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ヒュー・エヴェレット3世の猫 (8)

第八章

さいたま特別区衆院選 の結果 についてのシュレディンガー岩井他の考察

与野イオンのスタバ。
氷の溶けたアイスコーヒーが、世界のように飲みやすい。

テレビにテロップ。

「枝林権三郎氏、落選確実」

店内がざわつく。
ざわつくというより、スマホがざわつく。
雪はやんだ。

エヴェレットが言う。

「分岐は終わったな」

シュレディンガー岩井。

「観測されたべ」

ニーチェは、フラペチーノを嫌悪している。

画面に枝林が映る。
顔は疲れている。だが、崩れていない。

記者が問う。

「SNSの影響でしょうか」
「総理人気の影響でしょうか」

枝林は言う。

「私の実力不足です」

スタバのBGMが、一瞬だけ小さくなった気がした。

エヴェレットが呟く。

「責任を外部に分配せんかった」

シュレディンガー岩井。

「楽な世界線、選ばねえな」

ニーチェ。

「強いな。これは」

そのとき、別の画面。

「イハイハ・ジョージ氏、初当選確実」

歓声。若い。勢いがある。目がギラギラしている。

イハイハは言う。

「変えると言ったからには、変えます」

その声は真っ直ぐだ。
軽くない。ブームの顔ではない。

エヴェレットが頷く。

「勢いは現実を動かす力や」

シュレディンガー岩井。

「若さは波動が強えべ」

ニーチェは低く言う。

「意志だ。これは意志だ」

対照的だ。

枝林は、負けを引き受けた。
イハイハは、勝ちを引き受けた。

どちらも逃げていない。

隣のテーブル。
「やっぱSNSだよね」
「テレビ終わってるよね」
「空気変わったよね」
「流れだよね」

流れ。

その便利な言葉。

流れとは何か。
責任の希釈液である。

ニーチェが冷たく言う。

「群衆は原因を“雰囲気”にする」

エヴェレット。

「世界は分岐するが、言い訳は一本や」

シュレディンガー岩井。

「楽な説明ほど売れるべ」

イハイハの演説が続く。

「批判も受け止めます」

枝林の言葉が重なる。

「私の実力です」

勝者も敗者も、自分の位置を引き受けている。

だが世間はどうだ。

トレンド。
切り抜き動画。
煽りタイトル。

五秒でわかる政治。

五秒でわかる、わけがない。

ニーチェが吐き捨てる。

「深く考えるより、怒るほうが楽だからな」

エヴェレット。

「複雑な世界より、単純な敵のほうが扱いやすい」

シュレディンガー岩井。

「でも現実は、分岐しても単純にならねえ」

テレビがCMに切り替わる。

スタバの客は、もう別の話題だ。
新作ドリンク。値上げ。芸能ニュース。

政治は消費される。
五分で。

だが、あの二つの言葉だけは残る。

「私の実力不足です」
「変えると言ったからには、変えます」

エヴェレットが立ち上がる。

「これは量子の話やない」

シュレディンガー岩井。

「責任の話だべ」

ニーチェが最後に言う。

「引き受けた者だけが、次の分岐を選べる」

外ではカートがぶつかる音。
白菜が98円。豚バラ128円。

世界は続く。

だが、観測後に言葉を引き受けた二人は、もう“空気”の中にはいない。

空気を言い訳にしない人間だけが、少しだけ、重い。

来週は最終回です よろしくおねがいすんべ

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