【誰にでも分かりやすく】消したはずが残る? マネフォ情報流出の裏側を考える
皆さんは、間違ったファイルをネットに上げてしまった経験、ありませんか?
先週お届けした、マネーフォワードの個人情報漏えい事件について……。
前回は「そもそも何が起きたのか」の解説で長くなってしまいました。
そのため、「何でこんなことが起きるのか」まで踏み込めませんでした。
今回は後編です。
エンジニア以外の方にもなるべく分かりやすく、「なぜそんなことが起きたか」を考えていこうと思います。
さて、今回の個人情報流出事件については、不可解な点がいくつかあります。
でもその最たるものは、「そもそもなぜ、個人情報の入ったファイルをGit(ファイル管理システム)に上げてしまったのか」でした。
繰り返しますが、ソースコードを管理するべき「箱」(Gitリポジトリ)に個人情報を上げるというのは、基本的には避けるべきであるというのが常識です。
公式な「なぜ」は調査結果が待たれます。
でも、私も開発者の端くれとして現場を見てきて、「これはありそう」という可能性を考えてみました。
まぁ、パッと考えられるのは……
【推測】テストのため、実際のユーザーデータを使いたかった担当者。個人情報をGitHubに上げてしまったが、そもそも、Gitの仕組みをよく理解していなかった。
嘘みたいですが、実態を見ても、割とありそうだな……なんて思う訳です。
Gitとは何か、ということは前回の記事でお伝えしました。
本当に雑にまとめてしまうと、主にソフトウェア開発などの際、完ぺきにファイル変更追跡を行う仕組みです。
Gitで管理していれば、以下の事実が追跡できるようになります。
・誰が変更したか
・いつ変更したか
・どこを変更したか
・何のために変更したか
(イメージ)

本当に便利なので、開発者は9割使っていると言っても過言ではないでしょう。
余談:エンジニアでなくとも、変更履歴の管理をするためにローカルでGitを導入するのは、結構オススメです。特に、AIを使ってローカルファイルを操作する方にはほぼ必須でしょう。彼らはよく間違えてファイルを消したり、訳の分からない変更をしますので。
ただ……、ここに落とし穴があるんですよね。
さっきも言った通り、誰が、いつ、どこを、何のために変更したか分かる。
ということは、「過去の履歴も全部見える状態である」ということなんです。
ピンと来ませんよね。
ここで繰り返しますが……。
皆さんは、間違ったファイルをネットに上げてしまった時、どうしますか?
多分、慌てて削除すると思うんです。
「まだ、誰にも気づかれていない。ふぅ、大丈夫だな」
と一息つく様子まで、想像できるのではないでしょうか。
でもGitは少し特殊な仕組みです。
例えば、
①5年前の3月1日。Aさんが誤って個人情報をGitにアップする。
②Aさん、ミスに気づいて同日に慌ててファイルを削除。Gitにも「消した」ことを記録する。
これで消えたから、大丈夫。
そう思うじゃないですか。
違うんです。
Gitにおけるファイル削除って、「消した」という履歴を残すだけなんですよね。
一見すると削除されたように見えるのですが、永遠にGitの中に残り、Gitにアクセスできる人なら誰にでも見れる状態であり続けるんです。
(あえて複雑な手順を踏んで痕跡ごと削除することもできますが…推奨されません)
また、ある時点のファイル構成状態へ一気に戻すことも簡単です。
つまり①と②の間にパッと状態を戻すことができちゃうんですよね。
イメージし辛いかもしれないので、パソコンというより、「ノート」のようなものを想像してください。

一度ノートの5ページ目に油性ペンで何かを書いとします。それからどんどん書き続けてノートの後半部分に至っても、ページをめくれば、いつでも5ページ目に戻れるじゃないですか。
ページの上に付箋で「5ページ目はボツ」と貼ったって、ページを引きちぎらない限り、後から読むのは自由です。
ちょっと乱暴かもしれませんが、イメージとしてはそんなもの。
「ノートの5ページ目にまずいものがあるって、5年の間に誰か気づかないの?」
そう思うかもしれません。
でも、数千冊溜まったノートの、どこかランダムな5ページ目だとしたら、どうでしょう?

誰か見返すでしょうか。
ましてやその後、「5ページ目はボツ」って書いてありますし。
誰かが偏執的に一つひとつのページを丁寧に追わない限り、Aさんがミスしたことにすら気づかないかもしれません。
他人の作業履歴まで細かく見る人は、少数です。
(私は時間があれば見るのですが、それもそれで他人を信頼できていないということなのかもしれませんね)
今回、マネーフォワードの事件において、Gitに個人情報を上げてしまって、その後放置されたということが、もし起きたのだとしたら。
それをやったAさんはGitの仕組みを理解していないのでしょう。
ファイルを消しただけでは消したことにならないという、根本的な仕組みを。
※ほかにも色んな可能性はあります。
以前から漏洩していたリポジトリに、Aさんがミスで上げてしまって、その瞬間にもう致命的だった可能性もあります。
内部開発用の別のリポジトリがあって、そっちに上げたつもりが、間違えてしまったとか。
でも内部開発用だとしても、個人情報をGitに上げるのはご法度なんですけどね…。
いずれにせよ現時点で明らかなのは【本来上げるべきではない個人情報をGitに上げてしまった】という事実だけで、ここに書いたのはただの推測です。
会社自体のセキュリティ意識がどれだけ高くても、作業するのが人間である以上、ミスは防げません。
「誰が悪いのか」より「今後どうするか」
Gitという仕組みに関しては、便利な一方、仕組みを理解するのに時間がかかるという欠点もあります。
あんまり直感的じゃないんですよね。
何をやって良くて何をやるとまずいかは、やってみないと想像がつきづらい。
私の経験でも、訳の分からないミスをする方は結構おられました。
マージ作業をミスして、私が書いたコードを消されるのなんて日常茶飯事でした。「自分の書いたコードを意味もなく消される」これはもうトラウマ級に嫌な出来事なので、絶対に忘れられません。
初心者のハードルは結構大きいです。
今回の漏えい事件も、個人のミスが問題を大きくしてしまった可能性はあります。
ミス自体は、いつでも誰にでも起こりうる事態ですし、ネットに上げたものはいつか漏洩します……。
特にGitHub(Git管理のための便利なオンラインサービス)はかなり大きく、ほとんど業界のデファクトスタンダードになっています。
そのため攻撃しようとする人も多く、成功した時のメリットも大きいんですよね。
今回GitHub側に何か問題があったわけではなさそうですが、最近は類似した情報漏えい事件が多発しています。
クラウドファンディングの大手であるCAMPFIREでも、先月、最大22.5万人分の個人情報が流出した可能性があると報じられています。
さらには数日前(5月20日)、GitHub自体が不正アクセスを受け、3,800件のリポジトリ(つまりソースコードの入った箱)の中身が漏えいしたと報じられています。
だからといって「GitHubを使うのをやめよう」という解決策は短絡的です。
ただ、全体的な風潮として、オンラインのサービスに対する信頼感が揺らいでいる空気は、ひしひしと感じる今日この頃です……。
朗報? 課金ユーザーへの補償
話を戻して、マネーフォワードさんの件で銀行連携の一時停止など不利益を被った方には、少しだけ朗報かもしれません。
マネーフォワードMEは、この件で「有料プランを15日間延長」と言う形で、補償を行うことに決めたようです。
2026年5月12日より、銀行口座連携を順次再開しておりますが、プレミアムサービスをご利用のお客さま※の購読期間を15日間延長することを決定しました。
(マネーフォワードME)
何もないよりは、良かった気がしますね。
私が課金ユーザーだったら、15日の延長では……信頼を取り戻すことはできない気がしますが……。
この補償についてはともかく、少なくとも前回も書いた通り、事態が発覚してからのマネーフォワードの対応は、現時点では評価できます。
参考:『GitHub』への不正アクセスに関する調査進捗および銀行口座連携再開に向けた経過のご報告(第二報)
再発防止策も「より一層注意していく」といった根性論ではありません。
システム的な対策をメインに書いている点について、良い印象を覚えました。
人間がミスをする前提でシステムを設計しないと、どうにもならないですからね。
最後に
セキュリティと利便性はトレードオフだ、とよく言われます。
身近なところでは、パスワードは全くのランダムな長い文字列であるほど強固だと分かっていても、ついペットや家族の名前や自分の誕生日を設定してしまいますよね。
オンライン銀行や証券のワンタイムパスワード認証だって、堅牢ですけど面倒です。
最近はパスキー認証の方が安心だというのが常識になってきましたが、切り替えが案内されても、面倒に感じますしね。
現金払いと比べればクレジットカードの方がリスクは高いけれど、今更カードのない生活には戻れない。
同じように、GitHubにリスクがあると言われても、GitHubの最強のセキュリティ設定なんて誰もやりたくないわけです。面倒です。
私たちのnoteも最近、少しだけセキュリティが向上しました。
でも、今後何かあるまで、これ以上の対策は進まないのではないかという気もしています。(必ず何かはあるでしょう)
セキュリティは手間暇、そしてお金をかけないと保てない「インフラ」。でも新たに何かを生み出す訳ではないから、後回しにされるんですよね。昔からそうでした。
それでも私たちが安心して生活していけるように。
こうして騒ぎになったことも踏まえ、インターネット上のサービスを運営する人たちは、改めて自社のセキュリティを見直すフェーズに入ったのかもしれません。
今後、ますますサイバーセキュリティが重視される世界になってきそうですね。
セキュリティには目に見えるメリットがありません。だからこそ、「来るかもしれない未来のために」どれだけコストを払えるか。
それを無駄だと思わず応援し、積極的に協力していける姿勢が、私たち一人ひとりにも求められているのかもしれません。
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