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マルチタスクとは抱えること

今振り返ると、前の職場では、
常にいくつもの荷物を抱えていた。

一つ目は、職場であった保険会社の
システムリプレースのための更改案件。

二つ目は、その保険会社全体で発生していた、
通信遅延障害に伴う、切り分けのための試験対応。

三つ目は、その通信障害の中で見つかった、
脆弱性を是正するための機器構成変更作業。


世間では、こういう状態を
マルチタスクと呼ぶのかもしれない。

僕は休職後には、
それらの荷物は一度下ろして、
休養を取れると思っていた。

けれど、実際は違った。

休職のあと僕の手元には、
職場で抱えていたものの代わりに、
山積みの不安が残るようになった。

これらの不安は、内省を掘り進めていけばいくほど
膨らんでいき、
実際に動き始めるほど、
明確な形に分離するようになった。

分離した不安は、明確な重さと形を伴って
山積みの荷物として、
僕の両手をふさぐようになった。

それが例えば、労災申請だったり、
転院活動だったり、
会社との未払い交渉であったり、
転職活動だったりする。

そして今の僕には、支えてくれる人も
たくさんいる。

それが例えば、 医師やリワークの講師、
キャリアカウンセラー、 社労士だったりする。

けれど、この荷物は、誰かに
肩代わりしてもらえるものではない。

彼らに伝えられるのはせいぜい、
その荷物の整理した中身だけだ。

今、両手で抱えている荷物の重みや
整理の過程までは、
手を貸してもらえないし、
受け取ってもらえるわけでもない。

これまで、内省を通して
自分の思考や行動の癖は、
散々掘り下げてきた。

今回の適応障害は、もちろん前提として、
そういった自分の内的要因が経緯に存在する。

けれど、それと同時に、外的要因
つまり、業務環境の性質によって
引き起こされていた
部分もあるはずだと考えてしまう。

その自分と社会との不一致によって
もたらされたのが、
今回の顛末だと捉えている。

リワークの施設では、
職業適性を見つめ直すプログラムがある。

この前のリワークでの自習時間、
その課題に取り組んでみた。

テーマは「これまでいちばんゆるせなかったこと」
について。
僕は迷わず、以前の職場の状況を書き出していた。

・更改案件は候補ベンダのプレゼン議事録、
 提案機種の精査、
 QA表対応に常に追われていたこと

・障害試験では、試験条件→具体的な環境への
 落とし込みと、
 実試験対応が分業できず、
 どちらも抱えて対応する必要があったこと

・是正対策作業は、会社と作業ベンダともに
 未経験の作業にも関わらず
 短納期での強行を押し切ったこと

・未経験作業にも関わらず、作業計画、
 確認項目の選定、ベンダーコントロール、
 関係部署への調整対応を、
 協力会社要員の自分に一任させていたこと。

「これまでいちばんゆるせなかったこと」


書き出してみると、そのほとんどが
「何を持たされているのかわからないまま、
荷物だけ増えていくこと」への怒りだった。

書いていて、身を削っている感覚があった。
その日はリワーク施設から帰宅した後、
そのままベッドになだれ込んでしまった。

世間では、マルチタスクとは
複数の作業を切り替えながら、
一つずつ処理することだと言われる。

けれど僕にとって、
それらは机の上にロジカルに、
並べられたようなものではなかった。

僕の両手は、誰にも肩代わりされることなく、
荷物の重みをフィジカルに抱えている。

その荷物から、その場その場で必要なものを
取り出し、
適切な相手に、適切な形に整えて手渡していく。

僕にとってのマルチタスクとは、
そういうものだと思う。

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