

先月(5月号)は、札幌市の22.6%値上げと千葉県内の減免ラッシュが同時に起きたことを取り上げました。今月も値上げの動きは続きましたが、少し様子が違います。「何%上げるか」ではなく、「そもそも料金の中身をどう決めるか」を議論する事案が目立ちました。

やや地味に見えるかもしれませんが、実務家としては今月のほうが重要だと考えています。理由は最後の「今月の視点」で説明します。


1. 値上げ・改定の動き

長泉町(静岡県):下水道使用料を平均約30%改定へ

長泉町は「下水道使用料改定(案)」を公表し、6月25日までパブリックコメントを実施しました。令和9年4月1日から、下水道使用料を平均約30%改定する予定です。

背景にあるのは、平成6年の供用開始以来、消費税率の引上げを除いて30年以上、使用料を据え置いてきたことです。

数字で見ると分かりやすくなります。令和6年度の経費回収率は58.8%でした。経費回収率とは、下水道を動かすのにかかったお金のうち、何割を使用料でまかなえているかを示す割合です。58.8%ということは、かかった費用の4割強を、使用料以外=一般会計(税金)からの繰入金で埋めているということになります。国が目安とするのは80%ですから、かなり距離があります。改定後は令和14年度までに80%の達成を目指すとしています。

改定の中身も注目されます。2か月20㎥までの基本使用料を1,400円から1,820円へ引き上げ、従量使用料は累進制を廃止して1㎥あたり120円に一本化します。累進制とは、たくさん使う人ほど1㎥あたりの単価が高くなる仕組みのことです。使う量に関係なく単価をそろえる方向へ舵を切った形です。

豊岡市(兵庫県):下水道基本使用料を約2.2倍へ、答申に「資産維持費0.5%」

豊岡市の下水道事業審議会は、下水道の基本使用料を現行の約2.2倍へ引き上げる改定案を答申しました。老朽化する施設の更新と、将来の維持管理費の増加に備えるためです。

今月いちばん専門的で、いちばん重要なのがこの答申です。注目点は引上げ幅ではなく、「資産維持費」を料金原価に算入し、その水準を対象資産の0.5%としたことにあります。

資産維持費とは、将来の施設の建て替えに備えて、あらかじめ料金に上乗せしておく費用のことです。今の利用者と、将来の利用者の負担のバランスをとるための仕組み(世代間の負担の平準化)と言い換えてもいいでしょう。水道事業では導入例が増えていますが、下水道事業で0.5%という具体的な水準を答申に明記する例は比較的珍しいものです。

全国で料金改定が相次ぐなか、この判断は今後の下水道料金の議論に影響を与える可能性があります。


2. 減免・無償化の動き

熊本市:水道基本料金の無償期間を3か月→4か月へ延長

熊本市は、物価高騰対策として実施している家庭用上水道の基本料金無償化について、当初予定の3か月から4か月へ延長する追加予算案を市議会に提案する方針を示しました。

料金の減免は、市民生活を直接支える効果があります。一方で水道事業は、料金収入で経営をまかなう独立採算が原則です。減免を実施するときは、一般会計からの財政措置が十分か、事業の経営にどう影響するかを、あわせて検証しておく必要があります。

物価高騰対策と、水道事業の持続可能性。この2つをどう両立させるかは、多くの自治体に共通する課題です。


3. これから検討が始まる自治体

石垣市(沖縄県):下水道事業審議会を設置へ

石垣市は、下水道使用料や経営計画、施設整備などを審議する「下水道事業審議会」を設置する方針を示しました。

見逃せないのは、石垣市では下水道料金の値上げ案が過去に2回、市議会で否決されていることです。料金改定が複数回否決されるケースは全国的にも珍しく、審議会でどのような議論が行われるかが注目されます。

料金改定は、数字の妥当性だけでは決まりません。住民と議会の納得をどう積み上げるかという、合意形成のプロセスそのものが問われます。審議会の設置は、その土台をつくり直す作業だと言えます。

千葉県営水道:中期経営計画(令和8〜12年度)を策定

千葉県企業局は、今後5年間の基本計画となる「千葉県営水道事業中期経営計画」を公表しました。従来の「強靭」「安全」「信頼」に加えて、新たに「持続」を基本目標に位置付けたのが特徴です。

計画には、毎年度の収支見通しの見直し(ローリング)と、適正な料金水準の検証も明記されました。現時点では計画期間中の安定運営を見込んでいますが、物価上昇や建設費高騰といった不確実性を踏まえ、継続的に検証していくとしています。全国有数の大規模事業体が「持続」を掲げた意味は小さくありません。


4. 数字で見る6月



5. 料金の「周辺」で起きたこと

料金そのものではないけれど、いずれ料金に跳ね返ってくる動きです。

新潟市で、配水幹線350mを再施工へ。西区亀貝地区の工事で耐震継ぎ手の施工不良が確認され、再施工費用は約2億円と報じられています。受注者との協議が難航するなか、関連工事への影響を避けるため別途工事を発注する対応をとりました。耐震継ぎ手は、地震のときに管が抜けたり折れたりするのを防ぐ大事な設備です。埋めてしまえば見えなくなるため、供用開始前に発見できたのは不幸中の幸いでした。老朽管の更新と耐震化が全国で進むいま、施工品質の確保と完成検査の重みを示した事例です。

西桂町(山梨県)で、水道料金など現金約160万円が紛失。職員が集金した現金を事務所内で保管していた際に所在が分からなくなったもので、町は盗難や横領を示す証拠は確認されていないとして、警察への被害届は提出しない方針としています。焦点は現金の行方だけではありません。収納から保管、入金までの事務手続きとチェック体制が適切だったのか——つまり内部統制の問題です。

伊豆の国市(静岡県)では、簡易水道組合との統合をめぐって対立が表面化しました。老朽化した施設の改修費を市と組合で折半する合意があったものの、組合側が工事を実施しないまま活動停止を届け出たとされています。統合前の施設更新費を誰が負担するのか、責任主体はどちらか。水道広域化が全国で進むなかで、避けて通れない論点です。

JFEエンジニアリングの社長が「水道業界は5〜6社程度に集約される」との見通しを示しました(日経ビジネス)。施設更新需要の拡大とPPP・PFI案件の大型化が背景にあります。自治体から見ると、事業者の規模拡大は技術力や人材確保の面でメリットがある一方、競争相手が減れば入札の競争性は弱まります。「規模の経済」と「競争性の確保」をどう両立させるかが論点になります。

城陽市(京都府)では、上下水道の包括的民間委託の見学会が行われました。PPPやウォーターPPPは制度が複雑で分かりにくいという声もあります。実際の施設を公開して、職員や住民が仕組みを理解する機会を増やす取り組みは、地味ですが効きます。

日本下水道協会は、2027年度政府予算での下水道関係予算の大幅増額を要望しました。八潮市の道路陥没事故以降、下水道インフラの維持管理と更新への関心は高まっています。

このほか、北海道で初のドローンによる下水道管点検が実施され(テラドローン)、一方で下水道の閉鎖空間作業での酸素欠乏・硫化水素中毒の危険性も改めて報じられました。省力化の技術が進んでも、安全管理の重要性は変わりません。

最後に少し明るい話題を。W杯オランダ戦のハーフタイムに、東京23区の水道使用量が急増しました。多くの人が一斉にトイレや洗面所を使ったためです。注目したいのは、東京都水道局がこの急増を事前に想定して配水量と水圧を調整していたこと。「何事もなく水が使える」という日常は、見えない運転技術に支えられています。


6. 今月の視点:議論が「率」から「原価の中身」へ移った

今月の事案を並べると、料金改定の議論の重心が動いていることが分かります。

これまでの料金改定は、「何%上げるか」が焦点でした。値上げ幅が大きければ反発が強まり、小さくすればとりあえず収まる。そういう交渉になりがちです。

ところが今月は違いました。豊岡市の答申は資産維持費0.5%を原価に算入すると明記し、長泉町は累進制を廃止して単価を一本化すると提案しました。どちらも「いくら上げるか」ではなく、「料金の中に何を入れ、どう配分するか」という原価の設計そのものを動かす話です。

これは、ある意味で健全な変化だと考えています。

値上げ幅だけを議論すると、その場は収まっても、数年後にまた同じ議論をやり直すことになります。長泉町の経費回収率58.8%は、30年以上据え置いた結果です。据え置きは決断の先送りであり、先送りの分は誰かが払っている——この場合は一般会計、つまり下水道を使っていない住民も含めた税金です。

資産維持費の算入は、その逆をいく発想です。まだ壊れていない施設の建て替え費用を、今の料金に少しずつ含めておく。今の利用者にとっては負担増ですが、「自分たちが使った分の傷みは自分たちで払う」という筋が通ります。0.5%という水準が適切かどうかは事業ごとの検証が要りますが、議論の土俵が「率」から「原価」に上がったこと自体に意味があります

ただし、条件が一つあります。原価の話は住民に伝わりにくいということです。「基本料金が2.2倍」という見出しだけが独り歩きすれば、中身の議論は届きません。石垣市で値上げ案が2回否決されたのは、まさにこの説明の難しさを示しています。

だからこそ、審議会と行政の側には、「なぜこの原価構成なのか」を数字で説明する責任があります。経費回収率が何%で、国の目安はいくつで、足りない分は誰が払っているのか。資産維持費を入れないと、次の世代がいくら払うことになるのか。この説明ができるかどうかが、改定の成否を分けます。

料金改定は、値上げのお願いではなく、費用の負担を世代と利用者のあいだでどう配分するかという設計の話です。今月の長泉町と豊岡市は、その原則に正面から向き合った事例として記録しておきたいと思います。


おわりに

今月は、料金の「決め方」が動いた月でした。

個別の自治体について「なぜこの改定率なのか」を財務データから深掘りする分析記事も、今後順次公開していきます。

それでは、また来月の定点観測でお会いしましょう。


出典一覧

  • 長泉町「下水道使用料改定(案)」 https://town.nagaizumi.lg.jp/soshiki/jyougesui/4/11997.html

  • 長泉町(改定案PDF) https://town.nagaizumi.lg.jp/material/files/group/14/gesuidosiyouryokaiteiann2.pdf

  • 毎日新聞(豊岡市・下水道基本使用料の答申) https://mainichi.jp/articles/20260603/ddl/k28/040/234000c

  • 豊岡市(下水道事業審議会 答申PDF) https://city.toyooka.lg.jp/_res/projects/default_project/page/001/037/619/toushin.pdf

  • Yahoo!ニュース(熊本市・水道基本料金無償化の延長) https://news.yahoo.co.jp/articles/bb5eb9a017e7818e81fb62f596564fca3be36fc4

  • 八重山毎日新聞(石垣市・下水道事業審議会の設置) https://y-mainichi.co.jp/news/42544

  • 千葉県企業局「千葉県営水道事業中期経営計画」 https://pref.chiba.lg.jp/suidou/souki/press/2026/managementplan2026.html

  • 日経クロステック(新潟市・配水幹線の再施工) https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00142/02659/

  • YBS山梨放送(西桂町・水道料金の紛失) https://news.yahoo.co.jp/articles/51052bae62e622d8d633bdccba827ad72ad3ded9

  • 静岡朝日テレビ(伊豆の国市・水道統合の対立) https://news.yahoo.co.jp/articles/bb4cfb5d66a314da777b7ef0eda7201c761c9c71

  • 日経ビジネス(JFEエンジニアリング社長の発言) https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00877/060100008/

  • 京都新聞(城陽市・包括的民間委託の見学会) https://kyoto-np.co.jp/articles/-/1720114

  • 環境新聞(日本下水道協会の予算要望) https://kankyo-news.co.jp/news/c6077217-20e4-4dcb-8ed4-5e057d11c471

  • テラドローン(北海道初のドローン下水道管点検) https://terra-drone.net/27048

  • 佐賀新聞(下水道作業の安全確保) https://saga-s.co.jp/articles/gallery/1523891

  • 読売新聞(W杯ハーフタイムの水道使用量) https://yomiuri.co.jp/sports/soccer/worldcup/20260619-GYT1T00283/


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