お猪口一杯の宇宙。日本の「一勺」が量子力学とニュートン力学の境界線だった話
理科の授業で習った「水1モル(mol)=18g」という数字。
最近ふと気が付いたのですが、これを日本の伝統的な単位に当てはめてみると、なんと最小単位の一つ、「一勺(いっしゃく)」。
お猪口一杯分、約18ml。
水に換算すると、驚くほどぴったり 1モル なのです。
10の累乗でつながる「伝統」と「科学」
偶然とは思えないほど、日本の単位(尺貫法)とモルは美しくリンクしていました。
一勺(18ml) = 1モル:お猪口一杯
一合(180ml)= 10モル:いつものご飯・晩酌
一升(1.8L) = 100モル:一升瓶の迫力
アボガドロ定数 6.02×10の23乗(6000垓)という途方もない数の分子が、お猪口という小さな器の中に、整然と詰め込まれている。
私たちが日常で使ってきたサイズ感は、実は「分子の塊」として非常にキリの良い単位だったのです。
それは「世界のルール」が変わる境界線
しかし、この「1モル」という数字には、単なる重さ以上の意味がありました。
量子コンピューターの研究者は、こう語ります。
「アボガドロ数こそが、量子力学がニュートン力学に変わる境界線だ」と。
ミクロの世界(量子力学)では、原子が1個、2個のレベルでは、粒子は「波」のように振る舞い、どこにいるか不確定で、私たちの常識が通用しません。
お馴染みのマクロの世界(ニュートン力学)では、物を投げれば放物線を描き、押せば動く。私たちの知る「確かな現実」です。
原子が1モル(アボガドロ数個)ほど集まって、ようやく個々の「気まぐれ」が消え、安定したひと塊の「流体」として姿を現す。
つまり、お猪口に満たされた「一勺の水」こそが、量子という魔法が解けて、私たちが触れられる現実の物質へと生まれ変わる「最初の一歩」の量なのです。
日本酒を飲むとき、宇宙を飲む
江戸時代の人々が枡(ます)の大きさを決めたとき、そこに分子の概念はありませんでした。
しかし、人間が「手になじむ」「ちょうどいい」と感じて選んだサイズが、世界の物理法則が切り替わる「1モル」という点で見事に一致した。
今度、日本酒を一勺、あるいは一合いただくとき。
その喉越しの中に、宇宙の最小単位である分子が、気の遠くなるような数(6.02 ×10の23乗個)ひしめき合い、ようやく「水」という形を保って存在している。
そんなロマンを、お猪口一杯の酒と一緒に味わってみてはいかがでしょうか。
