中国市場で日本企業は何を見直すべきか― 競争激化のなかで考える、収益性・本土化・協業の選択肢 ―
中国市場で事業を続けるべきか?それとも、縮小や撤退を検討すべきか?
在中国日本企業をめぐる議論は、しばしばこの二者択一で語られます。しかし、実際の企業経営はもっと多様で、複雑です。
黒字を維持しながら新たな投資には慎重な企業もあれば、特定の事業を縮小しつつ、成長分野へ経営資源を移す企業もあります。中国国内の販売を強化する企業、中国企業との協業を進める企業、中国拠点を第三国市場への展開に活用する企業もあります。
業種、顧客、技術、収益構造、進出地域、事業段階によって、選ぶべき方向は異なります。事業の縮小や再編も、将来を見据えた経営判断の一つです。
私自身、長年にわたり日中企業の交流、事業相談、市場調査、通訳・翻訳、企業間の橋渡しに関わってきました。その経験から感じるのは、中国市場を楽観的に見ることも、悲観的に決めつけることも、企業の具体的な判断にはあまり役立たないということです。
重要なのは、「残るか、撤退するか」だけではありません。自社が中国で誰に、どのような価値を提供し、どこで利益を得るのかを改めて考えることではないでしょうか。
1.黒字と拡大意向のギャップをどう読むか
ジェトロが2025年8~9月に実施した「2025年度 海外進出日系企業実態調査(中国編)」には、中国に進出する日系企業791社が回答しています。
同調査によると、2025年の営業利益を「黒字」と見込む企業は63.2%でした。前年の58.4%から4.8ポイント上昇し、4年ぶりに6割台を回復しています。
一方、今後1~2年の事業展開について「拡大」と回答した企業は21.3%にとどまり、調査開始以来の最低水準となりました。「現状維持」は64.3%、「縮小」と「第三国・地域への移転・撤退」は合わせて14.4%です。
黒字企業は決して少なくありません。しかし、黒字であることと、積極的に投資を拡大できることは同じではありません。現在の利益を維持しながら、今後の需要や競争環境を慎重に見極めている企業が多いと考えられます。
業種による違いも見逃せません。「拡大」と回答した割合は、食料品と小売業では5割を超え、精密・医療機器、化学・医薬、電気・電子機器でも3割を上回りました。その一方で、建設業、金融・保険業、輸送機器部品では、4分の1を超える企業が「縮小」と回答しています。
中国市場を一括りに評価するのではなく、自社の分野ごとに需要・競争・顧客・収益性を丁寧に見極める必要があります。
2.中国拠点の役割を見直す
中国は長く、日本企業にとって重要な生産拠点であり、同時に規模の大きな販売市場でした。しかし、現在はそれだけでは十分に捉えきれません。
中国企業の技術力や品質は向上し、商品開発から市場投入までの速度も上がっています。ジェトロの同調査では、製造業の8割超、非製造業の約7割が、中国企業を最大の競争相手と回答しました。
前回の記事では、日中製造業の競争が、完成品だけでなく、部品、材料、設備、制御、ソフトウェア、サービスへ広がっていることを取り上げました。また、中国企業は競争相手であると同時に、顧客、供給者、協業相手にもなり得ると書きました。
こうした競争環境の変化を踏まえると、在中国日本企業がまず見直すべきは、「中国拠点を何のために持つのか」という根本的な問いです。
中国拠点の役割は、大きく次の4つに整理できます。
日本・中国向けの生産・調達拠点
中国国内向けの販売・サービス拠点
現地ニーズを捉える商品開発拠点
中国の供給網を活用する第三国展開拠点
どれか一つに絞る必要はありません。複数の役割を持つ拠点も多いでしょう。
ただし、役割が曖昧なままでは、どの分野へ投資し、どのような人材を配置し、何を現地で開発するのかという優先順位が定まりません。
中国国内での販売を重視するのであれば、現地顧客のニーズをつかむ営業力やサービス体制が必要です。開発拠点として位置づけるなら、現地の声を商品へ反映できる人材と権限が欠かせません。第三国展開に活用するなら、対象市場の商品仕様、物流、コスト、品質基準まで検証する必要があります。
「中国市場は大きいから続ける」という判断から一歩進み、中国拠点が自社の事業全体のなかで、どのような価値を生み出すのかを明確にすることが重要です。
3.本土化は、コスト削減だけではない
日本企業が中国で本土化を進める場合、現地調達率の引き上げや生産コストの削減が中心になりがちです。しかし、現在求められる本土化は、もう少し広いものだと考えます。
まず、三つの誤解を整理しておきたいと思います。
本土化は、単なるコスト削減ではない。
本土化は、権限を全面的に現地へ移すことではない。
本土化は、日本人駐在員を減らすことではない。
本土化とは、市場に近いところで判断した方がよい分野を見極め、現地法人が迅速に動ける仕組みをつくることです。
具体的には、顧客対応、商品改良、市場投入、販売方法、現地人材の登用と処遇などが挙げられます。
中国市場では、顧客の要望や競争条件が短期間で変化します。現地法人が変化を把握しても、判断を日本本社へ持ち帰り、何段階もの承認を経ている間に、競合企業が先に商品を投入することもあります。
ジェトロ調査でも、在中国日系企業は、競合と比べて「性能・品質の高さ」や「アフターサービスの充実度」に強みを感じる一方、「価格」や「市場投入までの速さ」には弱みがあると認識しています。
もっとも、現地法人にすべてを任せればよいわけではありません。品質、安全性、ブランド、知的財産、財務管理など、本社が共通基準を維持すべき分野もあります。
本社が管理する部分と、現地が判断する部分を明確にし、顧客対応や商品改良に必要な権限を適切に移すことが大切です。
現地人材の登用についても、責任だけを増やして権限を与えなければ、本当の意味での本土化にはなりません。中国市場を理解する人材が経営判断にどこまで参加できるのか。責任に見合った権限や処遇が用意されているのか。長期的に働きたいと思える組織になっているのか。ここまで含めて考える必要があります。
4.日本企業の強みを顧客価値へ変える
日本企業の技術力、品質、耐久性、安全性、アフターサービスは、現在も重要な強みです。しかし、「優れた技術がある」「品質が高い」と説明するだけでは、必ずしも顧客に選ばれません。
顧客が求めているのは、技術そのものではなく、その技術によって何が改善されるかです。
例えば、ある設備メーカーが、競合製品より価格が高い理由を「高品質だから」と説明するだけでは、顧客には十分に伝わりません。
一方、設備の導入価格だけでなく、故障による生産停止時間、部品交換の頻度、保守要員の作業時間、不良品の発生率などを導入前後で比較できれば、品質の違いを具体的な経済価値として示せます。
これは設備に限りません。安全性、安定供給、納期、サービス対応なども、それによって顧客の事業がどう改善されるのかまで示して、初めて市場価値になります。
逆に、性能差が顧客の使用場面ではほとんど表れない場合、価格差を納得してもらうことは難しいでしょう。日本仕様をそのまま持ち込み、顧客が必要としない機能や品質まで付けることが、かえって競争力を弱める場合もあります。
大切なのは、すべての顧客に同じ価値を提供しようとしないことです。
価格を最優先する顧客と、安定稼働や安全性を重視する顧客では、求める商品もサービスも異なります。自社の強みを評価する顧客を見極め、特定分野へ集中することも一つの選択肢です。
市場シェアの大きさだけではなく、どの顧客に、どの価値を提供すれば、継続的に利益を得られるのか。この視点は、これまで以上に重要になっています。
5.差別化と協業をどう使い分けるか
中国企業との競争が激しくなるほど、「日本企業らしさ」を守ることが強調されます。しかし、自社ですべてを抱え込むことが、必ずしも競争力につながるとは限りません。
中国企業が強みを持つ部品、ソフトウェア、デジタル機能、販売網などを活用しながら、日本企業が品質管理、精密技術、顧客対応、保守サービスなどを担う組み合わせも考えられます。
共同開発、現地調達、共同販売を通じて、商品開発の速度やコスト競争力を高められる可能性もあります。中国で開発した商品や構築した供給網を、他のアジア市場や第三国市場へ活用できる企業もあるでしょう。
一方で、協業には、品質管理、責任分担、契約、知的財産、顧客情報の管理などの課題があります。協業そのものを目的にするのではなく、自社が守る技術や顧客接点と、外部の力を活用する分野を分けることが欠かせません。
競争するのか、協業するのかという二者択一ではありません。どこで競い、どこで組むのかを、自社の収益構造に合わせて考える必要があります。
中国市場における活路は、事業拡大だけを意味するものではないと思います。
成長分野へ集中する。高付加価値分野へ移る。非日系顧客を開拓する。中国企業と協業する。販売やサービス体制を見直す。場合によっては、採算性の低い事業を縮小・再編し、経営資源を別の分野へ移すことも、将来へ向けた経営判断です。
まずは、自社の中国拠点の役割を一枚の紙に書き出してみてはいかがでしょうか。
中国拠点は、現在どのような役割を担っているのか
誰に、どのような価値を提供しているのか
売上ではなく、どの分野で利益を生み出しているのか
本社と現地法人の権限分担は、市場の速度に合っているのか
そのうえで、本社と現地法人の意思決定の流れを整理すると、権限分担や対応速度のどこに課題があるのかも見えやすくなります。
「誰に、どの価値を提供し、どこで利益を得るのか」。
この問いを明確にし、自社が中国で果たす役割と、利益を生み出す仕組みを見直すことが、これからの活路を考える出発点になるのではないでしょうか。
今後も「在中国日本企業の活路」シリーズとして、本土化、現地人材、商品開発、中国企業との協業、第三国展開などを折に触れて取り上げ、現場で何を見直すべきかを考えていきたいと思います。
このシリーズで特に取り上げてほしいテーマがありましたら、ぜひコメントでお聞かせください。
主な参考資料
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※冒頭画像は生成AIを使用したイメージです。
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