【創作大賞2025ミステリー部門応募作】第36話/ケ・ハレ〜仁保中郷土史研究部は今日も活動日〜
第2章 上の秘密
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目測では、およそ五、六百メートル。
ただ、下り坂ゆえに、あっと言う間にたどり着く。
遠目では入り口しか見えなかった脇道は、緩やかな上り坂だった。
五十メートルくらい行くと、左に大きく曲がり、その先は見えない。
幅は車二台がギリギリ行き交えるほど。
山に分け入る道の割には、地面は綺麗だった。
近年、アスファルト舗装がされたと思われる。
削った壁面も、コンクリートで土留めされていた。
「間違いなく、ここですよ!」
織田村は、自転車に跨ったまま、異様に興奮した声を上げる。
「不自然に道が新しいし、左側は、削って補強されてますよね! 昨日聞いた話の通りだ」
異論はない。
おそらく、当たりだろう。
矢儀は、とりあえず自転車を降りた。
左側のコンクリート擁壁を、じっくり眺める。
稔と美紀の話では、上へ続く道の入り口は削られ、わからなくなっているらしい。
でも、道そのものはあるはずだ。
舗装された部分より上に上がれば、入り口は見つかるかも――。
矢儀が想像を巡らした時だった。
カーブの先から、ひょっこり人が現れる。
やや背中の曲がった老齢の女性だった。
パーマでボリュームを出した短い髪は、白色とも灰色ともつかない色。
年は、八十代か。
老女は足を止め、坂の上から胡乱気な視線を向けてくる。
「あのー!すみません。ちょっとお聞きしたんですけど」
矢儀は、自転車を路肩に止め、老女の元に駆け寄った。
いかにも大昔を知っていそうな人物だ。
「僕たち、仁保中の、生徒で、郷土史を、研究して、いるんですが――」
緩やかな坂道とはいえ、一気に駆け上がったせいで、息が切れる。
「ええ? 何て?」
老女は、案外大きな声で聞き返してきた。
おそらく耳が遠いのだろう。
「僕たち、仁保中の生徒で、地元の歴史を勉強しているんです」
矢儀は少し大きめの声でゆっくり話す。
もちろん、笑顔も忘れない。
間近に見た老女は、目尻の皺も深く、頬のたるみも目立つ。
だが、矢儀には、学校で一番かわいいと評判の女子より、よほど魅力的だった。
こんな素敵な女性を、ここで逃してなるものか。
「ぼくは矢儀と申します。あとの二人は、織田村と……兼行です」
織田村は、駆け足で坂を上がって来ていた。
一方、兼行は、あらぬ方向を見ながら、面倒臭そうに近づいてくる。
矢儀はさっさと話を戻した。
「それで今、未遠の石段について調べていて――」
老女の眉根がぐっと寄る。
予想通りの反応だ。
矢儀は、なに食わぬ顔で続けた。
「下ったところに、古い石段がありますよね? 実は昨日、未遠の方から、石段以外に、石段の上に上がる道もあるとお聞きして――」
「上にゃあ、立ち入るもんじゃない」
深い皺がさらに深くなり、老女の目つきが変わる。
ふと、線香の匂いが鼻をかすめた。
老女の手元を見ると、小さな布カバンの中に柄の長いライターと線香の箱が見える。
どうやら、この道の先は、稔や美紀の話通り、墓地で間違いなさそうだ。
矢儀は高揚する気持ちを必死で押さえた。
どうやって話を引き出そうか。
次の言葉に慎重になる。
ところが、老女は意外にも、自分から喋り出した。
「上は、その昔は、山神様がおわす神聖な場所じゃったんじゃけぇ」
〜第37話へ続く〜
表紙イラスト:炭酸水
