くったり猫クッションとの運命的な邂逅
ある日、私は道に迷っていた。
近場のショッピングモールである。
なんだか知らないがそのショッピングモールは異様に広く、増改築を繰り返したせいで複数のビルが融合し、新宿駅ないし東京駅さながらのダンジョンと化していた。
私は滅多に外出しないので、どこに何の店があるとかいちいち把握していない。久しぶりに書店の香りを嗅ぎたいがため、ネットで調べた大型書店に向けてフラフラと歩いていた次第である。
すると、いい感じのクッションなどが並んでいる店に出くわした。ニトリだかイケアだかそのたぐいの店舗である。
クッションは良い。特にやわらかいクッションがもたらす手触りは無限の癒しを私に与えてくれる……。
私は吸い寄せられるように並んだクッションに近づき、ツンツンと突いた。(※消毒済み)
!?
指が吸い込まれていく……!!
お花をあしらったその冷感クッションは異次元の柔らかさだった。ここは天国だろうか。私の脳内は一気に天上まで舞い上がり、癒しのオーラが全身に打ち鳴らされる。
私は誘蛾灯に誘われる羽虫のごとくフラフラと歩きながら、並んでいるクッションを順繰りにツンツンしていった。怪奇ツンツン女の爆誕である。
そして私はあるクッションを前に足を止めた。

この緩い感じ……私がいつも描いてる化け猫のイラストに相通じるものがある。私はその猫を手に取った。かわいい。かわいい。かわいい。
頭の中が『かわいい』で占められる。
私はそれを持ったままレジに向かいそうになる足をどうにか叱咤した。
内なる声A『いや、クッションはもうたくさんあるやないか節子。何なら、猫の抱き枕もあるやないか』
内なる声B『でもほら、ちょうど寝る時の足置きにいいっていうか』
内なる声A『足置きもあるやないか。どう考えてもいらんやろこれ』
内なる声B『でもほら、こんなにかわいいよ』
内なる声A『かわいいで飯は食えんのや。1980円は高い。分かっとるやろ節子』
内なる声B『うおおお……! ぐうの音もでねぇ……!!』
私はそっと猫のクッションを元にもどした。
誰かいい人に買われるんだよ。
私はその売り場から離れたが、なんとなく他のインテリア用品などに目を惹かれ、店舗内をさ迷い歩いた。すると、さっきの猫が再び現れるではないか。

うおおお……! ずるいぞニトリだかイケアだか! 渾身の思いで諦めたんだぞこっちは。
しかも、「お買い得品」と書いてある。200円も安い。つまり1780円になるというのか。何で店頭の商品は1980円のままだったんだ?
売れないのかキミ……。こんなにかわいいのに……。
しかし、200円引きなんて大したことはない。考慮に値しない値引きである。とはいえ哀れに思った私はしゃがんで、一番上に置いてある猫クッションの顔を覗き込んだ。すると、なんだか不細工である。綿がちょっと偏ってしまってるようだ。
あーあ、こんなんじゃ売れないよ。
私はちょっと猫の顔を押して顔を整えてやった。すると……するとどうしたことだろう。私の手は接着されたようにその猫にくっついてしまった。
もうこの猫を買わないという選択肢が私から消えていた。この子を自分の体から離す想像がつかない。
私はあきらめてその猫を買うことにした。
それにしても絶妙なくったり具合である。腰を掴んで左右に揺らすと優柔不断にくったりしている。


この猫クッションを抱えていると心があたたまる。オキシトシンの分泌を感じる。
皆さんも今後、数々の運命的な出会いを果たしていくことだろう。そうした時に自分の心から発されるサインを見逃さず、買いたいと思った時に買えるような態勢を常に整えておくことをお勧めする。
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