俳句チャンネル ~文体と表記(その3)~
【はじめに】
今日の記事では、2020年11月19日に「夏井いつき俳句チャンネル」にアップされた動画『【文体と表記③】全部で4パターン!整理してみましょう』を軸にお話ししていきます。
「シリーズ文体と表記」(その1)では「文体(文語と口語)」について、
(その2)では「表記(旧かなと新かな)」について見てきました。
そして今回のポイントとなるのは、「文体(その1)」「表記(その2)」がそれぞれ2パターンあって、それらが組み合わさって、4パターンになるという点です。そこの点について見ていきましょう。
1.文体2×表記2=4パターン
一般的には「文語旧かな」と「口語新かな」がスタンダードと言いますか、昔の人にとっては「文語旧かな」が、現代人にとっては「口語新かな」が、馴染みが深いものです。自然に使ってきたから「蓄積」も多いのでしょう。
ただ実際には文体と表記でそれぞれ2パターンあって、それを掛け算すると「2×2=4」パターンが存在することが分かります。すなわち、
文体 表記
「文語」 「旧かな」
✕
「口語」 「新かな」
ですから、「文語旧かな」「口語新かな」は勿論ですが、「文語新かな」や「口語旧かな」の句もパターンとしては存在し、むしろ、言われてみれば、自然と作句例は溢れていますよ? 例えば、
2.プレバト!! 梅沢富美男永世名人の4パターン
これまでに記事で紹介してきた「プレバト!!」俳句の中で、この4パターンを全て使ってきている数少ない人物の1人、「梅沢富美男」永世名人の句を4句ご紹介することにします。
(口語新かな)蜜柑「け」とばっちゃが降りた無人駅
(文語新かな)旱星ラジオは余震しらせおり
(口語旧かな)夜学果てまだ読みふけるおとがひよ
(文語旧かな)読み終へて痣の醒めゆくごと朝焼
名人に敬意を評し、いずれも高評価を得た俳句からピックアップしました。
(文法的な手落ちではないとの前提に立って話を進めます)
「その2」でも触れましたが、『しらせおり』の「お(を)」と、『おとがひ』の「ひ(い)」は、新・旧かなで表記が分かれる部分です。

敢えて選んだ理由を求めるとすれば、やはり内容(そして時間軸)が、現代か否かではないかと思います。梅沢名人は、自身の経験談や昔話などをありありと語られる様に、昔のことは昔のことと割り切って「回想」するように作句する傾向が強い方だと感じます。
基本的には「文語旧かな」をメインに作句されていますが、古めかしくしたくない、もっと言うと「文語旧かな」を選ばない方が良いと判断した場合、積極的な姿勢で文体や表記を“使い分けている”のだと感じました。
皆さんの好みとして使い分けるかは別にしても、技術として「使い分ける」だけの知識を身につけておくことが望ましいのではないかと考える次第。
3.名句を4パターンで書いてみる
文体と表記の違いをより明確にするには、1つの句を4パターンで並べるのが一番ではないかと思います。例句として動画内で取り上げられていたのが「妻がゐて」の句です。
(口語新かな)妻がいて夜長を言ったそう思う
(口語旧かな)妻がゐて夜長を言つたさう思ふ
(文語新かな)妻がいて夜長を言えりそう思う
(文語旧かな)妻がゐて夜長を言へりさう思ふ 【原句】
一番下が原句です。「文語旧かな」とすることで、奥深さや趣が増す一方、「口語新かな」だと何か『日記の一文』みたいに味気なくなる ということを前回(その2)の記事でもお書きしました。

これらの比較は、動画内で数分かけてじっくりやっているので、そちらをご覧いただければと思います。極端に言えば、1句勝負を仕掛ける時(いわば「プレバト!!」のタイトル戦のような場面で)は、4パターンすべて書き出してみて、どれが一番魅力的かを比較してみると良いかも知れません。
例えば、「潮騒(しおさい)」を漢字で書かず平仮名で書くに際し、旧かなが「潮騒(しほさゐ)」という見慣れない表記であることを知ったり、調べたりすれば、その字面の特殊性を『活かせる』場面がありそうです。
しかし「文体と表記を選べる」ことを知らなければ、魅力を“より”引き出す一工夫の可能性に気づかず終わってしまう訳です。

【おわりに】
シリーズの「まとめ」回となる『文体と表記(その3)』を更に纏めると、
4パターンあることをまず知って、それを使い分けなさい
ということになるでしょうか。そして、そのためには、使いこなせるだけの知識と作句経験が必要になるのだと思います。
4パターンには「文語新かな」や「口語旧かな」も存在することを意識し、引き出しの一つとして行けるかが上達の一つのポイントでしょう。
何せ、「プレバト!!」の名人・特待生だって、意識して4パターンを使いこなせている人間が数えるぐらいしか居ないのですから、この使い分けを意識するだけでも「プレバト!!」の特待生クラスにあるといっても過言ではないと思います。

もちろん俳句の内容も重要なのですが、その魅力を更に引き出すのが「文体と表記」なのだと理解していただくキッカケになれば幸いです。
かく言う私も大半が「文語新かな」だったので、他のパターンも“意識”して作るように心がけたいなと思いました。それではまた次の記事でお会いしましょう、Rxでした!
