6.Maysaloon / Warsphere
Maysaloonはシリアのバンドで、2017年にアルバムとシングルをリリース。以前、Orphand Landの記事でも取り上げたバンドです。イスラム圏では西洋音楽自体禁止されている国も多く、その中でもメタルは悪魔崇拝的なイメージもありより厳しく弾圧されています。ましてシリアは政情不安定で、メタル音楽に関係しているだけで投獄されるリスクもあるそう。それでもメタルの激しい音圧で訴えたいことがあるメタラーたちがアンダーグラウンドで活動しており、Maysaloonもそうしたバンドの一つです。シリアのメタルシーンを描いた映画「Syrian Metal is War」が2019年のWacken Air Festivalで上映され多くのメタラーの関心を集めました。
もともと、メタルは死や戦争、悪魔や疫病といった「人間社会の恐怖・対立や悲劇」をテーマにした曲が多くあります。戦地のシリアで活動するバンドはどんなことを歌っているのでしょうか。訳してみたいと思います。
Warsphere / Maysaloon
Before me no created things were
Save those eternal
And eternal I abide
Abandon all hope
私の前には何もなかった
それらの永遠を救い
そして永遠に私は耐える
すべての希望をやむなく捨てる
I'm the sacred, descendant from the skies
I'm the hatred, the truthful sin of lies
私は聖なるものだ、天上の子孫だ
私は憎まれるものだ、真実の嘘の罪によって
A sphere holds thy one, dropped and drowned
Shrouded by unholy flames
力場が汝をつかみ、堕とし溺れさせた
不浄なる炎に包まれて
Flesh to flesh, in and out
One by one, creatively sliced
肉体から肉体へ、内側も外側も
一つづつ、創造的に切り刻んでいく
Despise the heavens, enlighten the cosmos
Arise the fallen, and form your own creation
天国を蔑め、宇宙の秩序を教えてやる
戦死者が発生し、それがお前の世界を形作る
Slay and pray, this is the cry of man
This haunted mind, will unveil the seventh sin
殺して祈る、これは人間の叫びだ
この取りつかれた精神は、第七の罪を犯すだろう
Despise the heavens, enlighten the cosmos
Arise the fallen, deform your own salvation
天国を蔑め、宇宙の秩序を教えてやる
堕ちた死者が起き上がり、お前の救いを捻じ曲げる
Bleeding our own tears
Weeping, and yet we fail to realize
That killing has it's own price
Upon those who held the Warsphere
俺たちは血の出る思いで涙を流す
涙を流しても、まだ俺たちは実現できない
その殺戮はいつしか価値を持ってしまった
結果としてこの戦場を握った人たちにとって
The Sphere has fallen, and now we rise
From the ashes of our long-lost sins
The Sphere will tell us, how we spilled our blood
Filling the empty fields with hate and wars
領域は陥落し、俺たちは立ち上がる
俺たちの長く失われた罪の灰の中から
戦場は教える、俺たちがいかにして自分たちの血を流したか
空っぽの場所を憎しみと争いで埋めたのだ
解説
戦争によって日常が変化し、戦争によって生まれた権力構造は戦争を終わらせることができず、憎しみと争いが支配していることを歌っています。最後のパラグラフだけはやがて来るであろう戦後の、戦時を振り返り反省するシーンが描かれています。「Warsphere」は「戦争の領域」といった意味ですが、歌詞内での訳はシンプルに「戦場」としました。”Sphere”は「球体・天体」といった意味や「領域・影響範囲」という意味があります。”A sphere holds thy one”などと"sphere”単体で出てくるのは「(戦争の)力場に汝(thy)はとらわれた」と訳しました。ちょっとニュアンスが難しい単語です。なお、Maysaloonはシリアのバンドなので、共通語はイスラム語。英語は母語ではないはずです。
他には「Fallen」や「Creation」といった「堕落したもの」「天地創造」的な宗教的表現が目を引きます。シリアのバンドなのでキリスト教ではなくイスラム教の用語でしょうか。イスラム教とキリスト教はルーツと信仰神は同じなので同じことを指しているように思いますが、神話は長い時の中で各時代の生活環境と共にさまざまな意味を纏っていくので深いニュアンスでは差があるのかもしれません。
途中、「Seventh Sin」という言葉が出てきます。「第七の罪」なので、キリスト教の7つの大罪だと第七の罪は色欲になるようですが、イスラム教にも7つの罪があり、それは「偶像崇拝、殺人、私通の偽証、孤児の誘拐、高利貸し、聖戦からの脱走、両親に対する不服従」だそう。イスラムにおける第七の罪はこの順番で行くと「両親に対する不服従」なのでしょうか。ちょっと意味が通りません。調べてみるとイスラムにおける地獄の七つの門というものがあり、預言者ムハンマドが天使ガブリエルに「第七の地獄」について聞いたところ、「第七の門には,あなたの共同体の中で,大罪を犯したのに悔悟しないまま死んだ人々がいます」と答えたそう。この意味かもしれません。いずれにせよ、戦場や戦争の描写に生々しさと切実さを感じます。シリアに平和が訪れることを祈っています。
